第13話「抜け駆け」

「やっぱブレイズ隊長かっけー!
ヨウ、お前抜け駆けすんなよな。」

結局デザートを頼み、
少し面白くなさそうに、椅子を傾けて食べるレンに

「ふんっ。俺とブレイズ隊長の仲だからな。」

得意げに、そう返した。

自意識過剰かもしれないが、
ブレイズ隊長は、この辺の子供の中では、
特に俺を気にかけてくれている…気がする。

「早くホワイトノーブルに入って、
ブレイズ隊長の下で働きたいぜっ。」

レンは、ジャアナの街で、両親と暮らしている。

『今はまだ入隊するのは早い』
…と、止められているらしい。


「レン、お前は…”赤橙色”だから。
入れたとしても、部隊は…”暖色隊”、だろ?

残念だけど、
”寒色隊”のブレイズ隊長とは、離れ離れだな。」


そう、
ブレイズ隊長のカラーズは水色だから。
”寒色系の隊長”なのだ。


「なんだよ、自分が発現するなら”緑”…
…要するに、寒色系、だろうからってさ!
遠回しに、自慢するなよなぁ〜。」


面白くなさそうに、レンに言われる。

いや、俺は…

「…発現するなら、…紅色が、いい。」


これまで、何度として吐いたセリフを、
こりずにまた、レンにこぼした。


「お前、カラーズの話になると、昔っからそればっかだよな。
なんで紅色なんだよ?アオ君とも違うし。」

やれやれ、とレンに呆れられるのも、もう何度目だろう。

何故かはハッキリ言えないのだが…。

俺は、物心着いた頃からずっと、紅いカラーズに、憧れている。

…アオ兄とも、ブレイズ隊長とも違う。

できたら…真っ赤な…。。


「何でかは分からないけど!
俺は…っ!紅色が、いいんだっ!」

少し子供っぽい言い方になったし、頬まで膨らませてしまった。


「はいはい、そうは言ってもさぁ〜、
家系で似た色になんのが普通なんだから。
家族と全く違うってのは、ま…無理だろ。

そもそも”ヨウ”って名前も、
葉っぱの”葉(よう)”からきてるんだろ?」


「でもっ!絶対にないわけじゃないだろっ。
知らないけど、じいちゃんとか遠い祖先がさ、意外と…赤系かも、しれないしっ!」

納得したくなくて、意味もなくレンに食ってかかる。

「分かった分かった!この際ヨウは、
発現できりゃあ、何でも良いんじゃねっ?」

つい3ヶ月前までは、自分も発現していなかったからなのか、
何だかんだでレンは、最終的には、いつも俺を励ましてくれる。

…まあ、基本は…イジワル、なんだけど。


「で、ヨウが考えて、実践してる特訓、
最近どうなってんの?成果、出てんの?」

「あんまり…。
むしろ最近、何でか途中で意識が薄らいで。…気絶、しちゃうんだよね。」

はぁ?と、
呆れたような、驚いたような返事が返ってきた。

「ヨウ、お前無理して…アオ君に、迷惑かけるなよ?
仕事と俺の修行で、毎日疲れてるんだからさぁ。」


「…そう思うなら、アオ兄に、修行見てくれなんて頼むなよ。」

「…それは、ヤだ。」


レンは、アオ兄にも懐いていて。
ここでの7年間、ずっとこんな感じだ。

レンとは友達というより…もはや兄弟に近い。
俺たちは背格好もよく似ているし。そして…よく似てるといえば…


「あ!そうそう!今日はヒマリの誕生日じゃん!
プレゼント、まだ悩んでんだよな〜。」

「…。」

…好きな女の子も、
何だかんだで、気付いたら一緒だった。


「おい…、まさか…

ブレイズ隊長だけじゃ飽き足らず、
ヒマリまで、抜け駆けするつもりじゃ…ないよなぁ?」

じろり、と鋭い視線を向けられて。

「は、はぁ?そ、そんなことしないわ。」

そう言いながら、
咄嗟に目をそらしてしまった。


「…はぁ。お前なぁ、このレン様に、嘘が通じると思うなよ?
ったく、何年一緒にいると思ってんだよ。」

ベシっ!と、強めに頭を叩かれる。

「…誕生日会の前に、言う。」

はぁ!今日かよ!?という、
やけに大きなリアクションを受けて、さらに目をそらしてしまった。


うん…これ以上話してると、絶対ろくなことにならない。


「もう、決めたことだから!…じゃあな。邪魔するなよ。」

「あっ、ヨウ!!逃げんなっ!!」

いまだ、何か言いたげなレンから急いで離れ、
駆け足で、振り返ることなくお店をあとにした。


ーーー【黒の再来】まで、あと4時間と49分ーーー

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