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第92回 トップガン(1986 米)

 私は『トップガン マーヴェリック』を心待ちにしていました。そこで公開当日にレビューし、翌日にずっと塩漬けだった『トップガン』の方を加筆修正してレビューというプランだったのですが、身体を壊して空白期間を作ってしまいました。

 もうタイミングは逃したので、終戦記念日である今日『トップガン』がついにお披露目です。

 勝ち取れる目標、必然性無きヒロイン、負けてくれるライバル、譲ってくれる相棒、助けてくれるおやっさん、全てがトム・クルーズの為にお膳立てされたお馴染みのトム・クルーズ映画です。

 とは言え、トムもこの映画ではオマケです。アメリカ海軍航空隊の全面協力で出し惜しみ無用のドッグファイトが展開されるのがこの映画の根幹なのは疑う余地がありません。

そして、タランティーノの言葉を借りるまでもなく本作はホモ映画です。2人乗りの戦闘機に乗る事自体がもうホモセックスなわけです。大体、トム・クルーズがノンケなんて竹槍でB-29をつつくより無理がある話です。

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真面目に解説

君の名は?

 さて、ストーリーは単純その物。アメリカ海軍航空隊の破天荒パイロットマーヴェリック(トム・クルーズ)と相棒のグース(アンソニー・エドワーズ)が海軍のトップパイロットを育成する学校『トップガン』へ行ってひと騒動です。

 他のパイロットもそうですが、マーヴェリックというのはコールサインで本名は別にあります。と言って、本名を即答できる人は滅多に居ないでしょう。

 実はこれでいいのです。コードネームは無線で素性を知られない為の物なので、とっさに出るように普段からこれで呼び合う物なのです。

 最たる物が『キエフの幽霊』で、これは複数のパイロットがこの名前を使い回したというのが真相のようです。

 基地祭のパンフレットなどを紐解けば必ずコードネーム(空自だとTACネームと呼ぶ)がパイロットのプロフィールに併記されている大切な物です。こんなにもあだ名が本名より優越する職業は他にブラジルのサッカー選手と石原軍団くらいの物でしょう。

 面白いのはこの名前は自分で希望したものが通るとは限らない点にあります。概ね石原軍団と同じノリで命名されますが、必ずしも格好良い物とは限らないのです。

 マーヴェリックは「一匹狼」というスラングで、これはやはりパイロットだったマーヴェリックの父親が不名誉な事故死を遂げた事から来ている後ろ暗い物です。

 相棒のグースは「ガチョウ」という意味で、明らかに見た目から取ったアホっぽい物です。

 現実には人に話せないような恥ずかしい由来や、下手をすれば放送禁止用語が用いられる事さえあります。なのでパイロットに由来は聞かないようにしましょう。

マーヴェリックの意味って?

 この単語自体は知名度があり、NBAにはダラス・マーヴェリックスなんてチームもありますが、日本ではこの由来は案外知られていません。

 これは人名で、テキサス開拓の立役者、サミュエル・マーヴェリックという人物に由来します。

 これは『赤い河』でも説明したと思いますが、家畜には所有権を示す持ち主特有の烙印がおされます。ところがマーヴェリック氏は太っ腹かつ金持ちで、あえて家畜に烙印をにおさない事で知られていました。

 このことから「一匹狼」とか侮蔑的には「親無し」のような意味でマーヴェリックという単語が使われるようになりました。

 最も有名なマーヴェリックは、先日亡くなったジョン・マケイン氏でありましょう。

 氏は代々提督という海軍一家の生まれで(だけど次男は陸軍)、ビリに近い成績で兵学校を卒業してパイロットになり、ベトナムで地獄の捕虜生活を経て生還。ついでにボクサーでもあり、モハメド・アリ法と呼ばれるボクサーを搾取から守る法律を成立させて大統領候補にまで上り詰めた、マーヴェリックでロッキーでランボーでメイトリクスな欲張り男です。

 身長もトムやスタローンと同じくらい低かったですしね。勿論スタローンやシュワちゃんは彼を応援しましたが、前任者がベトナム行きをバックレたテキサスのバカ息子だったのが致命傷になりました。

 しかし、共和党議員でありながらリベラル寄りという特異なスタンスで、民主党と共和党が揉めたら氏に話しを持って行って妥協案を作るというのがアメリカの政治でした。オバマに負けたと知るなり支持者にオバマへの協力を呼び掛けたのも氏のマーヴェリックたる所以です。

 女狂いの悪評がありながら、共和党が強硬に反対した同性結婚にも党への不協力を決め込んで消極的に支持したのも見逃せない点ですが、これは安売りできないのでまたの機会にしましょう。

世界最速の二人乗り

 さて、前置きが長かったですが、本作の本当の主人公はマーヴェリックではなく、彼らの乗るF-14「トムキャット」に他なりません。

 当時のアメリカ海軍の主力戦闘機で、複座(2人乗り)になっています。これが重要です。単座の機体だとこんな名作にはならなかったでしょう。トム・クルーズの当時の映画は皆似たような話しですが、この映画だけ特別なのはグースが居たからに他なりません。

 前が機体を操縦し、後ろが死角を見張りながらレーダー類を操作して針路を決めるという役回りです。何しろ戦闘機はハイテクの塊なので、一人で何もかもやろうとすると厳しいのです。

 デメリットとしてはまず第一にパイロットが倍必要な事と、機体が複雑で重くなってしまう事です。なのでトムキャットはエンジンが後ろに2つ並んでいます。

 ただし、そのおかげで積載量に余裕があり、片方のエンジンが駄目になっても飛べるのが長所でもあります。。この辺は作中でも活用されていましたね。

 F-14を作ったグラマン社は空自も採用している単座のF-15「イーグル」を作ったボーイング社とミリタリー好きの語り草になる熾烈な売込み合戦を行い、パイロットの奥さんに単座と複座どっちが良いかとアンケートを取ったのは知られた話です。

 何しろ海軍なので主戦場は海の上です。落ちると後始末が大変なので、パイロットが倍必要だとしても、リスクを半減出来て重武装で長く飛んでいられる複座にはメリットがあったわけです。

 つまり、このコンビは夫婦に似ています。苦しみは半分に、楽しみは倍に、あるいはその逆にもなり得る。この点については後でたっぷりと尺を取ってやります。

火のない所に煙は立たぬ

 空母からトムキャットでスクランブル(緊急発進)するシーンから映画が始まります。

 この発艦と同時に『Danger Zone』がかかりたまらなく格好良いのですが、私が注目し欲しいのは飛んで行く方ではなく飛ばす方です。着艦はともかく、発艦をちゃんと描いた映画は意外に少ないのです。

 煙が立っているのも注目です。これは誤解されがちですがエンジンではなく、実は空母の方から出ている物です。

 何しろジェット戦闘機は数十トンもあるので、これが精々数百メートルの空母から飛ぼうと思えばエンジンの力だけでは無理があります。

 そこでカタパルトという装置で機体を押して無理矢理ぶっとばすのです。先の大戦だと火薬やバネでしたが、現代の主流は蒸気式で、その湯気が甲板に漏れてくるのです。

 スクランブルの理由が国籍不明機…と言いつつ明らかにソ連の戦闘機が領空侵犯してきたからというのも時代を感じさせます。既に終盤とは言え東西冷戦があった時代です。

 つまり、一歩間違えば核戦争という恐怖とパイロットは闘っていたのです。マーヴェリック/グースと一緒に飛び立ったクーガー(ジョン・ストックウェル)/マーリン(ティム・ロビンス)機が敵にロックオンされ、クーガーが精神をやられるのも決してオーバーではありません。

 敵機はミグ28という架空の機体で、F-5タイガーという安くて貧乏な国に人気のある戦闘機にそれっぽい塗装をして間に合わせています。架空の機体なのにプラモデルも出ているのですから、トップガンの影響力は計り知れません。

キャットなのにドッグファイト

 さて、冒頭に緊張感を見せてトップガンに集まったパイロット達はドッグファイトを学ぶわけです。ドッグファイトとは何なのか?これも案外即答できる人は少ないでしょう。

 とどのつまり戦闘機同士が取っ組み合いをしてドンパチやる行為です。犬が自分の尻尾を追いかけてその場でぐるぐる回る様に似ている事からこういう名前になっています。

 このドッグファイトがアメリカ海軍の全面協力でガッツリ撮影されているのがこの映画の最大の売り物です。本当にパイロットが飛行機を飛ばして撮ったのですから、これ以上は有り得ません。

 尺の多くはこの役者のちょっとしか映らないドッグファイトに費やされます。つまり、この映画には全然中身が無いのです。格好良さだけでもっている、それで押し通してしまった凄い映画です。

パイロットで海の男で

 パイロットの生態が描かれるのも面白い所です。基地近くのバーではしゃぐパイロット達の姿は、ハイテクの究極に生きる男というより海の男という趣があります。もっとも、パイロットとは元々は水先案内人という意味なのですが。

 パイロットは知的(建前)で逞しく、命がけの稼業で、おまけに全員将校で高給取りです。明日の命も知れない身なら、羽目を外そうというのは当然の帰結なのです。

 だから軍人を引っ掛けようと思う皆様(国籍性別不問)は、粗野でしみったれた海兵隊の下士官兵などよりパイロットを狙うべきです。

 空自のパイロットの友人が居ますが、彼に取材したところによると基本給は他の1.5倍、飛ぶ度色々手当が付き、彼の金回りの良さは同期でも一番です。

 ただし、結婚はすべきではないでしょう。「戦闘機と潜水艦に乗って家を建てた奴は居ない」という格言があるくらいで、稼ぎも一番なので同時に浪費癖も一番なのです。しかも、戦闘機パイロットは身体的負担が凄く、40歳にもなれば飛行に耐えられない身体になってデスクワークに回ります。

 末路悲惨を承知の彼は、稼ぎを酒と風俗とアイドルの追っかけにつぎ込んでいます。まるで、命の短さを知って輝く蛍のようです。

陸でも最速

 だからというわけではないですが、この映画にはケチな所があります。マーヴェリックの乗っているバイクです。バイク好きなら誰もが本作を真似して一度は飛行場の近くで飛行機と並走したはずです。私はしました。

 本作の撮影で初めてバイクに乗ったというトム・クルーズですが、マーヴェリックの乗るカワサキのGPZ900Rは続編でも相変わらず乗っているマーヴェリックのもう一つの象徴となりました。

しかし、贅沢に作りすぎて予算が無かったと見えて、カワサキにパテントを払うのが嫌でステッカーをベタベタ張ってエンブレムを隠す事で誤魔化しています。

 カワサキとしては困った話ですが、この映画の影響で本機はやはり人気になり、隠すのに使ったステッカーもまた売れたので結果オーライでした。

 しかし、漢カワサキというくらいでカワサキ乗りは気が荒いので、マーヴェリック仕様に仕上げて乗ると馬鹿にされる事は必定です。カワサキ乗りたる者、映画に影響されて猿真似するような腑抜けはお断りなのです。

 また、この映画に親がかぶれた為に残念な名前が付いてしまったマーヴェリック・ビニャーレスというバイクレーサーも居ます。かぶれたならマーヴェリックはないだろうと思うのですが、映画にかぶれて息子の名前を決める時点でちょっと間違っているのです。

 彼はタイアップでマーヴェリック仕様のヘルメットでレースをしていましたが、乗っているのがアプリリアなのでますますカワサキの立場がありません。昔はカワサキも戦闘機を作っていたんですけどね。

ターゲット、ロックオン!

 と毎週言ってたくせに弾が当たった試しのない婦警さんが居ましたが、このロックオンが本作では大きな意味を持ちます。

 戦闘機というと『紅の豚』的な機銃の撃ち合いというイメージが強いでしょうが、何しろ時代が進歩しています。

 戦闘機にはレーダーが付いていて、そのレーダーで敵機をロックオンする事がドッグファイトの第一の目的になります。

 何しろ互いに超音速なのでロックオンしてからでなけれればミサイルも機銃も当たる物ではありません。照準器を睨み付けて一瞬のチャンスを伺うのは先の大戦までの古いやり方です。

 ロックオンされた方も逆探知でそれが分かるので、訓練や敵との脅かし合いで分かりやすい判定材料としても作中では機能します。

 偵察に来たソ連の戦闘機はロックオンされれば逃げて行きますし、逆にロックオンされたマーヴェリック達の同僚のクーガーは精神をやられてパイロットを辞めてしまいます。

 このロックオンを勝手にしてくれるのが所謂イージスシステムだと言えば、ロックオンが現代戦でどれだけ重い物かご理解いただけるでしょうか?

勝ち取れる目標

 トム・クルーズの映画というのは全てがトム・クルーズの為に回っています。欠かせざる要素が「勝ち取れる目標」で、これをなんやかんやで勝ち取って万々歳となるのが型です。

 今回の目標はトップガンを主席卒業する事で得られる教官の資格ですが、何しろトムキャットは2人乗りなのでマーヴェリックがそれを勝ち取るならグースも一緒にという事になります。

 これを今更隠しても仕方ないのであれですが、グースはマーヴェリックと妻子を残して殉職してしまい、続編で遺された息子がひと悶着起すわけです。グースこそがメインヒロインである事はノンケの皆様にも納得頂けるでしょう。

必然性無きヒロイン

 これもトム・クルーズ映画には必要とされます。押しなべて賑やかしでしかなく、コンドームのように存在意義が薄い名目上の役回りでしかないのが特徴です。

 本作のヒロインはマーヴェリックが基地の近くのバーでナンパしようとしたお姉ちゃんで、教官として招かれた学者のチャーリー(ケリー・マクギリス)です。彼女は存在異議もおっぱいもトム・クルーズ映画のヒロインの中では最も薄い一人です。

 ちゃんと観ると分かりますが、ストーリーに殆ど寄与していません。居なくてもストーリーが成立してしまうのです。グースの奥さんのキャロル(メグ・ライアン)の方が余程重要です。ついでに言えば、役者としての格も。

 それどころか、ヤっちゃった直後からマーヴェリックを取り巻く状況は著しく悪化し始めます。ともすれば、居ない方がマーヴェリックにとって幸せだったのです。

しかし、互いのルックス以外これといった決め手もなしに薄っぺらく惚れ合った2人の濡れ場で流れる『Take My Breath Away』はアカデミー歌曲賞を受賞したので一応の面目は施しました。

 もっとも、トップガンと聞いて誰もが思い浮かべるのはまず第一に『Danger Zone』で、次が『ビバリーヒルズ・コップ』でもお馴染みのハロルド・フォルターメイヤー入魂のメインテーマでしょうから、所詮はコンドームです。濡れ場だけに。

 しかも、続編でそのコンドームぶりが一層裏付けられてしまったのはご覧になった方は承知でしょう。トム・クルーズ映画で女はこの程度の存在なのです。

負けてくれるライバル

 グースを別にして一番重要な役回りはこれです。アホでチビで命知らずのマーヴェリックにライバルとして立ちふさがる、クールで長身で堅実なアイスマン(ヴァル・キルマー)がこれに当たります。

 トム・クルーズとヴァル・キルマーは不仲という説が根強かったので続編でどうなるか心配でしたが、キルマーの熱望の結果実に良い仕事をしてくれました。

 最初こそマーヴェリックの無謀ぶりを危険視し、主席の座を巡って反目していたアイスマンですが、そこはもうトム・クルーズの為に全てが回っている世界なので、最終的に精神的ホモ状態に突入するのは御想像の通り。

 何しろ、正統とされるテレ東版吹替だとマーヴェリックは森川智之でアイスマンは東地宏樹です。この組み合わせはもう何を言わんやです。『ブロークバックマウンテン』と同じ組み合わせです。

 反目し合ってるくせに休日に意味もなく皆で仲良くビーチバレーに興じるシーンに至っては完全にご婦人とゲイ向けのサービスシーンです。この辺も後で詳しくやりましょう。

おやっさんが一杯

 おやっさんもトム・クルーズ映画には必要です。『ハスラー2』は相棒からライバルから全ての役回りをポール・ニューマン一人で賄っていた点で少し特殊なのです。

にしても本作はおやっさん3人体制なのでかなり過保護です。トム・クルーズの魔性が炸裂しています。

何と言っても一番存在感があるのが空母ムスタングの艦長でマーヴェリックの問題児ぶりに手を焼くスティンガー(ジェームズ・トールカン)でしょう。

 トールカンと言えば『BTTF』のストリックランド先生なので、イケメン問題児が好きなのでしょう。何だかんだマーヴェリックが可愛くて仕方ない様が実に尊く美味しいのです。

 トップガンの教官であるジェスター(マイケル・アイアンサイド)と、責任者でマーヴェリックの父親と知った仲のバイパー(トム・スケリット)のコンビは直接ドッグファイトでやり合うという点でも美味しい役どころです。

 いずれにしても、BL的に読み解くとおやっさんは脇役からメインキャストに躍り出てくるので見逃せません。

愛は火の玉のように

 ストーリー(という程の物でもない)が動くのは休暇にキャロルとルースターが遊びに来てからです。

 チャーリーを引き合わせるところにマーヴェリックとグースとの絆を読み取る事が出来、またルースターの懐きぶりやキャロルの態度からも家族ぐるみで付き合っていた事が裏付けられます。

 グースのピアノで下手くそな『火の玉ロック』の男声合唱を披露するのが続編の重大な伏線になります。忘れた頃の続編というのはこういう細かいシーンをいかにオマージュするかで評価の決まるところがあります。

 しかし、その直後に機体が事故で墜落し、グースは殉職してしまいます。これはむしろ戦争映画の型です。

 かかる時には軍法会議が開かれるのが軍隊で、マーヴェリックに責任はなかったという事で名目上は一件落着しますが、当事者の心情は別問題です。

 キャロルは決してマーヴェリックを責めず、パイロットを辞めそうな勢いのマーヴェリックを遺留さえします。

 形見の認識票をマーヴェリックに託したのも、2人の絆をキャロルがよく分かっていた証拠です。まるでマリア様です。チャーリーはマグダラの方が精々です。

常に備えあれ!

 ミリタリーに浸って生きてきた身として、この機会に言っておきたい事があります。墜落したマーヴェリックとグースを助けに来たのが海軍ではなく沿岸警備隊のヘリだった事です。

 米軍は陸海空軍に海兵隊と沿岸警備隊で五軍体制です。海兵隊は陸海空軍の全部の要素を持って敵地に一番乗りする切り込み隊ですが、沿岸警備隊は日本で言えば海保です。

 なのでレスキューが主任務で、不審船の急襲でもなければ戦闘はない軍隊です。なのでかなり露骨に馬鹿にされるところがあります。

 しかし、レスキューです。一番直接的に国民の安全を守っているのは沿岸警備隊なのです。映画ではいつも正義の味方で、滅多に主役になりませんが悪役にもなりません。

 あなたが米軍関係者と親しくなれば他の四軍の悪口を聞く事になるでしょう。それは文化なのであまり強く否定してはいけませんが、沿岸警備隊をのけ者にするような事があったらそれにだけは待ったをかけましょう。

男やもめにホモがわく

 サンダウン(クラレンス・ギルヤード・Jr)という面白黒人の新パートナーを迎えたマーヴェリックですが、グースロス状態なので上の空で、周囲のいい男のフォローも拒絶して登校拒否を起こす有様です。チャーリーのフォローが一番安っぽいのがトム・クルーズであり、トニー・スコットです。

しかし、卒業式の最中に出撃命令が出てマーリンを背にマーヴェリックは飛ぶ事になります。偵察や嫌がらせでなく攻撃してきたソ連機を見事撃ち落とし、万々歳で映画は終わるのです。

 つまり、マーヴェリックはチャーリーでもキャロルでもなく、男達の友情に救われたのです。いくら異常性欲のマーヴェリックでもキャロルに手を出す事など出来ようはずがないので、これで正しいのです。

 綺麗所を揃えておいて、ぞんざいに扱う。それがトム・クルーズ映画の本質です。

BL的に解説(バックボーン篇)

タランティーノ(談)

 タランティーノが他人の映画にカメオ出演して意味もなく本作がホモ映画だと熱弁しているのは有名な話です。というより、映画の方は内容はおろかタイトルさえシネフィルでも忘れているレベルです。

 この後タランティーノはトニー・スコットと会う機会を得て、怒られるかと思いきや「よく分かってるじゃないか」とお褒めの言葉を頂戴したという美味しい後日談もあります。

 つまり、ホモのアイスマンがノンケのマーヴェリックを執拗に誘い、チャーリーと取り合いしているというタランティーノの解釈はある程度真実味があるのです。

 私はタランティーノと友達になる自信があります。ですがこの仮説には一つ異議があります。マーヴェリックが欲しい男は1人や2人ではないという事です。

トムキャットという音速のハッテン場

 トムキャットが複座である事が何より重要です。2人乗りは実質ホモセックスだと何度もこのnoteでは熱弁してきました。その完成形がこれです。

 2人のパイロットが息を合わせて一瞬のミスも許されない飛行をこなし、命を賭けて戦う。これがホモでなくて何でしょうか?

 しかも、戦闘機パイロットというのは極めてホモソーシャルです。続編には女性パイロットが登場しますし、先進国なら1人くらいは女性パイロットを擁している時代ですが、実際のところこれは人気取りの側面がまだ強いのです。

 というのも、戦闘機の性能の限界はとっくの昔に人体の限界を超えています。機体の方をどうやって人に折り合わせるかという境地なので、どうしても体力的に落ちる女性には厳しいのです。

 現にアメリカ海軍初の女性ファイターパイロットは腕が追い付かず、危険なので同僚に一緒に飛ぶのを拒否されて面目を失ったという嫌な話もあります。残念ながら、機体に直接パイロットが乗る時代が続く限りこの分野で男女同権は成立しえないでしょう。

 ともかく、戦闘機というのは極限まで鍛えられた男のみが乗る事を許されるのであり、コクピットは女人禁制の聖域と言えるわけです。それで2人乗りですから、これはもうホモです。

トムキャットはファントムより重い!

 どうしても本作は初期やおいの金字塔たる『ファントム無頼』と比較されがちで、実際初期のトムキャットのパイロットは多くが旧式のファントムからの乗り換えで揃えられたのですが、両機には決定的な違いがあります。

 それは役割分担の違いです。ファントムは後席からでも操縦できるのですが、トムキャットはそれが出来ません。つまり、トムキャットのレーダー手はパイロットに完全に命を預けるのです。

 ファントムは前席の妻と「死別」したとしても夫だけで戻って来れるようになっているわけです。しかし、トムキャットは妻に何かあれば夫も諸共です。

 これは関係性にも生きてきます。主従がハッキリしていて、主の受けが死ねば従の攻めは殉じる。より重い愛が展開されます。

 ただし、攻めを失った未亡人が取る行動はどちらも決まっています。その多くが亡夫に操を立てて単座の機体に乗り換えるか、空を捨てるかです。複座機乗りとはそういう生き物なのです。

ドッグファイトはホモ

 さて、BLの境地では闘争とセックスがイコールである事は今更説明を要さないでしょうが、戦闘機によるそれは度を越しています。

 そもそもドッグファイトで勝つには、敵をロックオンするにはどうしたらいいのか?答えは「後ろを取る事」です。

 後ろに回ってぶち込んだ奴の勝ち。言ってしまえばハッテン場に出入りするゲイとほぼ同じ方法論にファイターパイロットは生きているのです。もっとも、ハッテン場ではむしろぶち込まれた方が勝ちで、究極には勝ち負けはありません。

 では後ろを取る為にはどうするか?これは作中でも語られませんが、ドッグファイトというのは速度エネルギー(速さ)と位置エネルギー(高さ)が鍵になります。

 作中出し惜しみ無しで披露される各種の機動(マニューバと呼ばれる)は位置エネルギーと速度エネルギーを変換する行為という側面があります。機体が持っているエネルギーをやりくりして優位を保ちつつ敵の背後を狙うのがドッグファイトの本質です。

 当然事前にエネルギーを多く持っている方が有利です。相手より上に居る者が優位に立てる。やっぱりホモセックスです。

 そして、何故あんなにもトップガン達はドッグファイトに固執するかというと、これは作中語られますが、ベトナムでドッグファイトを軽視して痛い目を見たからです。

 ベトナム戦争はミサイルが急激に進歩していた時代の戦争で、ドッグファイトなんてなくてもミサイルで何でも間に合うという「ミサイル万能論」が唱えられ、見事に裏目に出てアメリカのパイロットは地獄を見る事になったのです。

 俺達は金持ちだもんねと威張っていたアメリカ野郎が、昔ながらのやり方を大事にする堅実な東洋人に屈服され犯される。それがベトナムの空だったのです。

 一見BLとは縁遠い軍事理論の中にもこれだけのBL要素が隠れています。とすれば腐の皆様はどんな事でも貪欲に学べば幸福が保証されている選ばれた人達です。見える物を増やすのがBLの極意なのです。

左右のライフサイクル

 マーヴェリックを右に置きたがる人が激増していますが、私はこれに賛同しかねます。若い衆に囲まれた森川声が受けなんて筋が通りません。

 しかしながら、本作に関しては絶対にマーヴェリックは総受けです。これは声の問題ではなく、トム・クルーズの位置づけによるものです。

 そもそも、イケメンは掘るより掘られる方が美しい物のはずです。とすれば、若トムが攻めは勿体ない話です。ここは誰彼構わず受けてもらってサービスしてもらわねば困るわけです。

 しかし、続編の熟トムは違います。完全に掘る側に回るお年頃です。掘られて長じては掘る。それが男色の王道であり、そして老いては掘らせるのが理想形です。熟トムは掘らせるのは卒業していますが、まだまだ掘らせるほど老いちゃいません。

 とにかく、本レビューでは基本的にマーヴェリック総受けでお送りします。彼は魔性のメスです。

BL的に解説(カップリング篇)

グース×

 というわけで、久々に登場の総受け掛け算です。マーヴェリックは多情ですが、唯一無二の存在があるとすれば、グース以外有り得ません。

 2人は対照的です。かたやアホの遊び人、かたや堅実な妻子持ち。かたやチビ、かたや長身。何もかもが正反対です。

しかし、地面を離れると様子は一変します。グースがマーヴェリックに引っ張られてネジがちょっと外れてしまうのです。

 奥さんの目の届かない所で魔性の誘い受けに踊らされてオラついてしまうヘタレ攻め。こいつは美味しいですよ奥さん。

 ちなみにグースの吹替は平田広明。海賊行為をしない海賊の声(しかも2人)というのは浅はかで、この人の代表作は『フレンズ』のジョーイをおいて他ありません。

 脚本家がゲイなのをいい事にホモネタが大安売りされた歴史的ケツ作ですが、ジョーイとチャンドラーがデキちゃうのは時間の問題です。神経質なモニカとの夫婦生活に疲れたチャンドラーが、ふと酔った勢いでジョーイに誘われる。男は初めてと言いつつもチャンドラーならと応じてしまうジョーイ。

しかもチャンドラー受けが作中で明示されていますので、サンゾロだゾロサンだなどという争いは不要です。脇にそれましたが、吹替は洋画でBLするには大切なわけです。

 さて、何度も言いましたが複座機は2人で飛ばす物です。マーヴェリックは規格外の凄腕かも知れませんが、それはグースの支えがあればこそです。

 マーヴェリックの事なので無茶をやってグースに助けられた事も一度や二度では無かったでしょう。そうして絆を深め、女を取りのがしてしまった夜、夜間飛行が行われる。ありそうな話です。

 バーでチャーリーを口説く為にカラオケで下手くそなデュエットするのに至っては実質公開ホモセックスです。

 パイロット仲間がコーラスしてくれるのがトップガンのハッテン場ぶりを物語りますが、いくらトム・クルーズでもこんなんナンパが上手く行くはずがありません。つまり、これは女をコンドームにしたパイロットとレーダー手のプレイです。

 チャーリーに俺はミグに遭遇したと自慢するマーヴェリックに「俺達はだ」と釘を刺すのはホモのジェラシーです。こんなオメコ芸者に俺のマーヴェリックを渡してたまるかという意思表示です。

 初訓練でジェスターを撃墜して大はしゃぎし、管制塔すれすれにとんでイタズラするのも2人のホモ臭い絆を示しています。駄目と言いつつ強くは止めないグースがキュートです。

 その夜、グースは妻子もちゃんと愛しているのでちょっと怖気付き、マーヴェリックに不安を吐露し、一方でマーヴェリックが父親の件で苦しんで空で亡霊と戦っているようだと慰めます。

 対してマーヴェリックは俺の家族はお前だけとサイドワインダーをぶちかましてきます。にやりと笑うグースに早く出て行けとマーヴェリックは言いますが、この後絶対ヤってます。

 ビーチバレーのシーンでグースだけTシャツを着ていなかったのは需要がないからだという見方が一般的ですが、私には違う物が見えます。そもそも、だらしない身体のグースも一部のゲイには需要があるのです。

 これは貞操観念です。パイロット同士ならともかく、公衆の面前でマーヴェリックの物である己の身体を晒したくないという古風なお嬢様スタイルです。

 こんなにも健気なグースを捨ててマーヴェリックは勝負を切り上げてチャーリーと密会しに行きます。こんなだから罰が当たったのではないかと私は思います。しかし、遅れた上に据え膳を食わずに去ったというのはマーヴェリックも三角関係に悩んでいたという事です。

 この直後にチャーリーが男物の装いにチェンジしたのはアイスマン対策というのがタランティーノの言い分ですが、私はグースを危険視していたと考えます。いずれにしても、チャーリーは敵は男であると認識し始めたのです。

 焦るチャーリーに対して女のケツを追いかけ回すマーヴェリックを責めないのがグースの正妻の余裕です。それどころかキャロルにマーヴェリックはチャーリーとデキていると言いふらしちゃうのですから、妾は甲斐性というわけです。

 他のパイロット達もチャーリーが焦っているのを感じ取っています。マーヴェリックの強引な飛行を咎めるチャーリーに対抗するように「最高に気合いが入った飛び方」なんて賛辞が贈られる有様です。

 マーヴェリックに種付けされるようなアバズレに教えられるのが気に食わないというのもあるでしょうが、マーヴェリックが欲しい男はその他大勢にも山と居るとも取れます。

 この仕打ちに怒ったマーヴェリックを車で追いかけて強引に止め、他の連中の手前天才的だとはまさか言えなかったと言い訳してチャーリーはセックス攻勢に入ります。

 無暗にねちっこい濡れ場が入りますが、こいつらの惚れ合う決め手はルックスしかありません。非常に薄っぺらい、汚らわしいシーンです。ビーチバレーのシーンより尺が短いのもトニーの本音を物語っています。

 その後のジェスターとバイパーとの勝負で負けたマーヴェリックに「御子息は戦死されました」とグースが軽口を叩くのはホモレーダーが反応しているのです。この野郎あんなペチャパイビッチに誑かされてこんな事になったんだと流石に怒っているのでしょう。

 しかし、自分のやった事が間違っているたと認めるとグースは許してくれます。シャワールームで慈母の如き優しさでマーヴェリックを励ますグース。ここにはチャーリーは流石に入って来れないので後で仲直りのホモセックスをしたのでしょう。

 休日の家族団らんにマーヴェリックとチャーリーを迎え入れるのも正妻の風格です。これは俺は女はノータッチだと示すとともに、コソコソとヤってるお前とは格が違うと示す為です。

 キャロルも夫とマーヴェリックの仲が絶対なのを知っているので、チャーリーがマーヴェリックの独り占めなど狙おうものなら援護射撃はしてくれるでしょう。ルースターだってマーヴェリックを知らないおばさんに盗られたら悲しむのですから。

 そして、ここでグースの選曲が『火の玉ロック』というのも相当狙っています。ここでマーヴェリック受けが大きな意味を成します。彼女とはマーヴェリックなのです。

 しかし、直後の訓練で事件が起きます。アイスマンがいつまでも前に立ちふさがって邪魔したせいでジェットウォッシュ(前の機体の排気を吸ってエンジンがおかしくなる現象)が起き機体は墜落。脱出の際にグースはキャノピー(ガラスの部分)に頭をぶつけて殉職してしまいます。

 沿岸警備隊のいう事も聞かずグースの亡骸に抱き着いて離れようとしないマーヴェリック。最後には引き剥がされます。

 あのアホで命知らずのマーヴェリックだというのに、グースが殉職した時の落ち込み方は明らかにやらかした事の重大さを上回っています。それもデキていると仮定すれば説明が付きます。。愛する夫を殺してしまった自責の念は、ただ戦友を失った経験を持つだけの連中には分からないのです。

 キャロルの優しさにも説明が付きます。彼女は何もかも知っていたのです。下手したら玄関先でキスしてるのを見てしまったまであります。

 汚らわしいオカマ野郎とでもなじり、軍にチクって不名誉除隊に追い込むのは簡単な事ですが、それは出来ません。愛する夫が一番輝いているのはマーヴェリックと飛んでいる時なのですから。

 形見分けで認識票をマーヴェリックに渡したのもそうなるとより大きな意味を持ちます。空でのグースはあなたの物というメッセージです。そして飛べと迫るのも、心だけはグースと共に空にあって欲しいという願いなのです。

 グースロスで男漁りをしてヒステリーを起こすマーヴェリックは、登校拒否ばかりか土壇場になって敵前逃亡までやらかそうとします。

 しかし、グースの認識票を手にグースに呼びかけ、戦列に復帰して鬼神の如き大暴れを見せます。これは明らかにグースの魂が乗り移っています。愛の力です。

 そして全てが終わり、マーヴェリックはこれまた型通り、認識票を海に投げ捨ててトラウマとケツ別します。しかし、グースとの輝ける日々とはケツ別できなかったのは続編からも明らかです。

マーリン/クーガー/

 今までにない表記ですが、これはちゃんと理由があります。まあ読んで下さい。

 クーガー/マーリンは素行で割引があるとしても、マーヴェリック/グースより上位に位置づけられるエースです。ところがクーガーは不意を突いた敵機にロックオンされて、マーヴェリックに助けを求めパニックに陥ります。

 死ぬ時は一人の独身者と、家族が遺される妻帯者のメンタリティの違い。これは『ファントム無頼』にも描かれたところで、実にリアリティがあります。尊いですね。

 名シーンの背面ファックサインで敵機を追い払ったマーヴェリックですが、クーガーは錯乱して空母に着艦できなくなります。

 先述の通り、ファントムならこういう時はマーリンが操縦して切り抜けられますが、トムキャットでは出来ません。トムキャットはファントムより重いのです。

 マーヴェリックはアホで多情ですが男への愛は重いので、着艦を拒否してクーガーの救出に向かいます。

 ジョークを飛ばして俺が誘導してやると申し出るマーヴェリック。そう、文字通りの誘い受けです。グースはマーヴェリックの女狂いを愛しているので、男に関しても多少の浮気は許す姿勢なのでしょう。

 そしてどうにかクーガーは着陸して命拾いしますが、スティンガーにパイロットウィングを返して去ります。これもBL的に読み解けば妻子云々とは違った物が見えてくるのです。

 戦争で慰安婦を必要としたのは独身者よりも妻帯者であったというのは何度か話したと思います。

 それを踏まえるとここで過去にない表記が生きてきます。日本ではカップリング表記は×を使いますが、アメリカンスタイルでは/を使う割り算なのです。

 従ってK/S(カーク/スポック)とか表記するわけですが、左右の意味もアメリカンスタイルでは異なります。語感が優先されて左右と攻め受けは必ずしも一致せず、スポック攻めでもK/Sなのです。

 また、ゲイのリアルが尊重されてリバが多く見られます。つまり、妻子持ちのクーガーが前のクーガー/マーリンはリバだと私は考え、敢えてアメリカに寄せたのです。

 そもそもマーリン演じるティム・ロビンスは『ショーシャンクの空に』でホモレイプされた挙句モーガン・フリーマンとホモっていたのがつとに有名です。

 そればかりかこれまたホモレイプが重要なテーマになっている『ミスティック・リバー』でよりにもよって後にハーベイ・ミルクをやったショーン・ペンとホモって仲良くオスカーを勝ち取った男です。

 これほどの受け野郎なのに後ろに居るというのは、リバでなければ筋が通りません。

 とすれば、クーガーが翼を捨てた意味合いが変わってきます。そう、クーガーはマーリンを差し置いてマーヴェリックに身を許してしまった罪悪感に耐えられなかったのです。

スティンガー×

 スティンガーは厳しい上官です。マーヴェリックが無茶をすれば「香港回りの輸送機に回してやる」と恐ろしい脅し文句まで吐くのです。

 これは破滅型の戦闘機パイロットにとってはデスクワークに回されるよりキツいでしょう。しかし、スティンガーは口ではうるさく言ってもマーヴェリックが可愛くて仕方ないのです。

 だって考えてみてください。マーヴェリックが何かやらかせば責任を取らされるのはスティンガーなのです。マーヴェリックを疎んでいて香港送りに出来るなら、とっくにそうしていないと筋が通りません。

 きっとスティンガーはマーヴェリックにマーヴェリックの父の姿を見ているのでしょう。君の名前は海軍では汚点という言葉からもそれは明らかです。

 きっとスティンガーはアイスマン寄りの堅実なパイロットだったのでしょう。そして息子とよく似ているという大マーヴェリックと反目し合いながらも何だかんだと一緒に良い仕事をして、良いセックスをしてきた。だからマーヴェリックの事もよく分かるのです。

 そして命令違反を犯してクーガーを助けた件で散々説教をしておいて、クーガー達の代わりにマーヴェリックをトップガンに送り込むのです。ついでに「君らがトップだ」とお褒めの言葉まで付け、挙句部屋を出る時は「頑張れ」とまで。

 これが愛でなくて何だというのでしょうか?スティンガーにとって部下のパイロット達は愛してやまない息子であり、妻なのです。

 緊急事態で卒業式の最中に呼びつけたメンバーの中に男やもめのマーヴェリックを入れたのも、バイパーやジェスターと一緒に計らっての事でしょう。

 未亡人になってクーガーより数段危険な状況にあるマーヴェリックをわざわざ指名し、そのクーガーを失って男やもめのマーリンと急造カップルにして国家の危機に立ち向かわせる。不合理です。

 しかし、そこにスティンガーの大マーヴェリックへの愛があったとすれば当然の事になります。同じように国難に立ち向かって秘かに散った愛しの大マーヴェリックの息子なら、同じ事が出来ないはずがないという絶対の自信があったのです。

 また、マーヴェリック父子をヴァイパーが愛しているなら、このままマーヴェリックを再起不能に陥れるのは絶対に避けたい事態です。大マーヴェリックに顔向けできません。

 そして、空母ムスタングがスティンガーの大奥だとすれば、やはり愛する人を失ったマーリンも放ってはおけません。だから2人で飛ばしたのです。

 アイスマンはリスクを犯すのを嫌がるのでマーヴェリックを飛ばすスティンガーに抗議しますが、スティンガーは相手にしません。これは相当です。

 織田信長がホモなのは議論の余地がありません。しかし、小姓を戦に出し、戦い抜いた呼称を愛す点が凡百のショタコン武将と決定的に違います。この強き小姓こそが美しいという哲学がヴァイパーにもあったのです。

 しかし予想以上に戦況は悪く、増援を寄越そうと思ったらカタパルトが故障でそれも叶いません。しかもマーヴェリックがメンタルを壊して一旦は逃げたのでパニックです。そして戻った時の安どの表情。明らかに職務を越えた何かが介在しています。

 そして期待以上の結果を残して戻って来たマーヴェリックにわざわざロッカールームまで褒めにやって来て、好きなポストを上層部がくれるとご褒美まで持参で祝福です。

 トップガンの教官になりたいと望むマーヴェリックにやたら嬉しそうなスティンガー。この辺も彼の衆道への造詣の深さが観て取れます。掘られているばかりでは駄目なのです。巣立っていく小姓を見送るのがスティンガーにとって最高の快楽なのです。

 ただ、このマーヴェリックの願いはあまり良い結果を招かなかったわけですが。

バイパー(時々ジェスター)×

 バイパーは初代トップガンであり、やはり教え子が可愛くて仕方がない良き指導者です。最初から生意気アフターバーナーを燃やすマーヴェリックに興味津々です。

 ルールを犯したマーヴェリックに説教する時もルールはお前たちを守る為にあると教え子ラブ丸出しです。

 そして父親そっくりだとジェスターとしみじみ語らってしまいます。そう、バイパーもまた大マーヴェリックに魅せられ、マーヴェリックに面影を見ているのです。これが2組ある映画というのは滅多にありません。

 そして訓練が2対2になったところでマーヴェリックとバイパーは相まみえます。ジェスターを相方のハリウッドに丸投げしてバイパーに迫るマーヴェリック。BGMがノリノリです。マーヴェリックの誘い受け気質を暗示するようです。

 そしてバイパーの方も何だかんだ嬉しそうです。父の面影を見ているのだから当たり前です。

 しかし、気を取られているところへ後ろからジェスターにやられてマーヴェリックはシリーズで唯一の黒星を喫します。

 バイパーにすれば大マーヴェリックと同じ事を考えているマーヴェリックの行動パターンはお見通しであり、ジェスターもまたマーヴェリックを掘り返すチャンスを狙っていたのです。

 しかし、チャーリーの下げマンぶりには呆れます。チビ仲間の言う所の「女は足にくる」って奴でしょうか。

 グースを殺した自責の念に打ちひしがれるマーヴェリックを最初に励ましに行ったのはバイパーでした。ベトナムで10人も部下を失ったと自らの経験も交えて戦闘機乗りの因果を語るバイパー。

 下心もあったでしょうが、これはむしろ大マーヴェリックへの義理立てです。何故なら、バイパーは大マーヴェリックの死の真相を知っているのですから。

 責任問題が落着するなりジェスターに飛ばせろと命令するバイパーもまた、スティンガー同様に高等衆道の機微を分かっています。

 しかし、グースロスの傷は重く、ジェスターを完璧にリバれる位置に付けながらロックオンを拒み、挙句登校拒否を起こします。

 ガッツを失ったと嘆くジェスターに対して、バイパーは回復すると信じて疑いません。そう、大マーヴェリックならこれでへこたれたりはしなかったに違いありません。

 出世してワシントンへ移るチャーリーに「ギブアップする事だけは覚えた」という励ましたつもりの追い打ちまで食らって自殺寸前のマーヴェリックは、父の死の真相を求めてバイパーの家を訪ねます。

 そこでマーヴェリックはバイパーと父が同じ隊に居た事を知り、また父以上の腕前だとバイパーに褒められます。チャーリーは疫病神かとさえ思えます。

 そして、大マーヴェリックは不名誉な死ではなく、国境を越えてバイパーたち仲間を助けて英雄的死を遂げたのだと機密になっている真相をマーヴェリックに教えてくれます。

 バイパーは確かに教え子を愛する素晴らしき指導者ですが、ばらしたと知れたらクビになるような機密を漏らしてまでマーヴェリックをフォローするのは、やはり大マーヴェリックへの恩義と愛に報いる為です。

 そして翌日の卒業式に出るか辞めるかを自分で判断して選べとマーヴェエリックに男としての決断を促します。チャーリーとはえらい違いです。

 チャーリーは家を引き払ってさっさとワシントンへ行った後。もう敵は居ません。バイパーの慰めックスの始まりです。でなければマーヴェリックは遅ればせながらも卒業式には出てこれなかったでしょう。

 そして卒業式の最中にサプライズ任務というのも出来過ぎた話です。冷静に考えて、あの事件は空母に居るパイロットでも間に合ったはずです。バイパーがスティンガーと相談して決めた事でしょう。マーヴェリックを治療する荒療治です。

 しかも、レーダー員が決まらない時は俺が行くとバイパーは言い添えます。これはもう何気に最尊シーンかも知れません。

 考えてみてください。マーヴェリックは下手したらカミカゼをやりかねない状態です。それを後ろに乗ったら操縦出来ないトムキャットだというのに自分がやると言うのです。これは崇高にして美しき愛です。死ぬ時は俺が一緒に大マーヴェリックに詫びねばというわけです。

 少年愛とは少年の成長に責任を負うのが本当です。バイパーはよく分かっています。そして、一緒に死ねば独り占めという下心が感じられるのも全盛期のトム・クルーズなら仕方ない話です。

スライダー×アイスマン

 ハッキリ言ってこのカップリングは説明の為で、アイスマンの後ろのスライダー(リック・ロソヴィッチ)は竿役でしかありません。

 スライダーはかなり嫌な奴で、アイスマンと組んでいるのはたまたまとしか思えません。というのも、アイスマンは自分が一番セクシーと思っているナルシストなのが明白だからです。

 マーヴェリックに対抗してチームの規律の大切さを説きますが、これとて自分がケツを拭きたくないからです。

 スライダーにも必要上ケツを貸しているだけで、このコンビには数合わせのハリウッド(ウィップ・ヒューブリー)/ウルフマン(バリー・タブ)組以上に愛を感じません。

とは言え、スライダーが居ないとアイスマンも飛べないので一応尊重します。マーヴェリックにチャーリーにしつこく迫ってスライダーが冷やかした時に「臭いぞ」となじったのも、何が臭いのかという話です。タチの方が臭いのがホモセックスです。

 出せば喜ばれただろうに、続編にはスライダーは出て来ませんでした。これは所詮2人が身体だけの関係であったという事です。アイスマンはマーヴェリックしか見ていないのです。

アイスマン/

 本当はグースをトリに持って来るつもりだったのですが、何しろトニー・スコット公式ですし、あんな見事なBLを続編でやられては差し替えも致し方なしです。

 アイスマンはトップガンに来た時点で有名人ですが、もう明らかにガチホモです。主席卒業者の名前のプレートが講堂に飾られると聞いて2番以下は女子便所に飾ろうとか言いだす有様です。女は下等だと思ってるタイプのホモです。

 それに大笑いしちゃった上、マーヴェリックにアイスマンを「氷のように冷静でミスをしない」と紹介しちゃうあたりグースも相当です。以前からの知り合いのようなので、グースにも過去があったという興奮する事実が浮き上がってきます。

 グースの仲人で引き合わされた二2人はクーガー観で早速衝突します。

 アイスマンは「いい奴だったのに」と言えばマーヴェリックは「今もいい奴だ」とやり返します。性格が出ています。穴さえあれば棒さえあればなビッチと、俺が一番セクシーと思ってるナルシストのイデオロギー闘争です。

 クーガーもまさかコンドームされているとは思いもよらないでしょう。コンドーム使って奥さんとよろしくやってるかもしれませんが。

 アイスマンは最初からマーヴェリックにライバル意識むき出しで、暗に自分がナンバーワンだと宣言していきます。これにグースが「捻くれた奴」と明確にディスるのもグースの独占欲です。危険なライバルである事をグースのホモレーダーがもう察知しているのです。

 初訓練でジェスターに勝てたのは2組だけでしたが、アイスマンはマーヴェリックが制限高度を守らなかったのを咎め、皆が迷惑していると責めます。

 しかし、その実ルールに縛られてしまう自分と違ってそんな物を意に介さないマーヴェリックが眩しくて仕方ないのです。それは続編で補強された部分であり、タランティーノも私に賛同する事でしょう。

 仲が悪いくせに休日には一緒にお楽しみのビーチバレーをやっちゃうのも、嫌いとツンデレは違うということです。

 この意味のないお色気シーンには世界のゲイが大興奮しました。何の事はありません。アイスマンもその一人だったのです。

 僅差でアイスマンリードで訓練の進む中、ハリウッドを捨ててバイパーのケツを追いかけたマーヴェリックにアイスマンは「危険で愚か」だの「気味とは誰も飛たくない」だのと滅多打ちです。チャーリーと寝たのが許せないのです。

 しかし、訓練が中盤になってついにマーヴェリックとアイスマンは一緒に飛ぶ機会を得ます。あの悪口が嘘のようにアイスマンは嬉しそうです。溶けてウォーターマンになってます。

 マーヴェリックの危険さに文句を言っていたくせに強引に前に出るアイスマンをご覧下さい。これはホモリアル、どっちが掘られるかの喧嘩です。受け合戦です。

 そのせいで事故が起き、グースは死んでしまいます。これはまさかアイスマンの陰謀ではないかという黒い推測も私の中あったのですが、続編を見てそれは消しました。

 アイスマンはそんな冷酷な男じゃありません。アイス(シャブ)のようなマーヴェリックの中毒性に狂っているだけです。

 そして、グースロスに打ちひしがれて腑抜けになったマーヴェリックにアイスマンは急接近します。

 傷心だから落ちやすい。最大のライバルが死んだ。そして、腑抜けたマーヴェリックは見ていられない。しかし、マーヴェリックは登校拒否を起こしてしまいます。未亡人物の王道展開です。タランティーノは日本大好きなので『めぞん一刻』くらいはチェックしているでしょう。

  •  しかし、チャーリーも退場したので一気に事態はアイスマン有利に傾きます。主席の座を獲得したアイスマンを祝福するマーヴェリック。アイスマンはメスの表情ですが、スライダーは複雑な表情をしています。竿役はもう敗北を確信しているのです。

 そして最終決戦は一緒に出撃したハリウッド/ウルフマン組が撃墜され、マーヴェリックが出撃して幕が開きます。

 ホモのホモ嫌いの5人のアカ野郎に輪姦されてキレ痔寸前のアイスマンの元にマーヴェリックが急ぎで駆けつけ、問題のドッグファイトが始まります。

 ここでの言葉尻を捕まえまくってアイスマン誘い受けを熱弁するタランティーノの方法論は、私と全く同じ物です。

 マーヴェリックはジェットウォッシュまで食らってトラウマにやられて空域から離脱してアイスマンばかりかスティンガーまで失望させますが、グースのドッグタグで勇気を取り戻して舞い戻ります。

 そしてロシア野郎に掘られているアイスマンを自らの危険も厭わず助けようと固執します。

 アイスマンの思う壺です。誘い受けが完璧に決まりました。マーリンに何を言われても俺は離れないとガン掘り宣言までかます有様です。

 その直後にアイスマンがミグを撃墜したのは、ホモ用語で言う所のトコロテンのメタファーです。その直後に被弾したのは、ガチホモの宮本武蔵が書き残した「ヤっている時が一番無防備」という理論と符合します。

 挙句アイスマンはまたもロシア野郎にケツを掘られてピンチに陥りますが、マーヴェリックはその後ろから三連ケツを決め、そして息を合わせてこの挟まりロシア野郎を仕留めますが、今度は別のロシア野郎がマーヴェリックのケツに迫ります。

 しかし、ここで魔性の誘い受けが炸裂します。ギリギリまで引き付けて一気に減速してオーバーシュート(追い越し)させてリバってイかせ、敵は逃げて行って万々歳となります。

 実質ホモ乱交で大いに愉しんだマーヴェリックとアイスマンは仲良く管制塔をかすめ、アイスマンから先に着艦します。

 そしていつでも俺のウイングマン(僚機)にしてやると俺様受けをかましますが、マーヴェリックは「お前がな」と変則リバをかまして熱い抱擁を交わします。

 ここまで言えば表記が割り算だった意味が分かるでしょう。アイスマンはあくまで受けでラストファイトを完遂し、今夜は前後逆転でいこうぜというわけです。

 日本のBLシーンではリバはキワモノ視されますが、その実ゲイはどっちが掘るかで揉めるのが日常茶飯事です。トニーやクエンティンがその程度の事を分からぬはずがありませんし、私も賛同します。ウイングマンはとかくケツに拘るのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介し

『ハスラー2』(1985 米)(★★★★★)(トム・クルーズ映画の原点)
『デイズ・オブ・サンダー』(1990 米)(★★★★★)(トニーのサーキット版トップガン)
『ブロークバックマウンテン』(2005 米)(★★★★)(森川×東地の最強のゲイ映画)
『零戦黒雲一家』(1962 日活)(★★★)(海自全面協力の石原裕次郎のトップガン)
『ビバリーヒルズ・コップ』(1984 米)(★★★)(ハロルド・フォルターメイヤー入魂のBGM)

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