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【短編小説】 シャルトリューズからの手紙

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ある日突然、〝弟〟から〝私〟に手紙が届いた。30年以上音信不通だった〝弟〟はカトリックに改宗し、山中の無言の行を行う修道院にいると言う。 弟はなぜ、修道士の道を選んだのだろうか?… もっと読む
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#祈り

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第4章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第4章

 4度目の便りは、それから1ヶ月後に届いた。


 お姉さん、お元気でお変わりなく過ごされていることをお祈り申し上げます。僕がこの修道院に入ってから、もうすぐ1年が経とうとしています。僕は元気です。少なくとも、表面上は……。
 相変わらず、祈りの日々を続けています。夜11時30分に起き、自分の房で祈りを捧げ、零時15分には礼拝堂に移ってほかの修道士たちと朝課を行います。午前3時になるまで賛課は続

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【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第7章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第7章

 急に話の風向きが変わったので、好奇心に駆られて僕はつい聞いてしまいました。
「そうです。人の噂によると、彼女は彼女のすぐ下の弟に溺愛されていた。年の近い間柄だったから、幼いころからくっつき合って育ったのは皆が知っていました。私は彼女が彼女の弟を、きょうだいじゅうで一番愛しているのも知っていました。ところが」
「ところが、何です?」
 伯爵の顔色が少し変わった。
「おぞましいことです」
「何でしょ

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【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 終章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 終章

 書くことは記憶を固定することだと、いつかどこかで聞きました。おそらく奥様の書かれたこの文章で見知ったものだったのでしょう。それともそれ以前にインターネットか何かで読んだのかもしれません。或いはテレビで見たものだったかも……。どこで得た情報か正確には思い出せませんが……ともかくその言葉はいつからか私のなかに入り込み、深く根付いているのでございます。そして近ごろ、とみにその言葉を思い出すことが多くな

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