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雪に変わった新幹線   ショートショート

昔の話…。

 仕事で離ればなれ。会いたい時いつも会えたのに、遠距離となって半年。君だけの電話はまだない時代。いや、こう言うと大昔みたいだな…これは。

 正直な気持ちを伝える手段は手紙だった。ところが、手紙というものは、毎日書いていても夜になると気持ちがこもる。その気持ちで書くものだから、上手く書けない。いざ書いて出す前、朝に見直すと恥ずかしくて出せない。見られると思うと出せない。一緒にいこう…とか…、くっついていたいんだ…とか、煙突や水のようなものまで書いてあるわけだ。見るのは朝なのだ朝…。

 こちらもこれから仕事。そんな下手な手紙など出す気持ちになれないものだから、結局その便箋は机の上に置き、家を出る。

 そして仕事から帰ると、またその便箋がある。捨てられず、また書いていると、夜もふけて思いが募る。

 こんな非生産的な生き方をしていた昭和。今は文字も絵も写真も瞬時に送れるが、どうなんだろう…と思うこともある。が…、私とて大正や明治時代の人から「どうなんだ?」など聞かれたことなどない。聞いても「へぇ、そうだったんですか…」で終わるだろう。

 新幹線の話が出てこない。
そうだ…あの頃、たまの帰省で最初に会うのは駅。新幹線のホーム。わざと最後に降りたりはなかったが、隠れたりしたことはあっただろう。若い人でも知ってるだろうが、山下達郎のクリスマスイブのCM。いやJRのCMだ。あのままに、いつもこの時期の駅は、どこもクリスマスイブ気分になっていた。まだそんな時代だった。

 戻って行くときは、涙ぐむ君をゆっくり抱きしめ「またね…」と別れる。ドアが閉まり「またね…」と笑って手を合わせ、見えなくなるまでガラス越しに互いが手を振る…。

 そして…、ただ流れるだけの風景に変わった…。

「ふ~っ」とため息をついてドアにもたれ、寂しさだけが渦巻く顔をおろす頬にす~っと涙がつたった。なにも考えない。


。。。。。

 そんなクリスマスは、毎年毎年…達郎の曲に乗ってやって来る…。それは君とも、いつまでも続くと思っていた…。が、手紙と共に数年で終わってしまった。

 そう…、すでにFAXもそろい、君はあっという間に成長したのだ。プラレールで遊ばなくなったのだ。

 あの時…、時間をかけて便箋に書いた機関車トーマスの絵…。もう一つなんだっただろう…。

そうだ雪だ…。

「雪は天から送られた手紙である…」



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