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七月一六日。
←前話
「お祭りに出るなら仮面を被る必要があるんだよ、生者か死者かわからないようにね。そうでないと惹かれてしまうからさ」
雪乃さんから聞いた話だ。
旧暦 七月十六日。今でいう “ お盆 ” はそもそも墓を参る為でも先祖供養でもなく “ 藪入りなんだよ ” と雪乃さんが言葉を続けた。
年に二度、一月十六日と七月十六日。江戸時代等は丁稚奉公のお休みでもあったようだが、それは後に追加したモノで本来は “ 地獄の釜が開く日 ” なのだという。
「だものね、私のような “ か弱いヤツ ” は危ないから家に引き込もらなきゃいけないんだよ」
つまるところお酒のツマミとジャンボモナカの遣いをねだるだけな様に、ヤレヤレ随分な言い回しだと眉を掻いた背を “ 天狐の面でも被っていく? ” と雪乃さんは乱雑な部屋端へ逆手で細い指を挿した。
" か弱き雪乃さん ” はそんなオドロオドロシイものを僕に被らせるのですか? と靴の中で爪先を二度弾くと湿度を思わせない澄み渡りに夜空を仰ぐ。
それは天翔る狐、雪乃さんの指先にまるで夏の空へ天狐を探すように。
「いってらっしゃい。あ、月夜に踊る猫が居てもほうておくようにね」
まったく、やっぱりめんどくさいなこの人は。
→次話
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