働く人と組織の躍動を支援していきたい。Adecco Groupの「ビジョンマッチング」がつくる2025年の仕事の未来
「『人財躍動化』を通じて、社会を変える」というAdecco Group Japanのビジョンの実現を目指し、2021年にAdecco Group Japanで発足された社内プロジェクト「ビジョンマッチング」。今回は、プロジェクトを最前線で牽引してきた槙田朋臣さんにお話を聞きました。
仕事を通じたウェルビーイングを実現する「ビジョンマッチング」
ビジョンマッチングは、組織と人財を、希望条件だけでなく、それぞれの価値観やビジョンまで掘り下げて結びつける試みであり、それを推進していくのがこのプロジェクトです。
本プロジェクトの根幹には、Adecco Groupにおける世界共通のパーパス「Making the future work for everyone.」があります。日本において、これをどのように実践していくのか考えた結果、Adecco Group Japanでは2025年に向けて「『人財躍動化』を通じて社会を変える」というビジョンを掲げました。
人財躍動化を実現するために、2025年までに30万人の人財(「適財」)の輩出と、30万ポジション(「適所」)の創出、そして「適財」と「適所」を「ビジョンレベルでマッチング」する5カ年中期経営計画を策定しています。このことからもわかるように、ビジョンマッチングはAdecco Group Japanのビジョンを達成するために欠かせない、全社横断型プロジェクトなのです。
――人財躍動化を実現するうえで、どうしてビジョンマッチングが重要なのでしょうか?
これまで人財サービス会社は、基本的に、職種的条件、金銭的条件、時間的条件、場所的条件といった「条件」のマッチングをしてきたと言えます。しかし、そうした表面上の「条件」だけを重視したマッチングでは、求職者がどんな仕事をしたいかや、ひいては自分の人生をどうしたいかといったキャリアビジョン、ライフビジョンに話が及ぶことはほとんどありません。
2020年10月に、当社が派遣社員と正社員、それぞれ1,000人に対して行った調査では、「キャリアに関して明確なビジョンがある」と答えた方は派遣社員で約24%、正社員で40%しかいないことがわかっています。
キャリアビジョンやライフビジョンは、個人のやりがいや働きやすさに繋がる大切な要素です。こうした仕事を通じたウェルビーイングの実現はまさに、我々が掲げる「『人財躍動化』を通じて社会を変える。」というビジョンにも通じます。一人ひとりが生き生きと働けるようになれば、組織・職場の生産性が向上し、我々のビジョンステートメントにある「人口減少に直面する日本の生産性を飛躍的に向上させていく」ことにもつながるわけです。
また、Adecco Groupには創業以来、キャリア開発を大事にするという考えがあります。価値観やビジョンを重視し、人という資本を育むビジョンマッチングは、私たちだからこそできることなのではないかと考えました。
暗黙知を形式知に変え、「型」で伝える。社内外のマインドセットを変える施策
――前例のない取り組みに対して、社内外の皆さんは当初どんな反応でしたか?
最初のうちは、理解をなかなか得られませんでした。
たとえば、社内では、「躍動」とはどんな状態なのか、ビジョンマッチングを行うことがなぜ「人財躍動化」につながるのかという疑問を抱いている社員がいました。また、ビジョンマッチングという言葉が登場する以前から、個々人の取り組みとして、ビジョンや価値観まで踏み込んだ顧客理解を自然に行ってきた社員からしてみると、「すでに実践できていることを表立って取り組んでいく必要があるのか」といった声も上がっていました。
さらに、人財や仕事を探しているような状況においては、ビジョンを掘り下げるための時間をつくるのが難しいと考えるクライアントや求職者の方が多い印象でした。
社員一人ひとりがクライアントや求職者、派遣社員の皆さんのビジョンや価値観のヒアリングを日常レベルで行うためには、信頼関係が構築できていることが前提となります。皆さんに納得いただけるよう、あらゆる手立てを尽くしました。
――社内の賛同を得るために、どのような取り組みをされたのでしょうか。
まず、「人財躍動化」の言葉の定義、ビジョンや価値観が人財の躍動化にどのように寄与するのかについての根拠となるアカデミックなデータを集め、それを社内に周知することで、人財躍動化を実現するためにビジョンマッチングが重要であることをロジカルに理解してもらいました。
同時に、社員一人ひとりが「これはビジョンマッチングだと思うもの」を互いにシェアしてもらうボトムアップ型のアプローチを行うことで、これまで暗黙知だった“ビジョンマッチングらしきもの”を形式知として体系づけ、アカデミックなロジックと結びつけることで、再現性を高めることにつながったと考えます。
研修と実証実験の繰り返しで定着を図る
――クライアントや求職者、派遣社員の皆さんへのヒアリングをする際に必要な「聞く力」はどのように培われたのでしょうか?
まず社員には、弊社独自のキャリアコンサルティングの社内資格を取得してもらっています。仕事を探している方が自己理解を深め、それを踏まえた上でどう生きたいか、どのようなキャリアを志向するのか、どういった仕事に就きたいのかといった答えに辿り着いていただけるような支援方法を身につけるための社内資格になります。
この取り組みは、「キャリア開発があたりまえの世の中をつくる。」という2016年に策定された5カ年のビジョンのもとに立ち上げられたプロジェクトでした。そういった意味では、ビジョンマッチングの素地は5年以上前からつくられていたと言えるかもしれません。
さらに、動画コンテンツやオンラインでのロールプレイングといった社内研修などを通じて、ビジョンマッチングを体験したり、実践したりする機会を設けています。
ただ、最も重要なのは、実際にクライアントや求職者・派遣社員の皆さんにきちんと意図を伝え、考えを聞き出すことを実践して、経験値を積むことだと考えています。
そうした実践を通じて得た知見を、心理的安全が確保されているチーム内で共有することで、さらにメンバー同士で知見を貯めていきます。
一定の知見が貯まった結果、ビジョンマッチングの効果の一例として、就業した派遣社員の定着率が高まることがわかってきました。クライアントも求職者も、じっくりと勤められる人財、そして職場を求めているので、定着率が向上するビジョンマッチングに興味を持ってくださる方が増えてきたように思います。
定着率が上がって三方良しの結果に。本質的な課題の可視化の支援も
――ビジョンマッチングを体験されたクライアントや求職者は、どんな反応でしたか?
ポジティブな反響をいただいています。
クライアントからは、「就業した中途社員や派遣社員が、主体性を持って生き生きと働いてもらえることで、職場が活性化される」という声をよくいただきます。新たな仕事に就業した本人も成果が出せているという実感があるからこそ、前向きな言動や行動につながっているのだと思います。
私たちとしても、就業先で中途社員や派遣社員の皆さんが生き生きと働き、それにより職場が活性化することは、組織と人財の双方の躍動を実現することにつながりますので、まさに「三方良し」の健全なビジネスの基盤ができつつあるのを感じています。
また、ビジョンマッチングを取り入れたことで、クライアントの想定を超える、的確な人選につながった事例もあります。
インサイドセールス経験者を探しているクライアントに対して、社員が経営課題まで掘り下げたヒアリングをしたところ、見込客の課題をしっかりと聞くことができるスキルを持った人財を求めていることがわかりました。
通常ならば、テレマーケティング経験者を紹介するところですが、新卒採用を長年経験し、傾聴力の優れた方を紹介しました。インサイドセールスの経験はなかったのですが、結果として非常に適したマッチングとなりました。クライアントからも「こんなマッチングをしてくれるなら今後も相談したい」と高い評価をいただきましたし、就業されている派遣社員も「これまで大切にしてきた傾聴力がこんな分野でも活かせるとは」と、自身の新たな価値に気付き、満足している様子でした。
最近では、人財を「資源」ではなく「資本」だと考えるクライアントが増えてきたこともあり、以前より人財育成やキャリア開発に注力してきたAdecco Groupの方向性は間違っていなかったのだと、クライアントの反応に励まされています。
パーソナルな価値観が、会社のビジョンや世界の課題にもつながっている
――ビジョンマッチングの今後の展望をお聞かせください。
最終的なゴールは、働くすべての人々が自身のキャリアの舵取りを主体的にできるようになることであり、そのための支援を行うことです。
クライアントや求職者、そして派遣社員の皆さんとともに、ビジョンマッチングを作り上げていきたいと思います。
また、人財がより躍動できる職場環境作りに貢献していくことも大切です。今までは、なかなか踏み込めなかった領域ですが、就業後の協力体制を含めたより包括的なプロセスにおけるビジョンマッチングにも注力していきたいですね。
——槙田さん自身のビジョンマッチングへの想いをお聞かせください。
私は、人が集団の中で「自身の役割」を自覚でき、貢献を実感したときに、その人自身の活力が高まる、という事象に注目しています。そうした「きっかけ」に再現性を持たせたいと常々思っており、それが私のライフビジョンでもあります。
ですから、ビジョンマッチングの取り組みは、自分のライフビジョンと非常に親和性が高いのです。そうした自分のパーソナルな価値観や興味関心に基づいて取り組んでいることが、会社のビジョンにとどまらず、さらにはSDGsの17の目標のうちの8番目にあたる「働きがいも経済成長も」にもつながっているのだということを、日々実感しているわけです。
意義のあることに取り組んでいるという実感が安心感を与えてくれますし、ありがたい役目をいただいているなと、私自身も生き生きと働くことができるとともに、大きなやりがいを感じています。