その銀色の羽はエンピツくらいの長さで 『ポニイテイル』 ★59★
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「さてプーコと約束を交わしたことだし、そろそろ行かなくちゃ」
「どこへ行くの」
「もちろん、なくしちゃった角を……じゃなかった、ドコでもいいだろ。ああ忙しい。今日は行くとこいっぱいあるな」
ペガは部屋のドアの方へ歩いていきました。窓から入ってきたくせに、どうしてドアの方から出ようとするのでしょう。
「ねえ、ペガ、わたし、ペガが飛ぶところがみたい。そっちの階段はとても急で危ないよ。四つ足ならなおさら。ねぇ、窓から飛んでみせて! あ、そうだ! もしかしてわたしを背中に乗せて飛べたりする? すてき!」
プーコがペガの背中に飛び乗ろうとすると、ペガは体をねじって逃げました。
「ダメダメ。もう、やめてよ! プーコはプーコらしく、もっとこわがりで、心配ばかりしてなくちゃダメだろ。背中に乗りたいだなんて、とんでもない!」
プーコにもなぜだかよくわかりませんが、ペガと話していると「冒険したい!」という気持ちがムクムクとふくらんでくるのです。
「背中に乗って飛びたい!」
「ダメ。うーん、じゃあさ、競走しよう! ボクは窓から飛んで下におりるから、プーコはドアの方から走って。先にあの木に触った方が勝ち」
ペガは白くてかたいハナ先でプーコをつついて、ドアから部屋の外へプーコを追いやろうとしました。プーコはもちろん、ありったけの力で押しかえしました。
「飛ぶ方がいい! それに出かけるなら戸じまりをちゃんとしなくちゃいけないんだから。わたしが窓のカギをかけるには、ペガが先に出なくちゃダメでしょ」
「ううう。ええとねぇ、そうだ、子どものペガサスは飛ぶところを人に見られちゃダメなんだよ、知らないの? 生物学校に入りたいならこのくらい覚えておきなよ。基本だよ、まったく。じゃあ、ボクは窓からカッコよく飛んで出るから、プーコはドアの方を向いて、しっかり目をつむっていて」
もしかして……ペガは飛ぶのがニガテなんじゃないかしら! プーコのカンは鋭いのです。さっきは30センチくらい浮きましたが、その場面を思い返してみると、空を自由に駆け回るほどのヨユウはなかったような気がします。頑張って30センチ、という感じでした。最初はピューっと空を飛んでこの部屋へやってきたのかと思いましたが、それにしては登場したときのペガの息は乱れすぎていました。
プーコはペガが外の木にしがみついて、なんとか上にはいあがって、屋根をつたって窓から顔をのぞかせる様子を思い描いて思わずふき出しそうになりました。この可能性はおおいにありえます。
きっと飛べないことを隠しているのでしょう。ならばこれ以上こまらせては気の毒です。プーコは気づいたことを悟られないように、笑みを隠してペガにいいました。
「わかった。窓のカギは今日はかけなくていいや。わたしはこっちから下りる。下まで競争だよ!」
「うん!」
その後、ペガは飛べないだけでなく、歩くスピードまで遅いことが判明しました。
「なぁ、もうこのヘンでいいだろ」
「だってわたし、もう受験勉強なくなったから、ヒマなんだもん」
「ついてくるなよ。ホンキで怒るぞ!」
「じゃあ最初の目的地まで送らせてよ」
「最初の目的地? 何だそれ」
「だって、行くとこいっぱいあるんでしょ。もしかしてわたしがもらうはずの角、なくしちゃったの?」
「うううう」
ペガはしばらく悩んでいたようですが、いいアイデアを思いついたのか、急に翼をバサバサと羽ばたかせました。
「そうだ! 誕生日の前にあどちゃんの家の場所を教わっておこう。どっち?」
「え? あどちゃんの家?」
「おう。どこだ?」
「ええと、あれれ。こっちの方……かな?」
プーコはあどちゃんの家の正確な場所を、ちゃんと知りませんでした。プーコとあどは、おたがいの家で遊んだことは一度もなかったのです。昔、誰かが「あどちゃんの家はマレーばくの家のそばの、キノコみたいな形の家だよ」と話していたのを思い出して、マレーばくのいる森のほうへ行ってみたのですが、それらしいキノコの家はありませんでした。
「ふん。プーコは親友のくせに、あどちゃんの家がどこかも知らないの?」
ペガはなかなかキツイことをいいます。仕返しに「ペガはペガサスのくせに空も飛べないの?」と言おうかと思いましたが、プーコはぐっとこらえました。
「知らないなら道案内なんてやりたがるなよ、まったく」
「だれもアンタの道案内なんてやりたがっていないよ!」
プーコは思わず乱暴な言い方をしてしまいましたが、ペガは気にするようすはまったく見せませんでした。
「面倒くさいな。またブラウニー図書館で調べなくちゃ……」
「ん! ペガ、まさか、ブラウニー図書館に行ったの?」
「そうだよ。あそこでプーコの家の場所を調べたんだ。ちぇ、ついでにあどちゃんの家も調べれば良かった。オレ様としたことが」
「わたしの家の場所を調べた?」
「まあいい。もうこれ以上、オレの後をついてくるんじゃないぜ。世話になったな」
「何をカッコつけているの」
まったくヘンなポニイです。プーコが絵本や物語で知っているのは、もっと気高くて、やさしくて、強くて、美しいペガサスでした。せっかくペガサスに会えたというのに、これでは、恥ずかしくて自慢できません。
「ユニの角はしっかり握れよ。じゃあな。あばよ!」
ペガは翼をバタバタと振ったあと、よろよろと歩いて去っていきました。途中でふり向くかな、と思ってプーコは見ていましたが、ペガは哀れなようすで一本道に消えました。
「ヘンな子……」
そのときです。プーコの足もとで何かがキラリと光りました。一本の銀色の羽が落ちています。ペガの翼から落ちた羽です。
「きれい……」
その銀色の羽はエンピツくらいの長さで、空にかざすと、天使の羽のようにキラキラ光ります。先端に向けて虹色のすじが何本も入っていました。この羽は、絵本や物語でも見たことのないほど素敵な羽でした。
驚いたことにペガの羽を手にしていると、世界に対して怖いものが一つもなくなったような、勇ましい気分に満たされるのでした。そしてプーコは突然、前からおそれていたブラウニー図書館へ行くことを決意したのです。しかも、たったひとりで!
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