ショートショート:赤いベレー帽の彼女ーChatGPTと二人で書いてみましたー
オフィス街の谷間の、古い小さな喫茶店。
赤いベレー帽の彼女は、毎日ここに寄っては窓際の席でコーヒーを飲んでいく。
若いマスターは、彼女が自身の少ないお小遣いから、1杯400円のコーヒー代を毎日なんとかひねり出しているのを、テーブルの上に財布の中身を開けている姿から、悟っている。
(誰かを待っているのかな?)
マスターは、彼女を見かけるたびに気になってしまう。
でも、今日は普段と違った。
降りしきる雨の中、いつものように現れた彼女の前に、白い封筒が置かれている。
「小夜子さんですか」
と、ビシッとしたスーツ姿の男性が差し出してきた封筒。
「はい、私ですが…?」
彼女は戸惑いながらも、それを受け取った。
封筒の封を切り、中身を読む。
マスターは男へのコーヒーを運んだとき、ついうっかり彼女への手紙を覗いてしまった。男らしい闊達な文字が並び、末尾に「林信雄」と書いてあった。
トレンチコートの良く似合う、白髪頭の五十年輩の男が小夜子の前に座った。
「林です。お久しぶり」
「林さん…もう20年ぶりになりますのね」
「あなたはあの頃と余り変わりませんね」
信雄はそう言って、照れたように微笑んだ。
小夜子も笑った。あの頃と同じように。
「20年ぶりに会ったのに、まるで昨日のことのように話せるね」
信雄は白い歯を見せて笑った。
二人は思い出の喫茶店で、互いのコーヒーを啜りながら、互いの眼を見つめていた。
20年前にひそかに想い合っていたことを確認するにはそれで充分であった。
けれど、その後に訪れる沈黙は、もう昔のそれとは違っていた。
「何故、20年前に言ってくれなかったの?」
小夜子の声は、どこか遠くを見つめるように小さく響いた。
信雄は答えなかった。ただ、コーヒーのカップを見つめるだけ。
時間が経ちすぎた。もう二人とも、とっくに別々の家庭を持っている。
「…今さら、何を言っても遅いよね」
信雄は立ち上がった。
「でも、あなたにもう一度会えてよかった」
小夜子は、その背中を静かに見送る。
テーブルには、彼の飲み残したコーヒーカップが残っていた。
小夜子は少し迷ったあと、カップを手に取り、そっと口をつけた。
苦い。けれど、少しだけ温かい。
それは、彼とのたった一度の間接キス。
手も握らなかった二人にとって、唯一の触れ合いだった。
(思い出の喫茶店で、こうして独りでコーヒーを飲んでいる方が、幸せだったのに)
そう思いながらも、小夜子の口元にはどこか懐かしさが残っていた。
口紅が薄くついたカップをそっとテーブルに戻す。
ふと、窓の外に目をやる。
雨が上がり、街の向こうに虹がかかっている。
優しく弧を描くその姿は、どこか遠い場所と小夜子を繋いでいるようだった。
(私はこれからも毎日、この喫茶店を訪ねるだろう)
そして…。
「いつか、また」
小夜子は虹を見上げながら、そっと呟く。
その頃、信雄はすでに喫茶店から遠く離れた場所にいた。
車の窓越しにふと見上げた空に、同じ虹が架かっている。
彼は一瞬、何かを思いかけて、視線を戻した。
(いつか、また…)
彼の胸の奥に、小さな希望が静かに残ったまま、車は再び走り出していった。
彼女が窓の外の虹を見つめている。
マスターが静かにその横顔を見ていた。
(あの人、今日は何だか輝いてるな……)
でも、それが何故なのか、マスターにはわからなかった。
そして、いつもと同じように彼女はそっと席を立ち、コーヒー代を払って風のように去っていく。
その背中を見送りながら、マスターは思った。
(明日も、また来てくれるだろうか)