Amtrak アメリカ鉄道旅 05 エンパイア・ビルダー
今回は、Empire Builder(エンパイア・ビルダー)について記します。
運行間隔:毎日運行
運行主要都市:シカゴ-スポケーン-ポートランド/シアトル
時間:46時間
シカゴから西海岸に向かう長距離路線には3路線あります。エンパイア・ビルダーはそのうち一番北を走る路線です。アメリカの西部開拓を行ったルイスとクラークが通った道とほぼ同じ場所を走り抜けていきます。列車の名称はこの開拓者たちからつけられました。初期の開拓者たちが見た美しい北米の自然を感じながらの旅となります。
(この記事は2022年8月のタイムスケジュールに基づいています。スケジュールなどは変更される可能性があります。ご自身の旅の時はご注意下さい。)
ハイライト
列車はシカゴを夕方出発し、46時間をかけ午後に西海岸の2つの都市(シアトルとポートランド)に到着します。
大都市シカゴを出ると、アメリカの歴史に登場する大河ミシシッピ川を越え、夜、美しい街の夜景が印象的なミネアポリス/セント・ポールに到着します。ここは冬はとても寒い街です。翌朝、目覚めると列車はノース・ダコタの平原を爆走しています。夏、ひたすら続く平原はとても美しいです。その後、モンタナ州を通りグレーシャー国立公園内を走り、日が変わります。スポケーンで列車は2つに分かれ、一方は終点シアトルへ、もう一方は終点ポートランドへ向かいます。
食事や設備など
ルーメットより上のクラスは、食事は西方向は夕食、朝食、昼食、夕食、朝食、昼食。東方向は、夕食、朝食、昼食、夕食、朝食、昼食が提供されます。コーチとビジネスクラスは、チケット購入時に食事がついているかどうか確認を。
食事は、美味しいとは言えません。どちらかというと簡素で濃いめの味です。メニューはいくつかの種類から選択できますが、同じような感じですので、食事に気を使う方は駅で食事を入手するのがいいでしょう。
Go West! 旅行記
では実際にエンパイア・ビルダーに乗車してみましょう。シカゴから西向き列車に乗車しシアトルとポートランドを目指します。
・シカゴ Chicago, IL – Union Station (CHI)
交通の要でありアメリカ第三の都市シカゴ。日本からも直行便が飛んでいます。アムトラックが出発するシカゴのユニオンステーションは街の中心にあります。映画「アンタッチャブル」のラストシーンでも有名な重厚な建築は必見です。撮影は駅のグランド・ホールの階段で行われました。まずは駅でチェック・インをします。出発は午後2時15分です。遅くても1時間前には駅についておきましょう。Amtrakの表示があるのでチェック・イン・カウンターはすぐに見つかります。ここで荷物を預けます。預ける荷物は到着駅まで手元には戻りませんので、乗車中に必要なものは預けないようにしてください。エンパイア・ビルダーが駅に到着し乗車の準備ができるまでは、ビジネスクラス以上の客はラウンジで待つことができます。ラウンジといっても航空会社のラウンジほど豪華ではなく、待合室だと思った方が失望しなくて済みます。駅にはファースト・フードの店舗やカフェなどがあるので、そちらで時間を潰した方がいいくらいです。出発時刻が近づくと案内板に乗車するプラットホームの番号が表示されます。ラウンジでは案内係がホームまで案内してくれます。チケット或いはスマホを見せて自分の予約した席に向かいます。列車にはアテンダントがいて丁寧に案内されます。
いよいよ発車です。エンパイア・ビルダーは、ゆっくりとシカゴの街を走ります。車窓からはシカゴの摩天楼が見えますが、暫くすると、そこはシカゴ郊外、そして穀倉地帯となります。この辺りはとうもろこしや麦や大豆の畑です。地平線まで広がる穀倉地帯はとても美しいです。
現在、エンパイア・ビルダーにはwifiサービスがないようです。私の携帯はその土地の携帯電話回線を拾っていました。ソフトバンクはアメリカ放題というサービスをしているので、これに加入しておくとアメリカでのインターネットと通話は無料になります。これは素晴らしいサービスです。しかし、ソフトバンクの無料サービスはsprint、At&T、T-mobile、UNIONなので気をつけてください。Softbank以外の日本の携帯電話会社の場合は、高額なローミング代を請求されますのでアメリカで使えるwifi端末を借りてくることをお勧めします。
エンパイア・ビルダーは、ミシガン湖の湖畔を北に向かって走ります。右側の車窓には美しい湖が見えます。水卯海を見ながら1時間30分程走るとミルウォーキーの街に到着です。
・ミルウォーキー Milwaukee, WI – Intermodal Station (MKE)
ウィスコンシン州のミルウォーキーには午後4時前に到着です。この街はビールの街です。メジャーリーグの球団名はブリュワーズ。札幌、ミュンヘンと緯度が同じということで3大ビール産地とされているそうです。「あらいぐまラスカル」の舞台として日本人には知られています。この辺りの延々と続く麦畑が美しいです。
ミルウォーキーを出ると、個室で旅をしている乗客には予約していた順に食堂車で食事が提供されます。食堂車で美しい夕日を見ながらのディナーです。
列車は、進路を西に変え、ウィスコンシン州を抜けていきます。列車の前方に夕日が落ちていきます。
・ミネアポリス St. Paul-Minneapolis, MN – Union Depot (MSP)
ミネソタ州の中心地ミネアポリス。この街はセント・ポールとのツイン・シティです。列車は夜の10時30分に到着します。ここで20分程停車します。
駅に降りてストレッチをしたり、買い物ができます。
ミネアポリスという街は日本人に馴染みがありませんが、とても栄えています。アメリカ最大級のモール、モール・オブ・アメリカがあり、大きな企業の本社も多数あるのです。冬はとても寒く、街のビルとビルは渡り廊下で結ばれています。ミネソタ・ツインズはこの街を本拠地としています。
ミネアポリスを過ぎると、ほとんどの乗客は睡眠に入ります。この辺りで1日目が終了です。
・ファーゴ Fargo, ND (FAR)
映画「ファーゴ」で有名なノース・ダコタ州のファーゴ。早朝3時10分に到着するので、ほとんどの乗客は寝ています。この街にこの時間に降りても街は閑散としており観光客には向かない時間の到着となります。ファーゴはアメリカ人にとって”映画の街”というよりも”とても寒い場所”というイメージがあります。アメリカで放送される天気予報番組を見ると冬ダントツに気温の低い場所が、ここファーゴなのです。全米の中でいつも低い気温が表示されていて、行ったことはないが「寒いところ」という印象がアメリカ人には植え付けられています、実際、冬はとても寒く、映画「ファーゴ」も全編が雪でした。夏は美しい自然に囲まれ、住民も穏やかなのでキャンプや釣りをする観光客で賑わいます。
・グランド・フォークス Grand Forks, ND (GFK)
ファーゴの隣、グランド・フォークスも紹介します。アムトラックは朝の4時30分に止まります。日本からアメリカ東海岸の都市に向かう航空機に乗ると、ちょうどこの街の上空付近を通ります。航路によりもっと北のカナダ側を通る時もありますが、機内のモニターに映る航空地図には"グランド・フォークス"という地名が記されているので、どんな街なんだろうと思う方もいるのではないでしょうか。この街にはパイロット養成学校であるノース・ダコタ大学があり、世界中からパイロットになりたい学生が集まっています。日本のドラマ「ミス・パイロット」もこの街が舞台でした。街の産業は大学、そして農業です。街には若者がたくさん住んでいて、あとは農民という面白い街です。観光する場所はあまりありませんが、この陸の孤島のような街には大きなモールと商業施設があるのです。北のカナダから買い物客が来るそうで、驚くほどホテルやレストランも充実しています。
グランド・フォークスを過ぎしばらくすると朝食の提供があります。
ミネアポリスからグレーシャーパークあたりまではアメリカの真ん中にあるグレートプレーンズという広大な平野を走り続けます。丸1日をかけてこの広大な平野をエンパイアビルダーは走るのです。窓から見える景色はひたすら平らな大地です。そのほとんどは森か麦畑。景色が変わらないと思うのですが、よく見ると、そこには小さなまちが点在していて人が住む気配が感じられます。そして朝日が登り夕日になるまでの美しい光景を見ることができます。
・マイノット Minot, ND (MOT)
8時25分にあまり知られない駅に停車し、給油と乗員交代のため30分程停車します。ここで降りて駅で朝食を食べたり飲み物を購入するのもいいかもしれません。
この街は、グレート・ノーザン鉄道が開通した1886年に主に北欧からの移民によって作られました。その後、鉄道と共に発展してきましたが、鉄道が廃れてからは町も寂れていて、現在は近くの空軍基地が町の経済を支えています。
マイノットをすぎると、アムトラックはモンタナ州の美しい平原を走ります。モンタナに来たと感じる美しい景色は忘れることができません。ウルフ・ポイント駅やグラスゴー駅を通るあたりで2日目のランチです。
・ハバー Havre, MT (HAV)
午後2時30分前にハバー駅で30分の停車です。燃料の給油と窓の清掃などを行います。
・イースト・グレーシャー・パーク East Glacier Park, MT (GPK)
夕方6時45分にグレーシャー・パーク国立公園の入口となる駅に到着です。この辺りまで来るとアムトラックはオンタイムであることが少なく、数10分から1時間程度の遅れが生じることもしばしばです。冬場は暗くなってしまっていることもあります。駅は山小屋風で趣があります。
この辺りで2日目の夕食です。昨日の大平原とは違いロッキー山脈の美しい夕景を見ながらのディナーは格別です。
この辺りでグレートプレーンズは終了します。ひたすら平らな大地は終わりを告げ、ロッキー山脈に向け高度を上げていくのです。列車は急勾配に弱いので、線路は右に左にうねって緩やかに坂を登っていきます。
・ホワイトフィッシュ Whitefish, MT (WFH)
夜9時に到着。ここで20分程停車です。この辺りはロッキー山脈越えの素晴らしい景色が見られるのですが、西向きエンパイア・ビルダーは残念ながら夜となります。ロッキー山脈の景色を楽しみたい方は東に向かうシカゴ行きに乗るといいでしょう。
この辺り、ロッキー山脈を越えるため、かなりの勾配を登っていき、降りていきます。オメガカーブが続き列車は左右に揺さぶられながら走っていきます。
・スポカーン Spokane, WA (SPK)
アイダホ州を抜けワシントン州に入り、夜の1時40分にスポカーン駅に到着です。この駅ではエンパイア・ビルダー号は2つに分離されます。列車の分離のため30分程停車します。1つはワシントン州の大都市シアトルへ、もう1つはオレゴン州ポートランドへ向かいます。
・シアトル Seattle, WA
スポカーンを出ると山を降り、シアトルに近づいてきます。シアトルに着く前に、最後の朝食を摂ります。そして朝の10時20分にシアトル駅に到着します。
・ポートランド Portland,OR
スポカーンで分岐したポートランド行きの列車は山を降り美しい森林地帯を越えポートランドに10時25分に到着します。到着前に朝食を摂りますが、到着が遅れた場合は、昼食が無料で振る舞われたりもします。
停車駅について
停車駅は以下に記します。駅名の後ろのアルファベットは駅の記号です。チケットを購入する際にも使われます。かなりの数の駅に止まりますが、長い旅程なので、実際に乗ってみるとあまり気になりません。主要駅以外では人の乗り降りはそれほど多くなく寂しい感じです。
各停車駅(太字は主要駅)
Chicago, IL – Union Station (CHI)
Glenview, IL (GLN)
Milwaukee, WI – Intermodal Station (MKE)
Columbus, WI (CBS)
Portage, WI (POG)
Wisconsin Dells, WI (WDL)
Tomah, WI (TOH)
La Crosse, WI (LSE)
Winona, MN (WIN)
Red Wing, MN (RDW)
St. Paul-Minneapolis, MN – Union Depot (MSP)
St. Cloud, MN (SCD)
Staples, MN (SPL)
Detroit Lakes, MN (DLK)
Fargo, ND (FAR)
Grand Forks, ND (GFK)
Devils Lake, ND (DVL)
Rugby, ND (RUG)
Minot, ND (MOT)
Stanley, ND (STN)
Williston, ND (WTN)
Wolf Point, MT (WPT)
Glasgow, MT (GGW)
Malta, MT (MAL)
Havre, MT (HAV)
Shelby, MT (SBY)
Cut Bank, MT (CUT)
Browning, MT (BRO)
East Glacier Park, MT (GPK)
Essex, MT (ESM)
West Glacier, MT (WGL)
Whitefish, MT (WFH)
Libby, MT (LIB)
Sandpoint, ID (SPT)
Spokane, WA (SPK)
シアトル行き>
Ephrata, WA – Transportation Center (EPH)
Wenatchee, WA – Amtrak Station (WEN)
Leavenworth, WA – Icicle Station (LWA)
Everett, WA (EVR)
Edmonds, WA (EDM)
Seattle, WA – King Street Station (SEA)
ポートランド行き>
Pasco, WA (PSC)
Wishram, WA (WIH)
Bingen-White Salmon, WA (BNG)
Vancouver, WA (VAN)
Portland, OR – Union Station (PDX)
注意点
・長距離路線なので、到着が遅れることがあります。スケジュールには余裕を持ってください。
・食事は炭水化物過多なので、サラダやフルーツなどを持っていくと良いでしょう。
・アメリカの大自然を見るには最適の路線です。特にロッキー山脈越えの車窓は見事です。そして東から西に向かう場合はアメリカ開拓の歴史を感じることができます。乗車の際はアメリカの開拓史が書かれた書籍を持ち込むと面白いでしょう。
・ルーメットは狭いです。日本人なら問題ないと思いますが、体が大きい人には窮屈でしょう。2名で利用する場合は、家族など親しい人ならいいのですが、かなり狭いということを予期してください。
最後に
エンパイア・ビルダー号。アメリカとカナダの国境のする南を走るので、美しい森林をみながらの旅となりました。シカゴの湖、グレート・プレーンズの平な大地と延々と続く麦畑、ロッキー山脈と景色は徐々に移り変わり、アメリカの広さを感じることができました。
2021年、残念ながらこのエンパイア・ビルダー号は脱線事故を起こし死傷者を出してしまいました。現在は復旧していますが、このような惨事が2度と起こらないようにアムトラックにはきちんと整備を行って欲しいものです。
各回テーマ:
01 アムトラックの旅
02 アムトラックの路線
03 アムトラックのチケット購入・座席の種類
04 アムトラックの駅
05 エンパイア・ビルダー号
06 カリフォルニア・ゼファー号
07 サウスウエスト・チーフ号
08 コースト・スターライト号
09 アセラ・エクスプレス号
10 エンパイア・サービス号
11 レイク・ショア・リミテッド号
12 メープル・リーフ号
13 シルバー・サービス号(シルバー・メテオ号 / シルバー・スター号)
14 フロリディアン号(キャピタル・リミテッド号)
15 シティ・オブ・ニューオリンズ号
16 サンセット・リミテッド号
17 テキサス・イーグル号
18 クレセント号
19 カージナル号
20 パルメット号
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