第10話「学校な孤児院」

「ズルい〜!もう1回やって!」

「またぁ?いい加減、覚えてくれないかなぁ〜。」

残すミッションはあと1つーー!
ジャアナの街へ着く直前、再度気合を入れ直し歩いていると。

道の脇に、大きな建物が見えてきた。

と同時に、聞きなれた声が2つ。見慣れた姿と共に大きくなっていく。

「だからぁ、次見せてくれたら、
モモなら絶対覚えるって!アザミ、お願いっ!」

「だからぁ、それ聞くの、もうこれで7回目なんだって!
さすがに休憩させてよ。」

道の真ん中で、にぎやかに話す2人。
そんな2人に近付き

「アザミもモモナも、この暑いのに元気だな。」

2人よりは落ち着いた声で。笑顔で、声をかけた。

「ヨウ〜!聞いてよ!
またアザミがね、イジワルするの!」

「人聞きの悪いこと言うなっ!」

まるで漫才のように、

”アザミ・シャルーノ”は、”モモナ・ガッティ”に、

素早くツッコミをいれる。

もちろん、いつものように…

…デコピンの、オマケ付きで。

「いったーい!やったわね!」

毎度、お決まりの光景だ。

アザミとモモナは、この大きな建物…
…”孤児院”に住む、俺の友人で。

これが2人の”いつも通り”ってやつだ。

「もうっ!ヨウも見てたでしょ!暴力反対ー!」
プンプン、という言葉が似合いそうな勢いで、
くりくりとした大きな瞳で、こちらを見上げてくる。


モモナは、見るからに天真爛漫な、
ショートカットの女の子。

髪は明るいピンク色で、
その明るい性格と表情にピッタリだ。

歳は俺の1つ下で13歳。
7年前、【黒の誕生】で両親を亡くし、
この孤児院に引き取られたそうだ。

「僕のはね、暴力じゃなくて、
”コーチとしての指導”だよ。

…ていうかそもそも、もうちょっと
コーチをいたわってくれても…良いのにさぁ…。」

ハァ…と盛大にため息をつくアザミも、
モモナと同じ境遇で孤児院に来たそうだ。

歳は俺より4つ上で、アオ兄と同じ18歳。


アオ兄より少し背が高くて、
健康的な褐色の肌に、サラサラな金髪が眩しい。

少し垂れた優しげな目元なんか、
アオ兄よりかなり大人っぽくて。もちろん、その性格も。

カッコよくて優しくて頼りになる…
…のだが、孤児院では見ての通り。
モモナに、振り回されっぱなしらしい。

「モモも、早くヒト型にしたいの!
コーチの教え方が、悪い気がしますっ!」

ビシッ!と、右手を挙げる様子は、
まるで先生に抗議する生徒のそれだ。

「ヒト型は練習がいるっての!
ヒマリみたいに、すぐできる人の方が、特殊なんだってば。」

なだめるアザミも、
まるで本物の先生みたいだ。

どうやら俺が通るまで、一緒に”オーバー”を、
ヒト型に発現する練習をしていたらしい。

正直…羨ましい。

「モモナはもうちょっと…
…アザミの言う事、素直に聞いたほうがいいな。」

「なんで!?なんでヨウもアザミの味方なの!やだぁー!」

ぎゃあぎゃあと孤児院の隣、
街へ降りる道の真ん中で騒いでいると

「アナタ達ッ!
いくらこの時間は馬が通らないからって、
そんな所で騒いではいけませんッ!」

4階建ての孤児院の2階の窓から、サラ院長に注意された。
サラ・ライオネル院長は、この孤児院のお母さん的存在で。
歳は50代半ば。いつもは優しいが…怒るとそりゃもう怖い。

「ごめんなさいっ!!!!」

真っ先に反応したアザミに引っ張られ。
俺たちは孤児院の敷地内、門をくぐってすぐの中庭に移動した。

そんな俺たちに

「あなたたち、また怒られてるの?」

クスクスと笑いながら、
”ミチカ・ベリラルド”が、近付いてきた。

「カラーズを発現する練習中かしら?
…あら、ヨウが一緒なら、違うみたいね。」

1つ歳上で、いつも人をバカにしたような話し方…
…な、気がする。

赤みがかった茶色い髪をキレイに整え、
まるでお嬢様のような姿だが…性格は、勝ち気だ。

俺はいつも見下されてる気がして…

…まあ、正直苦手なタイプだ。


「…じゃあ、俺は街に用事があって、通りがかっただけだから。そろそろ行くわ。」

「そう?ま、発現者じゃない者同士、
また日を改めて…ゆっくり、お話ししましょう。」

ミチカに言ったわけじゃないのに…
…こうやって、すぐ会話に入ってくるのも苦手だ。

「あ、アザミとモモナ、
夕方6時、忘れないようにな。

シゲ叔父さんが、たくさん美味しいもの、作ってくれてるって。

『お腹すかして来てね。』って、ヒマリからの伝言。」

ミチカのことはひとまず無視して。
ヒマリとも仲の良い、アザミとモモナに向けて言う。

「おじさんのご飯楽しみだな!
モモナが遅れないように、ちゃんと一緒に行くよ。」

「モモがアザミを連れてってあげるの!感謝してよねっ。」

はいはい、と
仲の良い2人を笑顔で見守り。

面白くなさそうなミチカにも軽く手を挙げて、
俺は、孤児院をあとにした。

「…ミチカ、好きならさ、
もうちょっと優しくしないとだなぁ…。」

「うんうん。ミチカ、分かりにくいもん。」

「アザミもモモナも、大きなお世話だわっ。」

俺が門を出てすぐ。
3人は、何か盛り上がっている様子だったが…

…会話の内容までは、よく聞こえなかった。

ーーー【黒の再来】まで、あと6時間20分ーーー

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