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ぶっちゃけ妊活日記 vol.3 / 自然の理

 旦那さんを見送ったあと、玄関周辺に散らばった白い砂を箒とチリトリを引っ張り出してせっせと片付けた。あの真っ青な海、そしてラッコ…現実の出来事なのだろうか?どうやって行って戻って来たのだろう…夢じゃなかったの!?

 ピロリン!と電子レンジの音が鳴った。

 遅めの朝食を用意してソファの前の床にクッションを引いて腰をおろした。「いただきます」と呟くと、「ピ!」と飼っている文鳥の鳴き声がした。なぜかわたしがごはんを食べると、文鳥も一緒にごはんを食べる。かわいいやつだ。
 テレビをつけると、スッキリ!でハワイ特集をしていた。芸能人が何やら楽しそうに巨大なパンケーキを食べている。「まいうー!」という言葉が聞こえてくる中、わたしの意識は再び妊活について頭がいっぱいになった。

 食パンをくわえながらノートパソコンを取り出す。「妊活」というワードを検索すると、目眩がするほど膨大な情報が溢れていた。基礎体温、排卵日、自然妊娠、妊孕力 … 勉強することが山のようだ。わたしは「子どもが欲しい!」という願いがないまま結婚生活を送って来ていたので、妊娠の知識レベルはゼロに等しい。とにかく旦那さんとラブラブナイトを排卵してるっぽい時期にトライすれば、コウノトリ ハズ カム!と思っていたのだ。

 「ピピピ!」と文鳥が鳴いた。

 今度はトマトサラダに手を伸ばして、タイミング法について調べた。

 ①基礎体温を毎日決まった時間(朝起きてすぐ)に行う
 ②おりものチェック
 ③基礎体温の確認&排卵日検査薬で排卵するであろう2日前にトライ!
 ④排卵日まで連日トライアゲイン!テーマソングはEZ DO DANCE !

 わたしは素早く今年のツキイチ生理ちゃんを記入しているカレンダーを携帯から取り出し、排卵日を遡って推測検索した。

 1月は…あ、旦那さん出張…
 2月は…あ、旦那さん出張…
 3月は…あ、出張…
 4月は…出張…
 5月は…出張やん!…
 6月は…やっぱり出張やないかい!!

叫ぶと同時に文鳥が巣箱でギャーギャー騒ぎ出した。
モヤモヤをLINEで旦那に報告をする。

嫁LINE : お主…誠に遺憾であるという事実が発覚したぞ。

 iPhoneをクッションに放り投げ、文鳥がいる巣箱に近寄り、手乗りをさせてカゴから取り出した。文鳥はバサバサっと頭の上に舞い上がった。わたしはソファに突っ伏して嘆いた。自然妊娠の可能性が少しでもあればいいなと、心の奥底では願っていたからだ。色々な事情で治療をしなければならない人たちのことを否定や非難の気持ちなんて微塵もない。ただ、「わたしは自然に妊娠できればいいな、普通に授かったらいいな」という極々普通の願いだ。「自分だけは事故に合わない」「自分だけは事件に巻き込まれたりしない」「自分は絶対大丈夫」という願いを、誰しもお守りのようにそっと抱いていると思うのだ。それと同じだ。

「…ピピ…ピァ…ピィ…ゥウ…エオーーー!!!」

 ガバ!っと勢いよくソファから顔をあげてテレビを見た。ハワイ特集は今度は素敵なショッピングモールの様子が映っていた。あれ?気のせいかな…

「あー!あー!!!あーやっと出て来た!言葉!久しぶりだわ!!!ホント!!久しぶり!!!」
 甲高くてうるさい声が頭上から響いてくる…とても嫌な予感がする。
「ちょっと!!あんた!飼い主!あんた!」
わたしは驚いて、見上げようと頭を振ったら、文鳥がバサバサっとソファに舞い降りた。
「……しゃ、しゃべってる!」わたしは思いっきり文鳥を指差した。
「失礼ね!」パシッと人差し指を小さな羽で叩いた。
「あ、ごめんね…」
「飼い主!」
「はい!」
「大丈夫よ!」
「大丈夫?」
「あのね、今年!わたし、卵詰まりしたでしょ!」
「そうだね。体調悪そうだったし、なかなか卵出てこなくて病院で入院したよね。元気になって本当によかったね!」
「それでね、思ったのよ!卵詰まりで死んでしまう文鳥!たくさんいるでしょ!わたしは本当にね、嬉しかったのよ!」
「助かってわたしも嬉しかったよ、元気になってくれてありがとうね!」
「でね!わたし薬飲んだし!注射もしたし!治療をしてもらったの!」
「うんうん」
「自然の法則?理っていうの?わたしはそんなこと!気にしないわ!」
「え?」
「また元気になって!あなたと毎日!過ごしているのよ!」
「…うん!」
「それって最高じゃない!?」
「…うん…」
「日進月歩よ!日々医療は進化しているのよ!そんな時代に!あなたは生まれたのよ!いいじゃない!可能な限り!悔いを残さずに!おやりなさい!飼い主!」

 わたしはなんだか胸の奥が締め付けられてしまった。この小さな文鳥が必死に伝えようとしている。苦しんでいる文鳥がいて、「自然の理」のルールに沿っていたら、病院に連れて行かないという選択肢になるのだろうか。いや、絶対にそんなことはしない、絶対にだ。
 

「うん、ありがとう。なんだか、モヤモヤがスッキリ!したよ」
「よかった!」
「それにしても、ふーちゃん喋れるの?日進月歩ってどこで習ったの?文鳥も日々進化してるってこと?」
「ピ!」

 それから急に文鳥は喋らなくなった。
 話しかけても「ピ!」しか言わなくなってしまった。手乗りしたり、肩に止まって羽繕いをして、巣箱に戻っていった。せっかく話せたのに…もっと話したかったな。帰っていく文鳥の背中を見送った。

ピロン!

旦那LINE : え?何か悪いことした?ごめんね。。
     あと病院の名前わかったよ!
     不妊治療専門ラッコクリニックだって。

iPhoneを持つ手が震えた…
ラッコクリニック?!
あのラッコのことかな…いやいや、そんな偶然なんてないよね。

 スッキリ!から、ハワイの雄大なビーチのシーンで芸人さんたちがはしゃぐ声が聞こえてきた。青い空、白い砂。眩しい太陽。カラフルなパラソル。そして、ラッコ…え!ラッコ!???あ、見間違いだった。
 ホッとして、ハワイ特集の続きを見た。


いよいよ本格的に不妊治療を始めることになったので、
 記録として不定期でエッセイ的妊活話をしたいと思います。
 妊活ってどうしてもデリケートな話になりがちだけれど、
 同じことで悩み考えているnoterさんと、
 繋がるきっかけになれたらいいなと思っています。

ぶっちゃけ妊活日記 vol.1はこちら

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ぶっちゃけ妊活日記 vol.2はこちら

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文鳥と夫をこよなく愛するアニメ声の写真家。全国の動物園の動物を撮るのがライフワーク。森永ラムネがあればご機嫌。