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小説「黒の悪魔が死ぬまで。」

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伝承『黒の悪魔と旅人と。』に出てくる”黒の悪魔”。 その、空想の産物だと思われていた”黒の悪魔”が …ある日、突如として、現実世界にーーー誕生した。 さっぱり読める、安心…
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2023年10月の記事一覧

第17話「果たされない約束」

「だいたい…5時25分、ってとこか?」

このゆるいカーブの先、
森が少し開けた、広場のような空間があって。
その中央に、ヒマリと約束した…例の、”大きな切り株”がある。

天気は悪くないはずだが…
…ついさっき、ちょうどこの先から、
”落雷のような音と、空に黄色の稲妻”が、見えたばかりだ。

不思議と雨は降っていないが…山の天気は変わりやすい。
これから雨が降るとしたら、きっと最悪な告白になって

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第16話「悲劇はいつも、突然に」

「アオバ、これも運んでくれ!」

シゲ叔父さん、本当に嬉しそうだな。

「え〜?このテーブル、
これ以上乗るとこないんですけどぉ?」

自分の家で、薪割りやジャムの仕込みを終えた俺は、
誕生日会に向けて、黙々と料理をする、
シゲ叔父さんの手伝いに来ていた。

「まだまだ作るぞ!
ほら、新しいテーブルを出せばいいんだ!」

ワハハ、と豪快に笑い。
笑い方以上に豪快な動作で、隣の部屋から、テーブルを引

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第15話「黒の悪魔と死」

「意外と、遅くなっちゃったな。」

今朝、下ってきた道を、そのまま登る途中。
孤児院の近くで、アザミやモモナ、ミチカといった、
お決まりのメンバーに捕まった。

結局、モモナにつられて…各々が、道の真ん中で騒いでしまい。

「アナタ達ッ!
もう夜も近いんですよ!早く、建物に入りなさい!」

今朝のデジャヴのように、サラ院長に怒られた。

そして…

「特にヨウは…早く、中腹の森を抜けて山頂へ。

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第14話「さよならとハンカチ」

「はぁっはぁっ。
…これで!やっと!…ミッション、コンプリートっ!」

あの後、
レンに後をつけられてやしないかと…ヒヤヒヤしながらも。

何とか、誰にも邪魔されることなく、計画通りの物を、買うことができた。
俺の手には…キレイにラッピングされた紙袋が…2つ。

「こっちがヒマリで…こっちが、シゲ叔父さんの分っと。
間違えないように、しないとなっ。」

誰に言うでもなく。
メインストリートから、少

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第13話「抜け駆け」

「やっぱブレイズ隊長かっけー!
ヨウ、お前抜け駆けすんなよな。」

結局デザートを頼み、
少し面白くなさそうに、椅子を傾けて食べるレンに

「ふんっ。俺とブレイズ隊長の仲だからな。」

得意げに、そう返した。

自意識過剰かもしれないが、
ブレイズ隊長は、この辺の子供の中では、
特に俺を気にかけてくれている…気がする。

「早くホワイトノーブルに入って、
ブレイズ隊長の下で働きたいぜっ。」

レン

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第12話「昼食は前向きに」

「そうか、5時半に2人きりで会う約束をね。素敵じゃないか。」

ちょうどお昼どきだったので、座席数の多い、
大通りに面したお店に入った。

お互いパンに鶏肉を挟んだチキンバーガーを頼み

「チカラについての話があるって…
…変な誘い方、しちゃったんですけどね。

あ、でも!残るミッションは、いよいよ!
誕生日プレゼントを、買うだけですっ!」

注文の品がくる間に、
今の所の作戦は、概ねうまくいって

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第11話「真っ白は正義」

「やっと着いたぁ〜!」

ミタ山の、一番頂上に近い自分の家から、
麓の街”ジャアナ”に降りるまで、随分と時間がかかってしまった。

気付けばもうお昼が近い。

どこかで軽く食事でもして…
…ミッション2つ目に向けて、動き出さないと。

そんなことを考えていた矢先。
街の中央…大きな噴水の近くが、やけに騒がしいことに気付いた。

「はいはい、並んで並んで。
私はどこにも、行きませんよ。」

人混みの

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第10話「学校な孤児院」

「ズルい〜!もう1回やって!」

「またぁ?いい加減、覚えてくれないかなぁ〜。」

残すミッションはあと1つーー!
ジャアナの街へ着く直前、再度気合を入れ直し歩いていると。

道の脇に、大きな建物が見えてきた。

と同時に、聞きなれた声が2つ。見慣れた姿と共に大きくなっていく。

「だからぁ、次見せてくれたら、
モモなら絶対覚えるって!アザミ、お願いっ!」

「だからぁ、それ聞くの、もうこれで7回

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第9話「双子のような」

ーー7年前。

生まれ育ったリビ山で【黒の誕生】に、巻き込まれ…
…俺はここ、ミタ山に移り住んだ。

今、歩いているこの道。
ジャアナの街に下る大きめの道から、森の中に分岐するこの細い道。

”ある人”に会うために…
…俺はこの道を、7年間で何度通ったことだろう。

「あっ!ヨウ、おはよ〜!今日も暑いね〜。」

その”ある人”こと。

”ヒマリ・プリマナ”は、
道を歩いてくる俺に気付き、笑顔で挨拶

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第8話「愛しいあの子」

「あ!そういえば今日は愛しいあの子の誕生日か!
それで俺が、薪割り担当なのねぇ〜。」

玄関に着き、水桶を降ろした途端、

”ひらめいた!”
と言わんばかりの顔で、アオ兄がこっちを見る。

「アオバ様の優秀な弟、ヨウ君は、
もちろんちゃぁんと作戦を、練ってるんだろうなぁ〜?」

今日一番のニヤニヤ顔を、向けてくる。

「なっ、何が”愛しいあの子”だよ!ただの幼なじみ!」

赤くなりそうな顔を必死で

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第7話「水汲みは2人で」

「そういえば仕事、ちゃんと上手くいってるの?」

俺より少し後に食べ終わったアオ兄と一緒に、
食器を洗う水を汲みに、家のすぐ近くの井戸へ向かった。

その道中、
特に気になっていた訳では無いが…何となく。
仕事について、質問をしてみた。

…いや、本当は、何となく…じゃ、ない。
さっき父さんのことを、思い出した時…

アオ兄一人に頼りきりのこの生活が、

少し…申し訳なく、なったからだった。

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第6話「猫舌とケチャップ」

「っ!パンの、良い匂いする!」

(アオ兄が当番の日は、パン率高いよなぁ〜)と、
直近の朝食を、ぼんやり思い出しながら。1階キッチン横の、食卓の椅子に腰掛けた。

だけど…

…「あれ?」

”アオバ様特製の朝食”はテーブルに並んでいるが。
ついさっき朝食に呼んだ、”アオバ様”本人の姿は、どこにもなかった。

「アオ兄は食べないのー?」
どこにいるかも分からないが、そう広くない家だ、少し大きめの声

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第5話「分け与えよ」

「っ!パンの、良い匂いする!」

(アオ兄が当番の日は、パン率高いよなぁ〜)と、
直近の朝食を、ぼんやり思い出しながら。1階キッチン横の、食卓の椅子に腰掛けた。

だけど…

…「あれ?」

”アオバ様特製の朝食”はテーブルに並んでいるが。
ついさっき朝食に呼んだ、”アオバ様”本人の姿は、どこにもなかった。

「アオ兄は食べないのー?」
どこにいるかも分からないが、そう広くない家だ、少し大きめの声

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第4話「カラーズはどこに」

…今日も、ダメだった。
  
いくら朝の光を浴びても、”腕に”反応は、一つもなかった。

「なんでだよ…。」

部屋の姿見に写る自分の姿を見て、嫌というほど確認した両方の腕を睨みつける。
悔しくなって叩いてもつねっても、痛いだけで…相変わらず、何の反応も返ってこなかった。

…「なんで、俺だけ…。」

父さんも母さんもアオ兄も、俺以外の家族はみんな、
今の自分と同じ歳にはもう”チカラが発現”してい

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