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SHOW TIME


・初めに


B.B.キングの過去記事


熱のこもった演奏がスピーカー越しに聞こえる。

華々しいホーン・セクション。
ジャズのようなこなれた洗練さを叩くドラムス。
上質な低音を放つウッド・ベース。

煌びやかさを磨き続けたバック・バンドを土台に、一人の男の声はどこまでも翔んでいく。

ゴスペルで鍛えた喉は、時にメリスマを効かせ情感たっぷりに、そして感情表現豊かに聴く者の心をとらえていく。

その声は「虚しさ」から由来する感情の揺らぎを、人としての歓喜の表現として昇華させている。

先達の辿ってきた「ブルーズ」で愛を語り、人としての生き様を全力で肯定しているようにも聞こえるエネルギッシュさ。

「ルシール」と名付けたギターを片手に、日夜マイクの前に立つ。

選び抜かれた一つ一つのフレーズがバンドのアンサンブルと混ざり合い、独自のゾーンを構築していくそのスタイルは聴く者の心を離さない。

丹念にフレーズを弾き
時にビブラートで心の揺らぎを表し
スクイーズでやり切れなさや、歓喜の瞬間を演出する。

そのキメ顔がスピーカーからでも伝わってきそうな勢いだ。

ラジオから流れる瞬間。
レコードから流れる瞬間。
ライブで演奏を目の当たりにする瞬間。

バンドサウンドや声、ギターの高鳴りは聴衆達をどれだけ興奮させ、励まし、酔わせてきたか。

それほどまでにゴージャスでいて、生きるエネルギーを感じ、人生を肯定する力を感じる。

きっと人々は「ブルース」という形式で奏でられる演奏に、愛情を感じ、人を愛すべき理由を感じたのではなかろうか。

例え目の前で観ていなくても、スピーカー越しに流れるその演奏は、充分過ぎるほどの熱量を発しライブ感を持っている。

まさしくそれは彼らの「SHOW TIME」を体験しているのだ。

実際に目の当たりにせずとも。

・B.B.キング 「ロック・ミー・ベイビー」


B.B.キングがキャリア初期に発表した楽曲を収録したベストアルバム「ロック・ミー・ベイビー」

収録曲:
①.Every  Day I Have The Blues
②.Rock Me baby
③.Sweet Little Angel
④.Please Love Me
⑤.You Know I Love You
⑥.Troubles,Troubles,Troubles
⑦.You Upset Me Baby
⑧.When My Heart Beats Like A Hammer
⑨.Eyesight To The Blind
⑩.Ten Long Years
⑪.Woke Up This Morning
⑫.Five Long Years
⑬.Days Of Old
⑭.Got A Right To Love My Baby
⑮.My Own Fault
⑯.Bad Luck
⑰.King Of Guitar
⑱.Bad Case Of Love
⑲.Please Accept My Love
⑳.Beautician Blues
㉑.Ain‘t Nobody‘s Business
㉒.The Jungle
㉓.Sweet Sixteen(Part.1&2)
㉔.Whole Lotta‘ Love
㉕.3O‘Clock Blues

計25曲収録のボリューム大な内容!

メチャクチャ聴き応えのある作品です。

B.B.キング

本名ライリー・B・キング。

B.B.の名の由来は、メンフィスでラジオ局でDJをしていた際の愛称である「Beal Street Blues Boy」からきている。

1950年にロス・アンジェルスに拠点を置くRPM(後のモダン/ケント)と契約する。

1951年に「スリー・オクロック・ブルース」で初のR&Bチャート一位を獲得した。

そのヒットを皮切りにモダン/ケント在籍時にキングは20曲以上もチャートインさせて「ブルースの王様」という称号を不動のものとしている。


モダン/ケント時代の作品達 アルバム解説書より

ビルボード誌に1942年「ハーレム・ヒット・パレード」というチャートが誕生する。

そのチャートは1949年、レイ・チャールズやアリサ・フランクリンなどのプロデューサーとして知られるジェリー・ウィクスラーが、「リズム&ブルース」という名を考案しその名を採用した。

キングが「R&B」チャートに初めてヒットを飛ばしたのが1950年。

「リズム&ブルース」と改名されたのは1949年、

当時キングは25歳(1925年生まれ)。

それは一つの新たな時代の幕開けを想起させるものだったのかもしれない。

それ以降もチャートは名を変えていき、現在は確か「R&B/HIP-HOP SONGS」だったかな。

さて、件のアルバムはキングがモダン/ケントに在籍した1950年~1960年代初頭までの曲を収録している。

アルバム解説書にはキングのモダン/ケントに在籍していた頃の(1951~1970)発表したシングル、そしてシングルのR&Bチャートが参考で記されている。

大変参考になるし、ポップ・チャートの動向も記されていて、1960年代にはポップ・チャートにもランクインしているのが興味深い。 

1969年には「スリル・イズ・ゴーン」を発表し、翌年のグラミー賞でR&Bボーカル・パフォーマンス賞を受賞。

ブルースを世に広め、他のジャンルとの融合を模索しブルースの裾野を広げてきた方とも言えますよね。

そのキングのキャリア初期の楽曲を収めたベスト・アルバム「ロック・ミー・ベイビー」。


このB・Bキングの顔たるや!


アルバムジャケットに映し出されるキングの渾身の「いきり顔」に全てが詰まっている気がする。

当時のR&Bのオールディーズなムードと、ブルースを基盤としたキングの音楽は非常にリラックスした心地の良いものだ。

誇大な表現と先に謝っておくが、収録された25曲全てにキングの音楽に対する愛情や、聴く人々にその「愛」を届けたいという真摯な思いを感じる。

時に寄り添うかのように、時に勢いをつけるかのようにスイングしたバンド・サウンドは、キングの声や「ルシール」のむせび泣く声に共鳴し、そして視聴者の心に寄り添っていく。

そして主役のB.B.キングの存在感。

ゴスペルで慣らしたキングの声は安らかに、時に豪快に、人の心情を表現して何か「生きた心地」を与えてくれるかのような素晴らしい歌声だ。

ゴージャスだが、滋味めいたものを感じさせる…。

そして俗に言う「B.B.ボックス」なる言葉を生み出したキングのギター・プレイ。

曲間でドラマティックにフレーズを挟みつつ曲を盛り上げていき、自らの声でよりクライマックスに向けて盛り上げていくその流れは何とゴージャスであることか。

時折聴かせてくれるギター・ソロは曲調をはみ出るような、個人のテクニックに走るものではなく、歌い手や演奏者のエモーショナルな部分を表現したかのようなブルースならではの「揺らぎ」を聴かせてくれるプレイ。

ある意味安心感があるものとも言えようか。

そう、一つ一つの音が優しいんですよね。

そこに高音域のフレーズや、微妙な揺らぎを表現するビブラートに、チョーキングなど、どこまでもすんなりと心の内側に響き渡ってくるんですよ。

それは心に潜む「ブルーズ」は彼女への「愛」に起因するものとキングが歌っているからだろうか。

収録された曲のタイトルを見ていると「LOVE」と表記された歌は6曲ほど確認できる。(違ってるかもです。)

まあ、「LOVE」と入ってなくても他にもラブ・ソングはあるわけですが…。

自らのどうしようもない、やりきれないような理不尽さなどを一人称で歌いあげる「ブルーズ」ではなく、人と人の「愛情」からくる感情の「ブルーズ」としてキングが感情を込め、情感たっぷりでムーディーな楽曲達はやはり聴く人々に新たな感慨と力を与えていたのではないかと感じてしまう。

キングの初期のキャリアにおいて発表された楽曲達の意義は、それほどまでに重要であり、後の人々に影響を与えたんじゃなかろうか。

三大キングの一人、アルバート・キングはB.B.の活躍に触発されて「キング」を名乗るようにしたとかしないとか。

まあ、それだけB.B.キングの存在とスタイルは影響力があったんでしょうね。

・少しばかりの曲紹介


少しばかり好きな楽曲の紹介を。

①はライブの一曲目で演奏される曲。

以前にも書いているが、今回はオリジナル・バージョンのユッタリめでシャッフルのリズムが心地良い方を。

ホーンセクションのムーディーな演奏をバックに、忙しなく動くギターのフレーズ。

目を瞑り、歌に感情を込めて歌うキングの姿が想像できる。

ギターを弾いている時のキングのリアクションからくる間みたいなものも感じさせ、常に傍らにある「アイ・ハブ・ザ・ブルース」を大事にしつつ、それを吹き払うかのような感じ。

ライブではテンポが速くなっている。

俺に不満顔を見てとるのは、ハニー、お前をどうしても失いたくないから。

どうやらそれもブルースの一つの原因らしい。


②のタイトルにもなっている「ロック・ミー・ベイビー」。

キングの代表曲ともいえる。


マディ・ウォーターズやジミ・ヘンドリックス、ジョニ―・ウィンターなどがカバーした楽曲でスタンダードとなった。

ある種、ブルースならではの表現といえる曲ともいえようか。

そしてブルースの凄みというか、らしさを見せつけたかのような…。

小編成のバンド・アンサンブルで臨み、シャッフルのタメの効いたドラムスのリズムにピアノの音が土台となり、ギターの単音が調子っ外れな印象を与える。

それがこの曲のシンプルにそぎ落とし、生々しい感じを演出していてキングの声を際立たせているんですよね。

きっと。

痛切に訴えるかのように、歌い静かに心の揺らぎを演出するリード・ギター。

シンプルなバンド・アンサンブルは聴いていると癖になりそうな感じです。

発表されたのは1964年。

ビルボード・ポップ・チャートでトップ40入りを果たした作品でもある。(R&Bチャートは休業中)


④の冒頭からグイグイとくるエレキの印象的な複音フレーズ。

「スイート・ホーム・シカゴ」やエルモア・ジェイムズを思わせるブルースの常套句でもって曲がスイングしてますよね。

ウッド・ベースのウォーキング・ベースやそれに合わせてなるピアノの音に、ドラムのハイハットの音が絶妙でキングのご機嫌な歌唱を後押ししている。

途中で絡むしっかりとミュートのかかったエレキの「チャッ」といったフレーズが小気味よさを感じますよね。

曲の勢いが彼女に求愛を迫る一人の男性をイメージしてるのかな。

良いノリの曲だ。


⑤の極上のスローバラード。

キングはギターを弾かずにその声でもって曲の世界感を構築している。

懐かしのオールディーズのムードたっぷりで、ゆったりとしたホーン・セクションがさらに雰囲気を高めている。

ピアノもドリーミーに流れ、キングの声は慈しみを讃えたブルージ―な雰囲気でもって演奏に応えている。

素晴らしい。

曲は1952年9月~12月にかけてヒットを飛ばし、二週連続一位を獲得した。

本当に良いですよね。

滋味溢れます。




㉓のB.B.キングの魅力がこれでもかと凝縮したような一曲。

最初に出会った時、お前はちょうど可愛いさかりの16歳だった。

そんな感じで始まるキングの傑作スロー・ブルース。

彼女に対する愛と、彼女の態度に苦悩する一人の男のブルースをこれでもかと自らの声とギターでもって表現している。

強烈にシャウトし、咆哮をかまし、出だしのブルースの常套句のようなフレーズを叩き込み、既にノック・アウト。

独白のようで力強い歌唱の合間に弾かれるギター・フレーズは秀逸である。

やり切れなさを良い塩梅で表現しているんですよね。

歌詞で肉親に朝鮮戦争で出兵している兄がいたり、ニューオーリンズに暮らす妹の事を言ったりして自分の抱えていることも叫んでいる。

それが一種の切迫感さえ感じてしまう。

変わらない愛情を抱えていながらも、この先自分はどうなるのかとヤキモキした感情はラストにかけてドラマティックに盛り上がっていく。

その盛り上がりはラストにバンド・メンバーとの掛け合いでもって爆発。

その様子が本当に素晴らしい。

ある意味ブルースと感情の爆発をみているかのような。

素晴らしいクライマックスだ。

B.B.キングの凄さがよく分かる好きな曲です。



㉕の本編ラストナンバー。

1951年12月から4月にかけてヒットを飛ばしたナンバー。

元々はローウェル・フルスンという人が三年前にヒットさせており、それをキング流にアレンジじ、発表したものである。

夜が明けようとする朝もやのかかる夜明けの頃。

それは一日の始まりを合図するものであり、人によっては人生の新たな一ページを刻む瞬間でもある。

それを霊歌のような厳かな雰囲気でギターを弾き、ブルースを違う次元のものにもっていくと同時に、若いが味わい深く人生の優しさを携えたキングの声が、一種の陽光を感じさせる。

本当に味わい深い。

キングのギター・プレイもキャリア初期ならではのフレッシュな感じと、丹念さを紡ぎ出しているようでそれはそれは聴き応えがある。

チョーキングの具合が好きなんですよね。

感動のナンバーだ。

・最後に


っとまあ好き勝手に色々と綴らせて頂きました。

このB.B.キングの日本独自のベスト盤はキャリア初期の熱気や雰囲気を感じられて好きな作品の一つでもある。

何より、そのライブ感なんですよね。

実際に目の当たりにしているわけではないのだが、演奏しているその場で聴いているような臨場感があるというか…

いや、まあ個人の意見なんでどうかとは思いますが💦

年間300日以上はライブに出掛け、日夜マイクに向かいブルースを聴衆に届けていたキングならではの臨場感みたいなものが作品にはあるのかもしれませんね。

人の温かさのようなものを携えたB.B.キングのブルーズ。

最高のエンターテイメントだ。

その迫力ある「SHOW TIME」を体験するのにこの作品は持ってこいかもしれない。

なんちゃって。

記事を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます!

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