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Amtrak アメリカ鉄道旅 07 サウスウエスト・チーフ

Southwest Chief(サウスウエスト・チーフ)は、シカゴとロサンゼルスを結びます。
山脈、川や谷を越え、イリノイ州、アイオワ州、ミズーリ州、カンザス州、コロラド州、ニューメキシコ州、アリゾナ州を抜け、カリフォルニア州ロサンゼルスにたどり着きます。8つの州を抜ける旅、アメリカの西部開拓史をめぐる旅、景色はグラデーションのように変化していきます。西向きはニューメキシコ州とコロラド州の風光明媚な場所を昼間に走ります。車窓からとても美しい景色を見ることができます。

サウスウエスト・チーフの全路線図

運行間隔:毎日運行
運行都市:シカゴ - ロサンゼルス
時間:43時間10分
距離:3,645km


ハイライト

シカゴからアメリカ西海岸に向かう路線は3路線あります。このサウスウエスト・チーフ号は、前回お伝えしたカリフォルニア・ゼファー号の南を並行して走り、ロサンゼルスに到着する路線です。3本のアメリカ横断ルートで言うと一番南を横切る路線です。サンフランシスコに向かうカリフォルニア・ゼファー号と比べると、森林地帯というより砂漠地帯を走るので「西部劇」に出てくるような景色を楽しむことができます。そして、この路線はアメリカのマザーロード「ルート66」を多くの部分で共有しています。車窓から古き良き時代のアメリカの街並みを見ることもできます。
全線に乗ると丸2日かかる旅となります。
この路線は、特にシカゴから西行き列車に乗ることをお勧めします。美しい大自然を昼間に通るので、乗車中景色を楽しむことができます。
列車は、シカゴを午後に出発すると、麦畑が続く大平原を過ぎ、コロラド大地、ロッキー山脈など有名な景勝地を通り抜けていきます。グランドキャニオンなどのグランドサークルの南側を通るので、これら観光地へのアクセスにも使えます。モハベ砂漠を夜に抜け、ロサンゼルスには早朝到着します。
(この記事は2023年8月のタイムスケジュールに基づいています。スケジュールなどは変更される可能性があります。ご自身の旅の時はご注意下さい。)

座席のクラスなど

サウスウエスト・チーフはスーパーライナー車両で運行されています。いくつかのシートが用意されていますが、観光客におすすめするのはBedroomです。2階にあり、景色がよく広くトイレとシャワーが付いています。Roometteは、2人用ですが狭いです。1人旅でしたら問題ないでしょう。さらに広いFamily Roomは1階に位置しトイレ、シャワーはついていません。

個室を予約した人には乗車中、全ての食事が提供されます。ダイニングカーでのコースメニューが用意されていますので、スタッフに食事の予約をしておくと良いでしょう。ダイニングカーでの食事が面倒で室内で食事をしたい場合は、ルームサービスも利用できます。
コーヒーは部屋の近くに常に用意されています。いつでも暖かいコーヒーを飲むことができます。カフェ・カーもあるので、ここで軽食を購入することも可能です。

コーチクラスという座席もありますが、こちらは全区間を通して乗車する人が利用するというよりは、短距離利用の人が利用しているようでした。運賃を抑えるならコーチクラスですが、全線乗るとなると、かなり過酷な旅となります。

峠を越えるサウスウエスト・チーフ号

Go West ! シカゴからロサンゼルスまで

私が乗ったシカゴからロサンゼルスの乗車旅を記します。
< Day 1>
・シカゴ Chicago, IL – Union Station (CHI)
午後2時50分に出発です。駅には1時間程前について荷物のチェックインなどを済ませておきます。ルーメット以上のチケットを持つ乗客は駅にあるラウンジを使えます。ラウンジでくつろぐのが良いでしょう。ラウンジには無料の軽食やスナックが用意されています。駅構内にもファーストフード店やコンビニがあるので、そこで車内では調達できない食事やお菓子などを調達しておくと旅が楽しくなります。

列車の出発が近づくとスタッフがプラットホームに案内してくれます。
駅には長いアムトラックが停まっています。スタッフがチケットを確認して自分の席まで案内してくれ、荷物などを整理しているとサウスウエスト・チーフが動き出します。
駅から出るとシカゴの摩天楼が見えます。そして摩天楼はどんどん遠ざかり小さくなっていきます。15分も経つとシカゴの郊外の街となり、やがて農村地域となります。この辺りでは小麦の栽培が盛んです。春から夏にかけては延々とつづく麦畑を見ることができます。冬は雪の平原が続きます。暫くは麦畑の広がる平野をひた走ります。この辺りはグレートプレーンズと呼ばれる平原です。山もなく谷もない広い平野が広がる光景はアメリカそのものです。

アイオワ州に入りFort Medison付近でミシシッピ川を横断します。ミシシッピ川はアメリカを南北に流れる大河です。昔はニューヨークやボストンといった東海岸からミシシッピ川までがアメリカでした。川を渡ると、そこから西側は未開のフロンティアでした。先人たちはこの未開の土地を西
太平洋に向かって開拓していきます。それがサンタ・フェ・トレイルです。この列車もトレイルに沿って進んでいきます。かつてのアメリカ大陸探検隊が進んだ道を歴史と共に辿る旅でもあります。出発前にアメリカの歴史を知っておくと、このルートは色々と感じることができると思います。
雄大な穀倉地帯を眺めていると、平野に夕陽が落ちていきます。この景色を見ながらの夕食となります。

・カンザス・シティ Kansas City, MO - Union Station (KCY)
夜10時にカンザス・シティ駅に到着です。給油と乗務員入れ替えのため、40分の停車です。「オズの魔法使い」の舞台、カンザスです。6月から9月にかけては竜巻が発生する地域です。あまりにも平らな土地に北から寒気が流れ込み南から暖気が上がってきて、この辺りでぶつかります。竜巻が多いので気をつけるべきですが、アムトラックはうまく回避して進んでくれます。そのため夏のシーズンは遅延が起きることがあります。

サウスウエスト・チーフは、サンタ・フェ・トレイルと同じルートを辿りサンタ・フェへと向かいます。この道はアメリカがまだ東海岸で建国された頃から使われていた大陸横断ルートです。ハリウッド黄金期には映画スターやスタッフがロサンゼルスのハリウッドで仕事をするために東海岸から通う大陸横断鉄道として賑わった路線でもあります。
そして、この先サンタフェからはアメリカのマザーロード「ルート66」と並走します。アメリカ開拓時代、黄金教時代、映画産業華々しかった時代と、時代は異なりますが、常にこのルートは世相を反映してきました。そしてこのルートが舞台になった映画やドラマ、小説は多数あります。そういう作品を見ておくのも旅の楽しみとなります。

<Day2>
夜の間は鬱蒼とした森林地帯を走っていました。目が覚めると列車はカンザス州を通り抜けコロラド州に入ります。州境で時間が1時間プラスになります。朝食の時間です。食事が終わりしばらくしてLa Junta駅で20分程停車します。列車を降りて綺麗な空気を吸うのも良いのではないでしょうか。

・トリニダッド Trinidad, CO (TRI)
この辺りから、赤茶けた大地が色濃くなってきます。人口も少なく寂しい景色が続きます。しかし我々乗客にはサウスウエストチーフ号で最も景色の良い区間に入ってきます。車窓からの景色は美しく見たことのない表情が現れます。そしてトリニダット駅を出ると、アムトラックの中でも最もけわしいといわれる標高の高いレイトン峠( Raton Pass)を通過して一気に標高を上げていきます。この辺りからロッキー山脈に繋がる高地に入ります。

・レイトン Raton, NM (RAT)
10時30分には、次の州ニューメキシコ州のRaton駅に到着します。
ビュートと呼ばれる岩山が見えてきます。この先には巨大なビュートで有名なモニュメント・バレーも近く、独特な美しい景色が現れます。
定時で運行されていれば、ラス・ベガス手前で東(シカゴ)行きのサウスウエスト・チーフ号とすれ違います。

この辺りで夕食となります。

ラス・ベガス駅

・ラスベガス Las Vegas, NM (LSV)
12時12分に列車はニューメキシコ州ラスベガスに到着。この駅は有名なネバダ州ラスベガスと名前は同じですが静かな町です。かつて駅前にはハーヴィ・ホテルがあり、繁栄しました。ハーヴィ・ホテルとは、大陸横断鉄道が完成した頃、東海岸に住む富裕層を呼びこむために建てられた高級ホテルです。ホテルはヨーロッパと同じ豪華なサービスを提供し、ホテルスタッフは地元の美男美女が選ばれたのでした。ハーヴィー・ホテルのおかげで西部への観光ブームが起きました。現在はハーヴィー・ホテルの役割は終わり、その後ホテルは閉鎖され長い間廃墟化していましたが、現在は有志の手でリノベーションされ運営されています。

ラスベガスから列車は南西に向かいます。進行方向右側にはアメリカ最古の街サンタ・フェがあるのですが、車窓からは見えません。ただサンタ・フェ名物のプエブロ建築の建物がいくつか見えてきます。手塗土塀の建築はこの辺り特有のデザインです。

サンタフェ・トレイルは、サンタ・フェで終了します。変わって次の駅、アルバカーキから終点のロサンゼルスまではルート66とピッタリと並行するように走ります。しばらくは進行方向右手がルート66です。

・アルバカーキ Albuquerque, NM (ABQ)
午後3時30分にはニューメキシコ州で一番大きな街アルバカーキに到着します。ここでは50分という長い時間の停車となります。列車を降りて駅構内や近くのファーストフード店で食料を買ったりすることができます。
アルバカーキはこの辺りで一番大きな町です。地元の主要産業はいくつかありましたが衰退し、現在では大学の街、観光のハブとして賑わっています。映画のロケ地としても人気で、かつては西部劇、現在でも積極的に誘致活動が行われていて、アカデミー賞作品「ノーカントリー」もここで撮影されています。

アルバカーキを抜けると標高がどんどん上がっていきます。そしてコンチネンタル・ディバイドを越えます。この場所で雨が降るとその水は太平洋に流れるということです。そして台地を横断することになります。冬はこの辺りで砂漠から雪景色に変わっていきます。

ビュートと呼ばれる巨岩

・ギャラップ Gallup, NM (GLP)
夜7時前に到着するギャラップという街は、今でも西部開拓時代のような景色が残っていて、西部劇が撮影された頃にはスタッフやキャストが泊まったホテルが今も営業中です。夕日と相まってなんとも寂しげな町、ギャラップ。この辺りまでがサウスウエスト・チーフから見える素晴らしい景色です。

ここから先は化石の森国立公園、バリンジャー・クレーターなど大自然を体感できる場所を通るのですが残念ながら夜の闇に塗りつぶされてしまいます。日の長い夏だと左手に巨大なクレーターの影を見ることができます。

・フラッグスタッフ Flagstaff, AZ - Amtrak Station (FLG)
ルート66の写真によく登場するウィンズローを通り、夜8時30分にフラッグスタッフ駅に到着します。この街はスポーツ選手が合宿する場所です。酸素量が少ない高地で練習するのがその理由です。そして夜は町中を消灯し星空が美しく鑑賞できる場所でもあります。晴れていれば、列車からも空を見上げると驚くほどの星を見ることができます。
そしてこの街はセドナへのゲートウェイとしても有名です。セドナへは車で50分ほど南に走ります。

この辺りまで来ると深い森が広がります。ちょうど乾燥した砂漠地帯と標高の高い森林地帯の狭間を走っていくので、森になったりビッグサンダーマウンテンのような岩の山が見えたりします。

・キングマン Kingman, AZ (KNG)
次の駅キングマンはグランドキャニオンのゲートウェイです。グランドキャニオンに行く観光客は、ここからレンタカーに乗るか観光鉄道に乗り、北に向かいます。
この街はメインストリートに西部劇の面影を色濃く残しています。ホテルなどもたくさんあります。この街に1泊滞在するのも面白いかもしれません。

キングマンを過ぎると長い長いモハベ砂漠を横断することになりますが、列車はここを夜間通過します。

ルート66を描いた作品はたくさんありますが、列車に乗る前に読んでほしいのが「怒りの葡萄」です。映画にもなっています。気候変動で作物が育たなくなった中西部の農家が、西海岸に大移動し成功を夢見るお話です。生活に困窮したたくさんの人々が荷物を車に乗せてルート66を西に向かいました。しかし、ルート66の旅はとても過酷で、移動中には辛い出来事も起こりました。特にモハベ砂漠越えは当時の人々にとっては生死を懸けるほどの危険な道のりでした。

<Day3>
夜中、サウスウエスト・チーフ号はモハベ砂漠の中を西に走っていきます。見える景色は砂漠と地平線です。そこに高速道路が走っているのが見えます。絶えずトラックや車のライトが連なっています。列車の左側にはルート66が走っていますが、こちらは車がほとんど走っていないですし、廃墟やゴーストタウンが目立ちます。

・バーストー Barstow, CA - Harvey House Railroad Depot (BAR)
夜というか早朝の3時40分にバーストーに到着します。バーストーは砂漠のオアシスで、昔からルート66の宿場町として栄えました。現在では車でロサンゼルスとラスベガスを行き来するドライバーの休憩地として賑わっています。

列車はこの辺りでモハベ砂漠を終え、峠を下りロサンゼルスの街に向かいます。ここから暫くは線路は何度も曲線を描きながらどんどんと標高を下げていきます。

・サン・バーナディーノ San Bernardino, CA (SNB)
朝5時30分にサン・バーナディーノに到着します。この辺りまで来ると峠は終わり、あとは平坦なロサンゼルス商業圏に入っていきます。
ロサンゼルス郊外の景色が見えてくる頃に最後の食事、朝食となります。

サン・バーナディーノからロサンゼルスまでは、ひたすら街が広がっています。ロサンゼルス商業圏がこれほど大きいとは驚きです。もちろん、この辺りの住人はロサンゼルスに通勤しているわけではないでしょう。この辺りにも中規模の都市がいくつもあります。そしてロサンゼルスまでアメリカの住宅街が続きます。

・ロサンゼルス Los Angeles, CA - Union Station (LAX)
朝8時にロサンゼルス・ユニオン駅に到着します。駅はダウンタウンに位置します。駅からはチャイナタウンや丘の上にドジャースタジアムが見えます。
海まではまだ距離がありますが、既に西海岸の陽気な雰囲気を感じます。乗客は荷物をピックアップし、タクシーに乗り換え目的地をめざします。

丸2日をかけてアメリカの歴史を感じながら走るサウスウエスト・チーフ号。かつて多くのアメリカ人が目指した天使の街・ロサンゼルスに遂に到着です。

アムトラックの踏切

停車駅について

停車駅は以下に記します。駅名の後ろのアルファベットは駅の記号です。チケットを購入する際にも使われます。かなりの数の駅に止まりますが、長い旅程なので、実際に乗ってみるとあまり気になりません。主要駅以外では人の乗り降りはそれほど多くなく寂しい感じです。

停車駅(太字は主要駅)
Chicago, IL - Union Station (CHI)
Naperville, IL (NPV)
Mendota, IL (MDT)
Princeton, IL (PCT)
Galesburg, IL (GBB)
Fort Madison, IA (FMD)
La Plata, MO (LAP)
Kansas City, MO - Union Station (KCY)
Lawrence, KS (LRC)
Topeka, KS (TOP)
Newton, KS (NEW)
Hutchinson, KS (HUT)
Dodge City, KS (DDG)
Garden City, KS (GCK)
Lamar, CO (LMR)
La Junta, CO (LAJ)
Trinidad, CO (TRI)
Raton, NM (RAT)
Las Vegas, NM (LSV)
Lamy, NM (LMY)
Albuquerque, NM (ABQ)
Gallup, NM (GLP)
Winslow, AZ (WLO)
Flagstaff, AZ - Amtrak Station (FLG)
Kingman, AZ (KNG)
Needles, CA (NDL)
Barstow, CA - Harvey House Railroad Depot (BAR)
Victorville, CA - Amtrak Station (VRV)
San Bernardino, CA (SNB)
Riverside, CA (RIV)
Fullerton, CA (FUL)
Los Angeles, CA - Union Station (LAX)

注意点

・WiFiはありません。携帯電話は限られた場所(主に駅周辺)でしか繋がりません。
・列車はスーパーライナー(2階)で運行されています。
・長距離路線なので、到着が遅れることがあります。スケジュールには余裕を持ってください。
・食事は炭水化物過多なので、サラダやフルーツなどを持っていくと良いでしょう。

最後に

サウスウエスト・チーフ号。アメリカの西部開拓時代を強く感じるルートです。そして大自然の大きさを味わうこともできます。
シカゴから太平洋に向かう3路線の中でアメリカの開拓の歴史を感じるルートです。サンタ・フェ・トレイルを並走し、途中からはルート66と並走します。アメリカの歴史を知る上で必ず語られる名所の数々。そして穀倉地帯から乾いた大地、森林地帯を抜けていく美しい車窓…
このルートも乗車すると思い出に残る旅になるはずです。

素晴らしい旅を提供してくれるサウスウエスト・チーフですが、アムトラックの路線の中でもトップクラスの赤字路線だそうです。距離が長いこと、毎日運行なことが影響しているようです。是非この路線に乗って素晴らしい体験をしつつ、アムトラックにお金を払いたいと思います。

各回テーマ:
01 アムトラックの旅
02 アムトラックの路線
03 アムトラックのチケット購入・座席の種類
04 アムトラックの駅
05 エンパイア・ビルダー号
06 カリフォルニア・ゼファー号
07 サウスウエスト・チーフ号
08 コースト・スターライト号
09 アセラ・エクスプレス号
10 エンパイア・サービス号
11 レイク・ショア・リミテッド号
12 メープル・リーフ号
13 シルバー・サービス号(シルバー・メテオ号 / シルバー・スター号 / パルメット号)
14 キャピタル・リミテッド号 / フロリディアン号
15 シティ・オブ・ニューオリンズ号
16 サンセット・リミテッド号
17 テキサス・イーグル号
18 クレセント号
19 カージナル号


サウスウエスト・チーフのポスター

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