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スーパーサブ【創作短編】
トイレの個室に入り鍵をかけると、とりあえず座り込んだ。
極度の緊張。
呼吸は浅く、手先が小刻みに震えている。目を閉じ、祈るような体勢で呼吸を整える。こんな時は決まって、子供の頃のある記憶が頭をかすめる。
「そこの野球帽をかぶった君!手伝ってもらえるかな」
ビシッとした黒いスーツの男性から、突然の指名を受けてステージに上がった。小学2年生の時に、母親と見に行ったマジックショー。
「このステ
グラデーション【ショートショート】
いつだって、本当に幸せを感じる時は一瞬だ。
宮崎の街中、とあるビルの7階。
部屋のベランダから眺める街の様子は、時間が経つにつれてその表情を変える。一番好きなのは、朝日が昇り町が光で色付いていく瞬間。暗い夜を抜け、新しい一日が始まる時に生まれるグラデーションがたまらなく好きで、それを見ているだけで幸せな気持ちになる。
今いるビルは築40年らしい。建物としては所々に綻びがあるが、ビルの上部が斜め
あえての「あんパン」【#2000字のドラマ】
買ったばかりのヘアワックスを指ですくう。
1回のセットで使う量は10円玉程度の量が良いと、この前買った雑誌に書いてあった。
手のひらで薄くなるまでよく伸ばして髪に付けていく。そして仕上げに、短い前髪をグッと立てた。
「よし」と小さく頷き、口角を上げて鏡の中の自分に笑いかける。
「おはよう」
…ちょっと声が小さいか。トーンも暗い気がする。
「おはよー」
ラフ過ぎるか。適当な感じもする。