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冬の夜と共に…

季節は冬を迎えた。

まだまだ寒さは緩く、本格的に冷えるような感じではないが、これからどんどんと寒くなっていくんでしょうね。

一年で最も寒い冬。

自然と家での時間も他の季節と違う感じになるかと思われる。

聴いている音楽なんかも若干変わったりするかもですね。

寒い冬は何だか物悲しさの中に心を静めたような、静寂さを秘めた音楽もさることながら、ここはブルーなフィーリングを醸しつつも人々の力によって内包されたような情熱の音楽に精神世界を埋没させてみるのもいかがだろうか。

とくに冬の夜に音楽というのはこれまた味わい深いものがある。

部屋を暖かくし、その日一日の全ての事を音楽と共に終えてゆく…。

そして外の寒さに寄り添うようにしながらも、疲れを感じない自然な熱さを内包した音楽に冬の夜は身を委ねよう…。

1964年11月21日。

アメリカ合衆国はシカゴに位置するサウスサイド。

その日は寒さが堪える風の強い天気だったそうな。

そしてサウスサイドにブラック・エンターテイメントの殿堂として存在感を発揮するリーガル・シアターが佇んでいた。

同日一人のブルースマンがリーガルのステージに降り立つ。

B.B.キング。

1925年ミシシッピ生まれの偉大なブルース・シンガー。

その彼を圧倒的な聴衆の歓声と、名ブルースDJ、ハーヴィス・スパンの「世界で最も偉大なブルース・シンガー、B.B.キングに温かい拍手を!!」っと熱のこもった紹介文の後に、ショーは開幕を迎えるのである。

B.B.キングはミシシッピで農作業に勤しむ傍ら、メンフィスの従妹ブッカ・ホワイトにギターを教わったり、ゴスペルグループに所属したりなどして音楽活動も並行していた。

1948年の末に、キング23歳の時にメンフィスに行きまずウェスト・メンフィスのラジオ局に行きそこで番組を持っていたサニー・ボーイ・ウイリアムスンⅡに会いに行く。

運よく彼の番組で歌わせてもらい、その事に背中を押されてキングはメンフィスに設立されたばかりのWDIA局へ自分を売り込みに行き、ラジオDJとなったのである。

そこでの活動期間は1年余りと短かったが、聴衆者を喜ばすために多種多様な音楽をかける事によって、耳が鍛えられた事や、DJとしてのニックネーム「ザ・ビール・ストリート・ブルース・ボーイ」が縮まって「ブルース・ボーイ」に、さらにその頭文字を取って「B.B.」となっていく。

名前の原点はこのDJ時代にあるというわけか。

1952年に、ローウェル・フルソンの「午前三時のブルース」をリメイクし、大ヒットさせる。

そこから50年代半ばに「テン・ロング・イヤーズ」や「スイート・リトル・エンジェル」を発表しB.B.キングスタイルのゴスペル仕込みの歌唱や、特有のギター奏法を確立させていくのである。

本人も述べていた事だが、あまり器用な方ではなく弾きながら歌う事が苦手で歌っている時はギターを弾かない事が特徴的だ。

そしてあの感情をブルース特有のフィーリングだけではない、どこか感情の寂しさやブルーな気持ちだけではなく、明るさや歓喜の色彩も纏ったようなチョーキングやビブラードの響きがキングのギタープレイの特徴とも感じる。

キングのブルースにゴスペルを持ち込み、声を震わしたり、シャウトによってやはり感情的な部分がどことなく豊かに感じるのはその声による事も大きい。

そうした唱法を駆使して、歌手の感情表現がしだいにテンションを上げ、伴奏もそれに付き従い、終わり近くで曲がクライマックスに達するという「盛り上がり型」のパフォーマンスの展開を、ゴスペルから借用したことだと思う。

黒い蛇はどこへ 名曲の歌詞から入るブルースの世界  233ページより

キングのこういった側面からブルースは新たな局面を迎えていった…、っとまとめてみても良いのかもしれない。

リーガル・シアターの冒頭で紹介されているように偉大なブルース・シンガーなんでしょうね。

そして1964年はキングの代表曲「ロック・ミー・ベイビー」が発表された年でもあり、世界の主な流れとして公民権法が成立した年でもある。

B.B.キング39歳。

アーティストとして脂が乗り切っている頃であり、この頃のライブの初めに歌う定番のナンバー「エブリデイ・アイ・ハブ・ザ・ブルース」で幕を開けムーディーで煌びやかなキングのライブは進行してゆく。

自分の中で冬の夜と共にゆっくりと聴きたいキングのライブ盤「ライブ・アット・ザ・リーガル」

1.エブリデイ・アイ・ハブ・ザ・ブルース
2.スィート・リトル・エンジェル
3.イッツ・マイ・オウン・フォルト
4.ハウ・ブルー・キャン・ユー・ゲット
5.プリーズ・ラブ・ミー
6.ユー・アプセット・ミー・ベイビー
7.ウォーリー、ウォーリー
8.ウォーク・アップ・ディス・モーニン
9.ユー・ダン・ロスト・ユア・グッド・シング・ナウ
10.ヘルプ・ザ・プア―

そしてバンドメンバー…
ケニー・サンズ(トランペット)
ジョニー・ボード(テナー・サックス)
ホビー・フォルテ(テナー・サックス)
デューク・ジェスロ(ピアノ/オルガン)
レオ・ローチ(ベース)
サニー・フリーマン(ドラムス)
という布陣である。

作品全体を通してキングのゴスペル仕込みの歌唱法や、感情の全ての起伏を閉じ込めたかのような印象的なギタープレイはブルースに煌びやかさを纏わす事に、そしてゴージャスさを漂わす事に一役買っている。

なによりキングの声が絞り出したかのような大きい声を出しているのだが、自分の中では不思議と夜に聴いてもあまりうるさく感じず、温かみすら感じる気もする(本当か?)。

ライブが行われたのも11月の寒い時期。

その背景もこのアルバムに一種の温かみみたいなものを感じる背景にあったりして。

ナンチャッテ。

そして演奏を一層ムーディーに際立たせているのが、トランペットやサックスなどのホーン隊と、洒脱な印象を加えてくれるかのように鳴り響いているピアノの音色がよりブルースのゴージャスさを醸している。

きっと一枚通してのアルバムの聴き心地はウイスキーなんかが進みそうなムーディーな感じだ。

ライブ盤なので聴衆の生の歓声も収録されている。

特に女性の黄色い声、「キャー!!」って歓声が凄まじくて当時のキングのミュージシャンの立ち位置みたいなものが伺い知れる気もする。

そしてDJ出身のキングはMCもよく織り交ぜている。

曲間で次の曲を紹介するMCなども入っており、丁寧にライブを進行するキングの音楽に対する姿勢みたいなものが感じれる。

アルバムで収録されている曲の歌詞を見ると男女間の求愛の事や、別れや、付き合っていることなどがメインだ。

先程少し触れた「盛り上げ型」の進行がその男からの女性に対する心の声が、ムーディーな演奏やキングの感情を振り絞るかのような声と、全ての感情を引き受けたかのようなキングのギタープレイが重なり情熱的に彩りを与える。

4.の「ハウ・ブルー・キャン・ユー・ゲット」。

少しのキングのMCの後、俺たちの愛はブルースでしかないと歌い、後半に徐々に盛り上がっていき、ストップタイムを挟みながらバンドの演奏は一つの感情の沸点に達し、その時のキングの絶叫と聴衆の黄色い歓声の混ざり具合がこのライブの一つのハイライトと言えるかもしれない。

きっとキングも大汗かいて歌っているんでしょうね。

2.のスィート・リトル・エンジェル。

MCで古い曲と紹介し、イントロで咽び鳴くようにして響くギターのフレーズはまるで自分の彼女、小さな天使の事を思っているような男性の心境とでもいうイメージか。

徐々に盛り上がりキングの歌声も熱を帯びてゆく。

それに合わせて女性の歓声も凄い(笑)

ラストはキングの静かなギターフレーズと次の曲に関するMCが挟まれる。

ちなみに次の曲が別れを歌ったブルースナンバー。

なのでMCの挟み方や、でこれから胸の内にあるありったけの悲哀をぶち込むかのような静かな立ち上がりは印象的。

それにしてもキングのMCはスムーズに進んでいく。

ライブはスローに聴かせるブルースナンバーもあれば、ジャンプのように賑やかな曲もある。

5.のプリーズ・ラブ・ミー。

お前に恋したんだと言ってるが、つれない女性にヤキモキしている様子の男性をその跳ねるかのようなリズムと、ホーン隊、そして自らの声とギタープレイに表せている。

その男の様子に一種の滑稽さを表しているかのようなスイングした曲調は聴いていて一つの爽快感さえ生む。

そして不思議と疲れを感じない。(個人差があると思われますが)

何故だろう?

やっぱり何かその辺がこのアルバムの好きなとこなんでしょうね。

そして男女の道を説いたかのような珠玉のスローブルース7.の「ウォーリー、ウォーリー」。

サビの部分のキングの切ない裏声が曲に熱を帯びさせる。

ベイビー、いつか、ああ、そうさ、いつか、ベイビー…。

アルバムのラストを飾る10.の「ヘルプ・ザ・プア―」。

当時のキングの最新吹き込みナンバーで、曲調を聴いていると他の曲とは違う異色な感じがする。

時代の波を感じ当時のソウルや、R&Bの波を感じ流行歌に合わせたような感じのミドル・テンポの曲に仕上がっている。

当時キングは39歳。

ミュージシャンとしてどう時代の波に乗せて、これから自分の存在感を示していくかを苦心していた面もあったそうで、それはいつの時代も変わらない事なのかと思った。

時代性ってのも大事なんですね。

「ヘルプ・ザ・プア―」は2000年にエリック・クラプトンと共演した「ライディング・ウィズ・ザ・キング」にも収録されている。

こうして見るとこのアルバム一枚がキングの今までの足跡を辿るのと同時に、これから先ブルース・シンガーとしてどう活動をしていこうかと考えていたような一面も見えて、作品として興味深いものとなっている気がする。

いずれにせよ、年齢的に脂の乗り切ったキングの歌や、ギタープレイ。

そしてそれを支えるバンドの煌びやかなサウンドは歓喜と悲哀、そして静と動、さらに圧倒的な熱量を抽出している。

観衆の歓声に、キングのソウルフルな歌唱は必聴ものだ。

その滋味めいた温かささえ感じるB.B.キングの「ライブ・アット・ザ・リーガル」

この時期の夜に聴きたくなる好きなアルバムだ。

記事を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます!


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