弁理士ハリママの発明寺子屋®第5話

株式会社AI Samuraiの取締役CIPO(知的財産最高責任者)、弁理士の播磨(はりま)里江子です。
このnoteでは、主婦や母親としての視点と、弁理士という知的財産専門家としての視点とを掛けあわせることで、発明は難しいことではなく、誰にでも出来るということを説明していきたいと思います。

本日のテーマは、『AI Samurai』って一体何なの?第二弾。
皆さんが考えた発明は全て特許になるのか?誰が特許を判断するの?という疑問について、お話したいと思います。

■夏休みの宿題
8月と言えば夏休み。夏休みと言えばたくさんの宿題…
皆さまが子ども時代は、どのように夏休みの宿題をこなしていましたか?
宿題をもらってきたその日のうちから取り組み始めるタイプ、夏休みの最後に慌てて取り組むタイプ、まずはスケジュールの組み立てに取り掛かるタイプ…。発明と同じように、宿題に対して様々なアイデア&取り組み方が存在すると思います。

子ども時代は宿題をこなす側でしたが、母親となった今、“夏休みの宿題を子どもがきちんとやっているかを確認すること”が新たな夏休みの宿題になるとは想像していませんでした。
暑い毎日。子どもの宿題の進捗管理も、この夏の仕事の一つとなりました。

そこで、、、もはや職業病というか、AI Samurai病かもしれませんが、子どもの宿題の進み具合を管理するシステムなるものを考えた人が既に存在するのか?が気になり始め、いてもたってもいられなくなり、AI Samuraiをたたいてみました。

「夏休みの宿題を子どもにかわって管理してくれる宿題管理システムであって、宿題の内容を入力すると、夏休みの間、毎日の学習スケジュールを通知してくれるシステム。」<AI Samuraiに入力。カタカタ。。。>

・・・出てきました!!
引例:特願2003-419403。出願人:株式会社栄光。
なるほど。学習塾の講師と生徒の管理を行い、効率的な学習指示書、指導報告書を作成する個別指導管理システムのようです。
栄光ゼミナールなど、全国に学習塾を展開されている有名な会社ですね。2003年の時点でこのようなシステムまで考案されているようです。私が求めていた母親代行のためのシステムではないようですが、約20年程前に既にこのようなシステムまで検討されているなんて、すごいですね!

さて、それではそろそろ発明寺子屋の本題に戻りたいと思います。

1.発明したらすべて特許になるのか?

第4回では、特許権は、発明に対するご褒美のようなものであることをお話しました。では、皆さんが考えた発明は、全てそのまま特許が認められ、ご褒美が貰えるのでしょうか?

答えはNOです。少し難しい答え方をすると、特許権が与えられるのは、発明が特許法という法律で定められた要件を満たす、と認められる場合だけということになります。

では、発明に「特許権」を与えるべきかどうかという判断は、一体どこ(Where)に対して、誰(Who)が判断を行っているのでしょうか?そして、このような判断をしてもらうためには、発明者さんは考えた発明をどのように(How)すればよいのでしょうか?

2.発明から「特許」を取得するためには

自分が考えた発明が「特許」を取れるかどうかを判断してもらためには、まず、発明の内容を文章や図を用いて書類にまとめて、「出願」という手続をする必要があります。
書類の提出先は、「特許庁」です。早口言葉に「東京特許許可局(とうきょうとっきょきょかきょく)」という言葉がありますが、実は許可局は実際には存在しなくて、特許庁という行政機関があるのですね。
そして、その特許庁に在籍している「審査官」という方々が、出願された書類に不備がないか、そして発明が新しいかどうか等を調べ判断をしてくれます。
※出願をするだけでは審査は開始されません。出願日から3年以内に、審査を開始して下さいという意思表示(審査請求手続)を行うことで初めて、審査が開始されます。

3.発明が新しいかどうか

発明が新しいかとは、どういうことでしょうか。
第2回において、発明とは「工夫でまだない初めてをつくり出す」こととお話しました。発明の多くは、発明者さん自身がアイデアを考え、工夫し試行錯誤した結果生まれますので、発明者さんのほとんどは、“これこそまだない初めてだ!”とご自身で確信しています。

ですが、ここで大切なのが、主観的な自分だけのまだない初めてだけでは足りず、客観的なみんなが認めるまだない初めてであるということ。発明が特許として認められるためには、主観的な新しさだけでなく、客観的な新しさの両者が必要ということになります。

ではさらに、客観的な新しさとは何なのでしょうか?
それは、過去に同じ様な発明(技術)が存在しないということ。
特許庁の審査官は、出願された発明が「客観的なまだない初めて」であるかどうかを膨大なデータベースの中から調査し、丁寧に確認をしてくれているのです。過去の特許文献はもちろんのこと、論文や、雑誌、インターネットの情報など、日本だけでなく世の中に公開されているあらゆる情報に基づいて確認を行います。これを「審査」と呼びます。

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この審査で、出願した日を基準に、一日でも前に同じ様な発明が見つかった場合には、提出した発明は特許として認められません。
逆に、同じ様な発明が見つからず、その他の幾つかの要件も満たすと判断された場合には、提出した発明は特許として認められる可能性が出てくるということになります。

4.まとめ

今回は、
①発明を思い付いて特許を取りたい!と思った場合には、
・どこに(Where):特許庁
・どのように(How):発明の内容を文章や図を用いて書類にまとめて出願
・誰が判断(Who):審査官が判断
をすること、そして、
②発明が特許として認められるためには、
・主観的な新しさだけでなく、客観的な新しさの両者が必要
ということを学んで頂きました。

「新しさ」の具体的な判断方法については、ちょっと複雑になりますので、また次回以降、どこかでお話したいと思います。


執筆者プロフィール

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播磨 里江子 取締役 CIPO
慶應義塾大学理工学部卒・大学院修了(管理工学科)
小学生のときに海岸でテトラポットを見て「特許」を知り、在学中に弁理士資格を取得。
特許事務所及び企業知財部を経て、特許業務法人白坂の役員就任、その後2016年に株式会社AI Samurai(旧ゴールドアイピー)の取締役に就任。弁理士、特定侵害訴訟代理業務付記、東京都医工連携HUB機構APM、日本弁理士会関東支部知財教育支援委員、書道検定七段。
ミュージカル全般をこよなく愛するヅカオタの一人、知財教育および和文化への関心が強い一児の母親でもある。

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