第17話「果たされない約束」

「だいたい…5時25分、ってとこか?」

このゆるいカーブの先、
森が少し開けた、広場のような空間があって。
その中央に、ヒマリと約束した…例の、”大きな切り株”がある。

天気は悪くないはずだが…
…ついさっき、ちょうどこの先から、
”落雷のような音と、空に黄色の稲妻”が、見えたばかりだ。

不思議と雨は降っていないが…山の天気は変わりやすい。
これから雨が降るとしたら、きっと最悪な告白になってしまう。


「あと少し、耐えてくれよっ。」

空に向かって、祈るようにつぶやき。
小走りで、カーブを曲がる。


曲がった道の先、森が少し開けて、

ほら、目の前には…
約束の、大きな切り株が…


……

………?


「ヨウっ!来るっ、なっ!」


そこには…

…あるはずの大きな切り株も。

ーー居るはずのヒマリも、いなかった。


代わりに、目に飛び込んできたのは…

「アオ兄…?
…え、なっ!!!なん、だよ。これ…!!!!!」


切り株があったはずの場所は、大きく地面がえぐられていて。

本来生えていた切り株や草はなく、土がむき出しの状態になっていた。そして…


……そのむき出しになった地面の傍ら。

生気のない顔を上に向け、
口から……血を流し倒れている、人物。


あれは…。


…恰幅がよく、ガッチリと恵まれた体格。
ただその腹部には…地面と同じ、大きくえぐられたような、穴が。

そのポッカリと空いた傷口からは、
大量の血が流れだしていて。あれは…そう…


「シ…ゲ…叔父さん?」


目の前に広がる、
日常からあまりにかけ離れた光景に、
俺はただ、その場に立ちつくすことしか、できないでいた。

ただ…

「シゲ…叔父さん…!」

もう一度、目の前の惨状を受け入れられずに、口に出す。

俺の祈るような叫びが響いても…

…今朝、豪快に笑っていたその顔は、
ピクリとも反応せず…。返事は、返って…こなかった。


「な、なん…で…!!!!」

状況が分からず、ただ狼狽えるばかりの俺に、
もう一度、アオ兄の、必死な声が届いた。

「ヨウっ!
いいからっ、早く!ここから、逃げるんだっ!」

パニックになりかけていた意識が、アオ兄の方へ向く。

「アオ兄っ!なんでっ!」

俺も必死に叫ぶ。

アオ兄は、俺の前方3メートルほど先、
倒れたシゲ叔父さんの近くで、こちらに背を向けて、立っていた。


「いいからっ!今は、何も考えずに!とにかくここから、離れてくれっ!」

顔だけ俺に振り返り、アオ兄は俺に向かって大声で叫ぶ。

「なんでっ…。」

俺は訳が分からずに、アオ兄に近付く。



「来るなっ!」

今度のアオ兄は、俺を振り返ることなく、大声で叫んだ。



「なっ…!」

…アオ兄は、よく見ると…傷だらけで。
離れていても、分かるほど…その息は、ハァハァと乱れている。


「アオ兄っ!大丈夫っ?!なんでっ!」

俺の何度目かの問いかけにも

「いいからっ、街に逃げるんだ!!!」

アオ兄は、こちらを振り返ることなく、
間髪入れずに、同じことばかりを叫ぶ。


辛そうな身体で、必死に立つアオ兄…。

…まるで、

目の前にいる何かから…俺を、守るみたいに…。


アオ兄の周り。
地面がえぐられ、木々がなぎ倒され…
…今までの地形とは、もはや別物になってしまったそこに…


「っ!?だ、…誰だっ!」

俺は、叫ぶ。

誰かが…いる。


アオ兄が身体を向けている先、
大きな木の陰に、寄りかかるように立つ、あれは…

「!?な、なんで…!?」

信じられない、信じたくない人物が。

俺たち兄弟を、まっすぐに見つめて…静かに、立っていた。



ーーー【黒の再来】まで、あと23分ーーー

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