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『美味しんぼ』を通じて理解する『非言語の知』と調理ロボットの将来性

 今回は『非言語の知』と、生成AIが関連する様々なサービス産業と、調理ロボットと、多岐にわたるトピックスに関してリクエストをいただいたので、かなり詰め込んで説明をしてみます。

 本来であれば、ファッションに関するテーマだけでも、ファッションのサプライチェーン全体だけでなく、ファッションモデルの生成AI問題から、消費行動まで全てにわたって、異なる生成AIが関連しているので、ファッションだけでも数十冊の本にまとめて説明する必要がある質問内容です。

『非言語の知』『暗黙知』『タシット・ナレッジ』『ノウハウ』『匠の技』『職人芸』『体得知』『経験知』『達人技』『秘伝』などと関連した概念です。これらの言葉が指すのは、言葉や文字だけでは簡単に伝えられない、体験や実践を通じて得られる知識や技能のことです。

 特に経営学、会計学、M&A、弁理士、技術士、生産管理の世界では、この『非言語の知』の価値をどう評価するかが大きな課題の一つとなります。会計的には、デューデリジェンスの対象となる企業が所有している特許が、ロイヤリティや特許実施料の名目でキャッシュフローを生み出していれば、その特許の価値を算定するのはそこまで難しくはありません。
 
 しかし、同じ特許でも弁理士や技術士の視点では、特許が無効化されるリスク、クロスライセンスによる特許収入の相殺の可能性、新技術の登場による特許の価値低下リスクなど、さまざまな要因を検証すると、知的財産の将来価値を算定するのは非常に難しいです。

 特許権の中には、誰からも使用されていない『死蔵特許』も存在しますが、その特許が侵害されていることが明確になったり、死蔵特許技術にニーズが発生すると、大きな価値を生み出す可能性も秘めています。

 取得済みの特許書類には特許の内容や範囲が専門用語で厳密に定義されており、図表やデータなども明記してあるにも関わらず、その価値の判断は非常に困難ですが、更に困難なのが以下に説明する『非公開ノウハウ』のような言語や数字や金額で表現することが困難な『非言語の知』に関わる企業価値です。

 ライセンス契約では『ノウハウ料』を受け取ることもできますが、『非公開ノウハウ』の価値は、財務諸表には反映されませんが、企業や業態によっては、数値化できない価値が企業価値の大半を占めることもあります。

飲食店の価値?

 日本は工業国のイメージが強いですが、実際にはサービス産業がGDPの約70%、国内総従業員数では約80%を占めています。サービス産業は多岐にわたりますが、分かりやすい例として飲食店チェーンで説明します。

 飲食店の価値評価では、FL比率が頻繁に用いられます。FL比率とは売上高に占める食材原価(Food)と人件費(Labor)の合計の比率のことです。FL比率ではブランド価値などは一切考慮されていませんが、一人の顧客や従業員が不適切な写真をSNSで拡散するだけで、全国のフランチャイズのブランド価値が一気に低下し、日本最大のレストランチェーンが倒産に追い込まれる可能性も考えられます。

 このような問題は、顧客のマナーや、従業員の質の問題ですが、これらの価値やリスクは数値化することが困難であり、顧客と従業員のトラブルなどをデータで正確に予測することは不可能です。技術的には、AI技術を活用して、映画『マイノリティ・リポート』のような犯罪予測システムや、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のようなAI監視社会を実現すれば実現可能ですが、このような社会にならないようにするために必要なのがAI倫理の歯止めです。

 こういったデータで予測することが不可能なサービス産業でも、経営を成り立たせていること自体が、経営のノウハウ、経営者のカリスマ性、従業員のモチベーションや接客スキルと言った『非言語の知』の類に属するものです。こういった『非言語の知』は形式化や言語化やデータ化することが困難であり、データ化できないものは、自然言語処理AIだけでは処理できませんが、様々なAIシステムを組み合わせることで実現可能になります。

もし人型ロボットが美味しんぼの海原雄山に料理を作ったら

 料理ロボットが調理人以上の性能を発揮できるかどうかについては、初めて調理する人よりは、まともなものが作れるでしょう。大量生産の缶詰、スナック類、インスタント食品、調理済み冷凍食品などの加工設備の大半は、ロボット化されています。ロボットには様々な定義がありますが、人型、動物型や昆虫型である必要はなく、指先のようなマニピュレーターがついていなくても、以下のビデオのような装置も産業用ロボットに分類できます。

 しかし、もし人型調理ロボットが『美味しんぼ』の美食倶楽部で、以下のリンクで説明している『あらい』を作ったら、海原雄山『このあらいを作ったのは誰だぁ!!』と調理場に怒鳴り込んできて、『こんな機械油臭いあらいが食えるかぁ!!』と、クビにされてしまうでしょう。

 多くの日本人の味覚は、化学調味料や加工食品の味に慣れてしまっているので、そのような人々が作ったジャンクレシピを集めたクックパッドAIでは、海原雄山の口に合う食事は作れません。然しながら、AI制御ロボットでもクックパッドのレシピで感動している人々なら満足させることが可能だと思います。

 これは、料理だけでなく文章や絵や音楽でも同じことです。音に関しては、100円均一のイヤフォンで満足な人もいれば、その1万倍の100万円台の高級ヘッドフォンでも満足しない人もいます。以下のヘッドフォンシステムの値段は600万円です。

 最近、デジタルアーカイブ美術館の話題が多くなっていますが、実物の絵画から得られる感動と、デジタルアーカイブ美術館の画像データと文章による解説から得られる情報は全く異質です。然しながら、美術館に行ったことが無い人に、この違いを力説しても理解してもらうことは困難な課題です。

そう、ホイットニー美術館は、「ディアクセッション(deaccession)」に手を染めようとしているのだ。
「ディアクセッション」とは、他の作品購入の資金を得るために収蔵作品を売却することで、美術界の重鎮たちの批判を買う可能性のある行為だ。

ARTnews

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