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あいこうの創作物

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スーパーサブ【創作短編】

スーパーサブ【創作短編】

トイレの個室に入り鍵をかけると、とりあえず座り込んだ。

極度の緊張。

呼吸は浅く、手先が小刻みに震えている。目を閉じ、祈るような体勢で呼吸を整える。こんな時は決まって、子供の頃のある記憶が頭をかすめる。

「そこの野球帽をかぶった君!手伝ってもらえるかな」

ビシッとした黒いスーツの男性から、突然の指名を受けてステージに上がった。小学2年生の時に、母親と見に行ったマジックショー。

「このステ

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【ピリカ文庫】たまには何かのせいにして

【ピリカ文庫】たまには何かのせいにして

夜空に打ち上がった最後の花火は、ひときわ大きく、ひときわ派手だった。 

ドン!という音と共に夜空に開いた大輪の花は、まるで空から降ってくるかのような余韻を残して夜空に消えていく。

隣にいる春香さんを見ると、「わぁ!」と打ち上がる花火の様子に目を奪われていた。
いつも職場でしか見たことのなかった先輩が浴衣姿で隣にいる。それだけでも特別なのに、花火が開いた時の光に照らされる彼女は、いつにもまして魅

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グラデーション【ショートショート】

グラデーション【ショートショート】

いつだって、本当に幸せを感じる時は一瞬だ。

宮崎の街中、とあるビルの7階。
部屋のベランダから眺める街の様子は、時間が経つにつれてその表情を変える。一番好きなのは、朝日が昇り町が光で色付いていく瞬間。暗い夜を抜け、新しい一日が始まる時に生まれるグラデーションがたまらなく好きで、それを見ているだけで幸せな気持ちになる。

今いるビルは築40年らしい。建物としては所々に綻びがあるが、ビルの上部が斜め

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ツケ払い、ニャー【短編創作】

ツケ払い、ニャー【短編創作】

「で、払ってくれる?あの女の借金1,000万円」

突然の取り立てに、父親は困惑していた。
昼過ぎの休憩時間。
さっきまで、スマホで好きなお笑いコンビのネタを観ながら笑っていたのに、今は怒りに体を震わせている。

「こんな小さな定食屋に、そんな額を払えるわけがないだろ!」

父親は抗うが、借金取りは首を横に振る。

「保証人の欄にサインと印鑑がある。これ、あなたのだよね?」

見せられた書類を奪い

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あえての「あんパン」【#2000字のドラマ】

あえての「あんパン」【#2000字のドラマ】

買ったばかりのヘアワックスを指ですくう。

1回のセットで使う量は10円玉程度の量が良いと、この前買った雑誌に書いてあった。
手のひらで薄くなるまでよく伸ばして髪に付けていく。そして仕上げに、短い前髪をグッと立てた。
「よし」と小さく頷き、口角を上げて鏡の中の自分に笑いかける。

「おはよう」

…ちょっと声が小さいか。トーンも暗い気がする。

「おはよー」

ラフ過ぎるか。適当な感じもする。

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