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第29回 ハスラー2 (1985 米)

 思えば汗臭い作品ばかりレビューしてきました。半分はスタローン松方弘樹のせいですが、選んだのは私ですしそれ自体に後悔は全くありません。

 しかし、ただでさえ下品なコンセプトでレビューをしているのにその上B級ムードな映画ばかりチョイスしていては知性が疑われそうですし、第一色どりに欠けます。

 そこでここは一発、お洒落な映画で攻めてみようと思います。日本でも大ヒットして社会現象を起こしたビリヤード映画『ハスラー2』です。

 ポール・ニューマン演じる伝説のハスラー(賭けビリヤード師)ファースト・エディは歳を食って衰えを感じ、ハスラーの足を洗って堅気の暮らしを送っていましたが、才能ある若者のヴィンセント(トム・クルーズ)と出会い、師弟関係を結んだ上で現役復帰するという麻雀劇画とかでよくある筋書きです(どっちが先かというと困っちゃいますが)

 ビリヤードは番号順にボールをポケットへ入れていくスポーツですし、先に『ハスラー』の方からレビューするのが筋なのでしょうが、それはちょっとできない相談です。何故なら『ハスラー』の方は古い映画(1961年公開)なので配信されていないのです。

 しかし、片方だけでも予備知識なく見られる作りになっています。しかもポール・ニューマンとトム・クルーズです。こりゃあ腐女子は観なきゃ損です。

ハスラー2を観よう!

 U-NEXTで有料配信があるのみです。ポイントに有効期限が無ければ当分レビューしなかったでしょう。

真面目に解説

ビリヤードというスポーツ

 ビリヤードがその実賭博であるのは淀川先生が男が好きなのと同じで公然の秘密です。大抵のビリヤード場には両替機が置いてあるのはまあそういう事です。昔の映画やドラマでヤクザがよくビリヤードをやっているのはそういう事情が絡んでいます。

 要はビリヤード場は雀荘みたいな場所だったのです。戦前は学生の娯楽としてビリヤードが大変盛んでしたが、これが戦後に麻雀にとってかわったのです。

 というのも、ビリヤード台は水平に設置する必要があり、安普請の建物には設置できないのです。そもそもあの台は凄く高価です。そこへいくと雀荘は安上りなのです。

 果たして今作のヒットで日本ではビリヤードブームが起きました。1983年のファミコンの登場以来客足の落ちていたゲームセンターがビリヤード場に転業したなんて話がたくさん残っています。そして多くはすぐ潰れました。

時代の移ろい

 既存のビリヤード場も方向転換を強いられました。作中プレーされるのは「ナインボール」と呼ばれる9個のボールを番号順に落としていき、9番を落とした方が勝ちというよく見かけるルールです。

 ところが当時の日本では「四つ球」と言って、穴のないテーブルと4つのボールを使うルールが主流でした。これが今作のヒットで一気にナインボールに置き換わったのです。

 韓国では今でも四つ球が主流だそうですが、今の日本では四つ球のテーブルは古い店の片隅に1台あるかないかです。私はひねくれものなので見つけたら迷わず四つ球をプレーします。空いてますし。

 エディもビリヤードの主流がナインボールになってしまったのに複雑な心境です。前作『ハスラー』の時代には「ストレートプール」という15個のボールを使ったルールが主流だったのです。

 何しろ25年越しの続編です。時代の移ろいというのも今作の大事なテーマなのです。

邦題の方程式

 今作の原題は『The Color of Money』というものです。前作『The Hustler』の続編である事は確かなのですが、これではお客さんには続編とは分かりにくいのも確かです。

 そこで大胆にも『ハスラー2』と思い切りわかりやすい邦題にしました。味は無くなりましたが単純明解です。

 この手の邦題に改悪だと怒るのは簡単ですが、何故そうなったのかを考えるのも映画の楽しみの一つではないでしょうか?その上で自分は原題を知っていれば十分というのが私の考えです。

 しかし、今作を観た人の多くは最初の『ハスラー』の方を見た事はないのは内緒です。

俺のケツに付け!

 60年代に伝説のハスラーとして売ったエディもオッサンとなり、胡散臭い酒のセールスで生計を立て、愛人のシャネル(ヘレン・シェイヴァー)の切り盛りするバーに入り浸って隠居状態です。

 ジュリアン(ジョン・タトゥーロ)という弟子も居り、ヤクザな商売をしていた割には結構幸せそうな老後を過ごしています。名探偵モンクの兄貴にもこんな過去があったのですね。

 しかし、今日のジュリアンはどうにも旗色が悪く、女連れのヤンチャなガキに押されて敗戦ムードです。金の尽きたジュリアンにその若者ヴィンセントは賭け金無しでいいという条件でさらなる勝負をねだります。しかしジュリアンに断られ、相手が見つかりません。

 ヴィンセントの彼女のカルメン(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)はエディの正体を知らずに20ドルの勝負を持ち掛けますが、エディは500ドルならと逆に条件を出してカルメンをビビらせます。

 エディは「腕を知らない相手との勝負は危険だ」と忠告し、ヴィンセントの腕を謎に保つ事の必要性を説きます。

 トム・クルーズは『卒業白書』で性欲過剰の高校生役でブレイクし、世界の空のパワーバランスを変えた『トップガンは公開直後。まだ売り出し中の若手でした。しかし、今作のグースは油断ならない女で、アイスマンはもっと執拗に誘ってきます。

ハスラーの条件

 エディは二人を食事に誘い、それとなくハスラーのレクチャーをします。腕だけではなく人を見る目が必要だというのです。ただ勝つだけでは儲からないのです。

 エディは客で賭けをして説得力を持たせようとします。2分以内にあの女を口説くと宣言して見事成功させます。するはずです。女は知り合いなのですから。

 その夜はシャネルとお楽しみですが、エディは上の空です。ヴィンセントの事が気になって仕方ないのです。

 翌日、カルメンがエディに接近します。彼女は金にうるさいのです。エディは愛車の白いキャデラックを披露し、ハスラーの心得を学べばこういう暮らしができるとアピールです。

 そして6週間後にアトランティックシティで行われるトーナメントに向けて三人で修行の旅をしようと提案します。カルメンはすっかり乗り気ですが、問題は気まぐれなヴィンセントです。

お前に賭ける

 エディは彼の働くおもちゃ屋まで説得に行きますが、あまり乗り気ではありません。そこでエディはカルメンがヴィンセントに飽き始めていると揺さぶりをかけ、更に「キューのストラディバリ」と称されるバラブシュカという有名な職人の作ったキューをプレゼントして口説こうとします。

 ヴィンセントがバラブシュカに入れ揚げている間に、エディはカルメンに外へ煙草を買いに行かせ、出て行ったと思わせて更に攻めます。元よりカルメンはその気なのでエディの策に協力的です。

 かくしてエディの揺さぶりは成功し、ヴィンセントは旅に出る決意をしますが、問題はエディの身辺整理でした。見捨てられた形のジュリアンは当然怒り、一緒にバハマに行く予定になっていたシャネルとは完全に決裂です。

 もはや後の無くなったエディはヴィンセントに賭けます。経費は全部自分持ち、勝ちの6割を貰うという条件で旅に出発です。トーナメントの前の練習で稼ごうというのがエディのプランです。

子守はつらいよ

 とりあえず一行はエディ曰く「格のある店」というビリヤード場へ向かいます。バラブシュカは目立って警戒されるので本番まで封印です。ところが月日の流れは残酷で、店は廃業して家具倉庫になっていました。大笑いするヴィンセント。

 別の店でどうにか勝負は始めたものの、ここで注目すべきはヴィンセントはビリヤードは上手いのにどうしようもないアホだという事です。

 相手に選んだのだ咽頭がんで喉に穴の開いた爺さんだったことから気の毒になってしまい、勝負に徹することができません。60ドルくらいと言ってわざと負けようとします。

 エディはそれを察知して姿をくらませ、負け金を払えないヴィンセントは店の客にリンチされそうになります。そこへエディがバカ息子を連れ戻しに来た父親のふりをして現れ、負け金を踏み倒して逃げます。

 そして相手に情けをかけるなときつく叱るのです。この旅は終始この調子でアホのヴィンセントの操縦にエディは苦慮します。

ハスラーの稼ぎ方

 賭けビリヤードの肝は直接プレイヤー同士が戦う所にあります。阿佐田哲也も小説で同じことを書いていましたが、この手の博打は勝ち続けると最終的に相手が居なくなってしまうのです。そこでハスラーは直接の勝敗以外の駆け引きが必要になるのです。

 一行は治安の良くない店に向かいます。こういう店には悪銭をたんまり持った客が多いので稼ぎやすいのです。

 店の主でエディとは旧知の仲のオービスは1割5分の紹介料でカモになりそうな客を紹介してくれるそうです。ハスラーには横のつながりも必要なのです。

 ヴィンセントは治安の悪さにビビり、カルメンを「レイプ犯の巣だ」と返そうとします。ところがカルメンの方が肝が据わっていて「かわいい坊やは危ないわ」アウトローのリアルを知り尽くしています。

 店で一番の腕利きはモゼルなる鼻ピアスです。エディはあいつには近づくなとくぎを刺します。勝ってしまうとカモが寄り付かないからです。

 そしてアールなる1ゲームに5000ドルも賭けるというおっさんをカモに定めます。モゼルに勝つとアールは勝負してくれないわけです。

 エディ相手に手を抜いて適当に突いていればアールが声をかけてくるという作戦です。ナインボールとストレートプールの違いを説きながら、時代がスピード化していくのを嘆くエディ。

 ところがヴィンセントはアホなので、手を抜けという忠告を聞かずにスーパーショットを連発してご満悦です。エディはヴィンセントのアホさ加減に怒って帰ってしまいます。

 翌朝、エディがヴィンセントの部屋に行ってみるとそこにはパンツ一枚のカルメンが居るだけで、ヴィンセントは何処かへ出かけた後です。

 エディはカルメンにヴィンセントを上手くコントロールするよう指示しますが、カルメンも金勘定ができるだけで基本的にアホなので反抗的です。

 エディはカルメンをレイプしようとして落ち着かせ、これはビジネスだと説いてどうにか納得させますが、ヴィンセントはバラブシュカを手にどこかへ消えた後です。

調教師エディ

 案の定ヴィンセントは店でバラブシュカを見せびらかし、モゼルに圧勝してキューをヌンチャクみたいに振り回してご機嫌です。勿論アールは逃げてしまいます。

 150ドル儲けたとヴィンセントは大喜びですが、エディは大損だと激怒します。もうこの街でヴィンセントと勝負をしようというカモは居ないからです。

 一方ヴィンセントはバラブシュカをくれたのに使わせてくれないとブー垂れ、俺は野獣だと雄たけびを上げて怒ります。ビリヤードの玉より脳が小さいとしか思えません。

 ヴィンセントをエディは車で追いかけ、「勝負で稼ぐ金は働いて稼ぐ金の二倍素晴らしい」と教師が聞いたら怒りそうな事を説いてどうにかエディを説得します。

 しかし、ヴィンセントは自分を抑えるのが辛いとこぼします。こんなアホを弟子に持てばエディも困るのは当然です。癒しを求めてシャネルと復縁しようと電話なんか掛けちゃいます。

やきもち戦術

 ヴィンセントはアホですが浪花節は分かるらしく、親身になってくれたエディに感謝はしています。トーナメントまでに実力が知れ渡ると不味いというエディの言葉も実践できるかは別にして素直に聞きます。

 そして翌日はヴィンセントだけでまず店に入り、続いてエディがカップルのふりをして入ります。そしていちゃいちゃして騒ぎ、ヴィンセントを挑発して喧嘩をおっ始めます。そしてエディはヴィンセントの対戦相手に500ドル賭けます。

 これにマスターがヴィンセントの負けに1000ドル賭けると乗りました。当然ヴィンセントは勝ちます。エディとヴィンセントはグルなので500ドルは差し引きゼロ。マスターの1000ドルが一行に入って来て儲かるわけです。

 こういう技術がハスラーには求められるわけです。ところがヴィンセントはエディがあんまりカルメンといちゃつくので本当に怒ってしまいい、「これは芝居だ」と二人でどうにかなだめます。カルメンも1000ドル儲かったとなればもう何でも来いです。

 その後は最初はわざと負けておいて、頃合いを見てレートをアップしてから勝ったり、ムキになるカモを探したりと古典的な戦術でじゃんじゃん儲けます。

熊には死んだふり

 やがて、一行は大物に出くわします。トッププロのグレイディ・シーズンスです。演じているキース・マクレディは本物のプロです。

 腕を誇示できると大喜びするヴィンセントですが、エディはわざと大差で負けろと指示します。

 トーナメントでは客も賭けるし選手同士も賭けます。ここでシーズンスにみっともなく負けておけばヴィンセントは過小評価され、トーナメントの賭けで儲かるというわけです。

 カルメンはこの仕組みを既に理解していますが、ヴィンセントは不満そうです。それでも最初は言う通り惨めに負けていました。

 そこへシーズンスのミスから勝つチャンスが巡ってきます。ヴィンセントは完全にネジが外れて勝ちに行ってしまい、激闘になります。困ったことになったと苦い顔をするエディ。

 そこでカルメンがヴィンセントを「勝ったら今日のセックスは自分の手でやって」と脅迫です。エディの言う通り女の武器を上手く使った作戦は見事成功し、ヴィンセントはわざとミスショットをして負けるのでした。

 シーズンスの「悪夢のようか?」「突くごとに悪くなるだろ?」という煽り文句はリアリティがあります。マクレディという人は普段からこんなことを言いながら突いていたのです。

 そうして盛大に賭けながらプレーしていたところをたまたま取材に来たマーティン・スコセッシ監督に気に入られ、出演が決まったのだそうです。

 しかし、映画に出たせいで顔が売れてしまい、ハスラーとして稼ぐことが出来なくなってしまって今ではセミリタイアとのことです。

昔取ったキュー

 一方エディに変化がありました。昔の血が騒いでしまい、一度はヴィンセントにやったバラブシュカを持って店に行き、自ら勝負を始めます。

 最初は順調でしたが、アモス(フォレスト・ウィテカー)という面白黒人が現れると風向きが変わります。アモスは最初は酔っぱらって無駄話をしながら突いていましたが、段々様子がおかしくなっていきます。

 アモスは実は筋金入りのハスラーだったのです。アホのふりをして相手を油断させ、一転攻勢でむしり取るという戦術にエディは見事に敗れ、意気消沈です。

 そんなエディをヴィンセントは励ましますが、エディは金を渡してチーム解散を宣言します。二人は困惑して引き留めますが、エディは聞きません。

 ヴィンセントはアホなのに「態度が悪いなら改める」とまで言いますが、痴話げんかの末にヴィンセントは金とバラブシュカを放り投げ、階段の手すりを引き剥がしてブチ切れて決別します。そしては金はカルメンがしっかり回収していきます。

 二人を手放して現役復帰を決意したエディはトレーニングを始めましたが、老眼と肩凝りに苦しめられて思うように玉が突けません。

 そこで水泳で体力を強化し、老眼鏡を作って柄にもないスポ根で頑張ります。やがてモゼルが勝負を挑んできますが、エディは敗れてしまいます。

 しかし諦めずエディは特訓を続け、試合勘を取り戻してモゼルと再戦して勝利します。最後に勝つのがハスラーなのです。

師弟対決

 そうこうするうちアトランティックシティのカジノでトーナメントの本番を迎えます。カジノでやるのがビリヤードの本質を物語っています。言うまでもなくホテルでは前哨戦が行われるのです。

 ジュリアンに嫌味を言われたりしましたが、エディは危なげなく1回戦を突破します。そしてエディはホテルのバーでチャンピオン相手に賭けの交渉をするヴィンセントとカルメンの姿を見つけます。苦労したのかすっかり交渉上手になっています。

 二人とも順調に勝ち進みます、エディはジュリアンを打ち負かし、ヴィンセントはシーズンスを相手に思い切り嫌味を言いながら雪辱します。何と都合の良いトーナメントでしょうか。

 そして準々決勝で二人は対戦する運びになります。葛藤するエディですが、嬉しい事にシャネルが駆けつけてくれます。そして高そうなチョークをプレゼントしてくれます。これをキューに付ければシャネルの愛がボールをコントロールしてくれそうです。

 師弟対決は激闘となります。テーブル上を玉が行き交う映像美は圧巻です。ヴィンセントはジャンプショットまで決めて絶好調ですが、エディもブレイクエース(最初のブレイクショットで9番を入れてしまう)を決めちゃって負けていません。

 1000万ドルしかかかっていない安上りな映画ですが、その代わり手間がかかっています。ポール・ニューマンもトム・クルーズもそれなりの腕だそうですし、難しいショットはプロに頼んだそうですが、何テイクも撮り直したのは想像に難くありません。

 しかし、最終的にヴィンセントがミスをしてエディがかろうじて勝ちを拾います。ヴィンセントを優しく労うエディ。しかし、人の見ていないところではガッツポーズです。

ハスラーの経済学

 エディがシャネルとお祝いをしていると、ヴィンセントが大金を持って訪ねてきます。なんとヴィンセントはエディに賭けておいてわざと負けたのです。

 シーズンスに勝った事でヴィンセントの評価は大きく高まっていました。評価が高まり切ったところでバレることなく負けて大穴を作るというのは八百長の理想形です。

 それにヴィンセントには自分は負けても次があるというアホなりの気遣いがありました。しかしプライドを傷つけられたエディは準決勝を棄権してしまいます。シャネルは「あのチンピラ」とエディより正直です

 そんなエディに「気骨のある男って大好き」とあくまで優しいシャネル。コンドームかと思いきや何と良い女でしょうか。私ならカルメンより断然シャネルです。

 そしてエディはヴィンセントから貰った8000ドルを叩き返し、再戦を挑みます。「俺を利用した」と最初は拒絶したヴィンセントですが、エディは「俺には先がない」「俺が居なきゃ今もおもちゃ屋だ」と再戦することで関係の清算を提案するのです。

 ヴィンセントは件の8000ドルを賭けるという条件で勝負に応じます。そして負けたらまた次のトーナメントで挑むとカムバック宣言をして、ブレイクショットを打って映画は終わります。

 あれ?終わり方が『ロッキー3』とそっくりですね。結局このnoteはスタローンに帰結するのです。

BL的に解説(バックボーン篇)

ハスラー(意味深)

 ビリヤードは竿をしごいて突いて玉を弄り回して穴に入れる行為です。そんなビリヤードで稼ぐのがハスラーですが、ハスラーは「娼婦」や「男娼」を指すスラングでもあります。

 BLにおいて賭博とはセックスの前戯に過ぎません。敗者は支払い能力の如何を問わず身体で負け分を払うのが型になっています。

 ヴィンセントは負け分を払えずリンチを食らいそうになっていました。死にかけの爺さんが出入りできる程度の治安の店だからよかったものを、もっと治安の悪い店なら掘られていたわけです。負け分を払えないトム・クルーズ。多少ノンケででも思想を曲げかねません。

 彼も今後はハスラーとして活動していくのでしょう。しかし、ヴィンセントにも敗れる時があるはずです。カルメン共々身体で払わされるうち、ヴィンセントは気付くのです。カルメンは要らないと。

 かくしてヴィンセントは夜な夜なわざと治安の悪い店に行くようになります。股間のキューがバラブシュカだろう相手を見定め、わざと負けるのです。セックスはヴィンセントの行動原理なので、上手く負けるのはお手の物でしょう。

 かくして負け分をわざと払わないかわいい坊やはブレイクショットされるのです。そのうちにヴィンセントはホモだが実力の程がよく分からないという噂が広まり、彼のハスラー稼業に新たな駆け引きの道具が加わります。もはやカルメンはラブホテルの自販機ほどの存在でしかありません。

そもそもニューマンが…

 『ゴッドファーザー』の回でマーロン・ブランドがバイセクシャルである事は説明しました。そしてその華麗なる男性遍歴の中にポール・ニューマンが居た事も。

 そして、自身もバイセクシャルだった名優サル・ミネオは、「男は皆バイセクシャルだ。ニューマン程度には」という至言を残しています。

 ニューマンは愛妻家として有名ですが、その一方でジェームス・ディーンとそういう関係があった事も近年の研究で示唆されています。

 とにかく、BL的映画鑑賞において役者の人間関係や人となりは覚えておいて損のない重要事項です。情報量とBLの可能性は比例するのですから。

 さて、日本でも昔はヤクザが腕利きを雇って大金を賭けて勝負させるという遊びをしていたそうです。こんなのは万国共通でしょう。エディも当然手を染めていたはずです。

 そしてある時、エディはコルレオーネファミリーに雇われたのです。そしてボスのヴィトーに気に入られ、良い仲になった。ブランドとニューマンの関係もかように解釈すると楽しいわけです。きっとホモのフレドは彼らの秘密のゲームを垣間見ていたに違いありません。

 BLに限らずこういう違う作品同士の取り合わせを「クロスオーバー」と呼びます。この手法に慣れれば可能性は無限大です。『ロッキー』で散々ガッツォさん絡みでやったので今更説明が居るのかという話ですが…

 そもそも初代の『ハスラー』の方がよりホモ臭いのです。絶対ミネソタファッツとミネソタファックしています。もっとも、これについては後の機会の為に大事に取っておきます。

BL的に解説(カップリング篇)

ヴィンセント×エディ

 エディは弟子を育て、賭け金を出してやる一方で勝ち分をピンハネするというビジネスモデルを確立しています。競走馬と馬主のようなものです。

 エディはヴィンセントに可能性と下心を感じました。そしてハスラーとして培ったあらゆるものを利用してヴィンセントを捕まえてしまうのです。

 ヴィンセントは言う事をちっとも聞かない暴れ馬ですが、そんなヴィンセントにエディは若き日の自分の面影を見ています。『ハスラー』の最初の部分のエディはまさにあんな感じでした。

 師弟関係、若き日の自分の面影、いずれもBLでは淫語です。二人は結ばれる運命にあります。バラブシュカを授けたのもプレイの一環です。お前の股間のバラブシュカが欲しいというサインに他なりません。

 しかもエディはシャネルとは喧嘩別れ状態でした。エディのポケットがヴィンセントのキューに向くのは当然なのです。

 先にカルメンを手懐けたのも将を射んと欲すれば先ず馬を射よというハスラーならではの戦略です。ヴィンセントはカルメンの身体の為なら言う事を聞くし、カルメンは金の為ならエディの言う事を聞くからです。

 ハスラーは男娼でもありホモセックスも必要とか何とか言えば、カルメンは「今日のセックスはエディとして」とヴィンセントを差し出してしまうのです。

 そうしてエディのポケットにひたすらキューを突き込むヴィンセント。段々とエディの言う事を聞くようになったのはそういう裏があったとしても驚く事はありません。親身になったとはそういう事なのです。

 そしてエディは敗れ、二人を手放して現役復帰を決意します。しかし、ヴィンセントは激しく抵抗します。そしてあの怒り様、もはやエディの虜になっていたのは明白です。カルメンなどもはやコンドームです。

 トーナメントに現れたエディとの再会にヴィンセントは露骨に喜び、自分に賭けろと執拗に誘います。俺を仕込んでくれたエディに恩返しがしたくて必死なのです。

 その愛情は八百長で金と勝利をプレゼントするという歪んだ方法で発露しました。まだまだ若い者には負けないと柄にもないガッツポーズまでして喜んだエディでしたが、プライドを傷つけられてしまいます

エディ×ヴィンセント

 ここで攻め受けが入れ替わります。リバです。エディは再戦を申し込んだのはそういうことです。カムバックとはそういうことです。

 エディは『ハスラー』の方で恐ろしい修羅場をくぐっています。アホのヴィンセントとは見えている物が違うのです。

 プライドを傷つけられて闘志を取り戻したエディ。そして見ているのはお互いの女だけ。姑息な駆け引きなど考える必要のない今、もはや彼はハスラーではありません。ヴィンセント以上の野獣なのです。

 ヴィンセントを完膚なきまでに打ち負かし、賭け金を投げ捨てるエディ。股間のバラブシュカがヴィンセントの恐らく新品の尻にチョークもなしに襲い掛かります。今度はヴィンセントが傷つけられる番です。

 今後もトーナメントで二人は顔を合わせることがあるでしょう。こうなるとヴィンセントはメンタルが弱いので委縮してしまいます。「淫夢だろ?」「突く度に締まるな?」などとエディに揺さぶりをかけられれば私でも入れられるショットを外すことでしょう。

 ヴィンセントはムキになって何度も勝負を挑むはずです。そしてその度負けては掘られ、弱くなっていくのです。最後に勝つのがハスラーなのです。

ジュリアン×エディ

 そもそもジュリアンがエディの一番弟子です。彼はヤクがやめられないというのを除けば腕も悪くなく、ハスラーとしての駆け引きもちゃんと心得、エディの言う事を聞くなかなか優秀な弟子でした。

 それをあのぽっと出の若造が全て奪い取ったのです。ジュリアンは今度出る試合を見に来てくれとエディに頼みますが、エディはヴィンセントと旅に出るから駄目だとあんまりな返事です。

 ジュリアンは激しく動揺し「あんなアホとどうかしてる」「狙いは奴の女か?」と忠誠心が明らかに揺らいだ悪態をつき、「勝った方が旅へ」と分の悪いのを承知で勝負を提案さえしますが、エディはにべもなく断ってしまいます。

 ジュリアンのジェラシーは爆発し、師弟関係は完全に決裂します。「坊やといいコンビだよ」と師弟解消宣言です。

 ジュリアンを誰が責められましょうか?これは怒るのが当然です。ぽっと出のガキの為に自分は捨てられたのです。

 この分だとジュリアンの方はエディに惚れぬいていたようですが、エディの方はさほどジュリアンに愛情を注いでいなかったような気がします。だとすればジュリアンが麻薬に逃げるのは当然です。

 トーナメントで二人は再会しますが、ジュリアンは何と新しい男を連れています。最初連れていた派手な彼女は姿が見えません。これは何をいわんやです。そして散々恨み言を言って去っていきます。

 こんな状態でジュリアンとエディが対戦してジュリアンに勝ち目があろうはずがありません。エディは開始早々「鼻に粉が付いてるぞ」と死人に鞭打つようなことを言って挑発します。さぞや盛大にキメていることでしょう。気の毒ですが、負けるのは当然です。

ジュリアン×エディ

 しかし、ここでジュリアンに仕返しのチャンスが訪れます。今ホットなNTR展開です。

 ハスラーの間ではすぐに噂は広まるとエディは言いました。つまり、ヴィンセントがエディに掘られてメロメロという噂もすぐ広まるのです。

 ではどう広まるのか考えて見ましょう。エディに弄ばれるヴィンセントを見て、カルメンが「エディのホモ野郎」とかどこかで口走って、そこから話に尾ひれがついて広まっていくと考えるのが自然です。

 最初に真意に気づくのはジュリアンです。なぜなら彼も掘られれているからです。エディが夜どんな風なのかもつぶさに知っているのです。

 そして、ジュリアンとヴィンセントもまた今後はトーナメントで頻繁に顔を合わすようになるでしょう。

 ここで兄弟子ジュリアンのハスラーとしての手腕が炸裂します。ヴィンセントの支払い能力を超えた額の賭けを引き受けさせ、ゲーム中ずっとホモネタで揺さぶりをかければヴィンセントを打ち負かすのは簡単でしょう。

 そして負けをしょい込んだヴィンセントは身体で払う羽目になります。ジュリアンのキューの先端にはチョークならぬコカインが塗りこめられているのです。

 麻薬は尻からキメるのが一番効くというのは別の棒を扱うスーパースターが覚せい剤で逮捕された時の醜聞で広く知られる事実となりました。もうヴィンセントはジュリアンから逃げられません。

 かくしてヴィンセントは二人の男にめちゃくちゃにされ、別の意味でハスラーとなり、特殊な街角で自らのキューとポケットを商うようになるのです。おもちゃを売っていたのに、おもちゃとして売られていくのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介し

『トップガン』(1986 米)(★★★★★)(トム・クルーズ映画の頂点)
『デイズ・オブ・サンダー』(1990 米)(★★★★★)(トム・クルーズ映画の隠れた逸品)
『レイジング・ブル』(1980 米)(★★★)(スコセッシ入魂の一本)

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