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影郎枠

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適当な生き方をする草場影郎に関するものを集めました。 実を云うと、わたしは此奴が大嫌いです。
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2021年4月の記事一覧

くらくら

くらくら

 台所で物音がしたので行ってみたら、影郎が仆れていた。慌てて揺り起こしたが、意識は戻らない。板の間に横たえて置く訳にはいかないので、引き摺って居間の方へ移動させた。十五分ほど経って漸く、彼の意識は戻った。
「もう大丈夫?」
「うん、平気」
「ずっと仆れなかったのに、このところまた仆れるようになったね。ちゃんと医者に行ってるの」
「行ってるよ、一週間おきに」
「先生はなんて云ってる?」
「最近は赤血

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冬の雨

冬の雨

 冬の雨がそぼ降る夕方、コンピューター相手にライブラリーのデータをチェックしていた木下亮二の携帯電話がぶるぶると震えた。彼は隣の席の草村紘に断り、応接室で電話に出た。
「此方は木下亮二さんの携帯で宜しかったでしょうか」
「はい、そうです」
「南三区警察署の者ですが、草場影郎という男性をご存知ですか」
「ええ、友人です」
「彼が事故に巻き込まれたんですが、ご家族の方をご存じないでしょうか」
「遊木谷

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人物裏話——草村紘篇。

人物裏話——草村紘篇。

 影郎と同居する草村紘は、図書センター三階「音楽、映像」担当の社員。
 『アンバランス・バランス』で、明良が死んだ際、清世と仲が良い杉下に亮二が落ち込んでいることを相談している。そんなお節介で優しい性格をしているので、影郎なんかと生活しようと思ったのであろう。まあ、この頃は以前のように遊び歩かなくなったし、そんなに仆れたりもしないのでそれほど負担にはならないだろうが。
 影郎は好奇心旺盛で呑気な性

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一緒に映画を

一緒に映画を

 冬ももう終わりを告げる頃、勤務先の東六区図書センターにひとりの青年がやって来た。いつも同僚の木下亮二と親しげに話している、影郎という変わった名前の子だった。木下君に依ると、遊び廻ってばかりいて、しょっちゅう仆れる傍迷惑な奴だということだが、小柄で可愛らしい顔をして、おとなしそうに見える。
 きょろきょろして木下君を探しているようだったので声を掛けた。
「木下君を捜してるの? 彼は今日、本社に行っ

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猫とふたり

猫とふたり

 影郎と草村、同居初日。

「大人だねえ」
「なんで?」
「ウイスキーのロックなんか飲んで」
「寝酒です」
「ちょっと雰囲気に合わない」
「ぼくはどんな雰囲気なの?」
「真面目でおとなしい」
「まあ、子供の頃からそう云われてるけど」
「いいんじゃない? おれは不真面目で馬鹿って云われてるから」
「木下君に?」
「他のひとにも」
「ぼくはそんなこと云ってないよ」
「珍しい部類に入る」
「こら、影郎は

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君のための追走曲

君のための追走曲

 夕方、警察から電話があった。
「草場影郎という男性に心当たりはありますか」
「ええ、従兄弟です」
「その方が事故に巻き込まれましたので、病院まで来て頂けないでしょうか」
 事故に巻き込まれたとは——影郎は車にもバイクにも乗らない。怪我でもしたのだろうと退社してから告げられた病院へ行った。受附で名前を告げると、暫くしてふたりの警察官がやって来た。
「遊木谷左人志さん……、従兄弟の方ですね。此方へい

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人物裏話——影郎と左人志篇。

人物裏話——影郎と左人志篇。

 『おしまいで、はじまり。』は、2009年に書いたものである。バンドの話が多かったので没にした。
 草場影郎という名前はその前から考えており、「草葉の陰」からつけた。だから縁起が悪いと云っているのである。但し、その時点で現在の「影郎」は、わたしの脳内には存在していない。
 このバンドは、アコースティックギターでフォーキーな音楽をやっているという設定である。小坊主でライブをしていた際のバンド名は、一

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おしまいで、はじまり。

おしまいで、はじまり。

——えーと、ステージでなんか喋るのははじめてで、ちょっと厭っていうか、戸惑ってるんですけど……、とりあえずメンバーを紹介します。
 客席から「影郎君可愛いー」とか、「ミサコちゃん紹介してー」という声が掛かる。
——うん、このミサコからね。彼女は一応ギター弾いてるんだけど、見ての通りちっこい子で……。おれが169センチなんでそんなに背え高くないんだけど、だいぶ違うよね。
 影郎、ミサコの前の死んだマ

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さよなら三角また来て四角

さよなら三角また来て四角

「左人志、話があるんだけど」
「なんじゃい」
「友達と一緒に暮らしたいんだけど、いい?」
「いきなりな話やな。友達て誰」
「普通の勤め人」
「どこに勤めちょるん」
「実はリョウ君の同僚」
「紹介してもろたんか」
「紹介はされてないけど、図書センターによく行くから親しくなったの」
「んー。まあ、相手に迷惑掛けへんのやったらええんちゃうか」
「いいの?」
「反対する謂われ、あらへんもん」
「左人志はど

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夏の夜に

夏の夜に

「なんや元気ないの」
「そんなことないよ」
「ゆうべみたいに遅なる時は、ちゃんと連絡してくれぇや」
「判った」
「誰と遊び歩いとるのか知らんけど、もめ事に拘るようなことはすなよ。親の顔に泥塗るような真似だけはしたらあかんで」
「してないよ」
「何処ぃ行くんじゃ」
「庭」
「飯喰わんとってええんか?」
「要らない」
「仆れてまうで」
「大丈夫だよ」

 ………………。

「影郎、ぼく出掛けるけぇども

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