#エッセイ
父の小父さん 作家・尾崎一雄と父のこと 28
尾崎さんの『大吉の籤』という作品に、父が独立して仕事を始めた頃のことが書かれています。大体の作品では山下昌久君、と本名で登場する父でしたが、この作品は例外的に仮名となっています。たまたま尾崎さんが、旅先の食堂で引いた籤(昔、よくありましたよね、灰皿兼用のおみくじ。十円入れると小さな巻物状のくじがコロン、と出てくる)が大吉で、お福分けした三人の男性が揃って幸先いいスタートを切ったものの、二人は残念な
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私の誕生日と両親の結婚記念日は、同じ五月二十一日です。結婚してちょうど一年後に生まれたのが私でした。だから母とは、「お誕生日おめでとう」「結婚記念日おめでとう」とお祝いし合っていました。
父と母は、血の繋がっていないイトコです。母の父である佐一さんと父の父である林平さんは、伊豆の牧之郷でご近所づきあいする間柄でした。林平さんの家は、父を引き取った円蔵さんと林平さんの二人兄弟で、田舎としては子ども
父の小父さん 作家・尾崎一雄と父のこと 26
現代に生きる私たちにとって、お金はなくてはならないものです。このお金は、時に人を助け、時に人を破滅もさせます。作家の尾崎一雄さんは、若い頃に父親の遺産を使い果たし、また、作家として目処がつくまでは極貧の結婚生活をしていた人です。が、その貧しさを楽しんだのが、妻の松枝さんで、そんな松枝さんとの生活から生まれた短編作品『芳兵衛物語』や『暢気眼鏡』は、尾崎文学の代表作となり、映画やTVドラマにもなりまし
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私の父の両親は伊豆出身で、私の母の両親も伊豆出身です。なので、東京の東の端っこ育ちの私ではありますが、伊豆ののんびりと明るい空気にホッと気持ちが和むし、みかんやアジの干物は、ソウルフードに近い感覚です。父は十一歳から十八歳の七年間を伊豆で過ごしましたが、東京で生まれ育ち、そして東京に戻ってからは外に出ることなく今に至っている、つまり八十五年の人生の内、七十七年は東京で過ごしています。でも、父の感覚
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