10月

観て読んで聴いて触れて撮って書いて描いて作って食べます。

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    18. 暮らしと祝福

     気づけば周りがベージュ一色である。同年代の男も女も、一様にベージュとアイボリーに包まれている。さながら縄文時代である。皆生成り色でさっぱりとしており、そして各々「丁寧な暮らし」に勤しんでいる。シンプルに生きることを推奨されるのは概して不景気の時代なんだ、とついついひねた考えを抱いてしまう。洗いざらしの清貧をまとうようでうっすらいやになり、この頃は逆行して少し派手な柄なんかを着てみる。水タバコばかり吸っているような文系大学生の出で立ちになってしまう。  「丁寧な暮らし」って何

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      • 69. お金の話など

         朝一に転職面談を入れ、エージェントのお姉さんに褒めてもらうことで機嫌良く一日を始める。褒められたこと以外あまり聞いていない。  社会人になってから褒められることの多さに驚く。当たり前に働いて、当たり前に仕事を片付けていくだけで(これといって目立った成果を出しているわけではなく、片付けているだけ)、事あるごとに褒めてもらえる。最高じゃん。  簡単なミスをする回数が、これまでの人生と比較して格段に減った。お金を貰えればまじめにやるといった有様である。当然といえば当然だが、お金

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        • 68. 墓場まで持っていく

           憧れを、できれば憧れのままとっておきたい。ジップロックなんかに入れて、できれば密封保存して、冷暗所に保管しておきたい。腐って嫌な匂いと変な汁を出しているそれを、自分の手で摘んで捨てる悲しみは本当に耐え難い。  憧れの人と勉強を教え合ったこと。緊張しながら電車で隣の席に座り、映画館に向かったこと。席替えで隣になって授業が楽しくなったこと。初めて手を繋いで歩いて、自分の両足の所在が分からなくなったこと。数えきれない。のちに全て怒りと屈辱で潰れてしまった。  思い出だけは大事に

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          • 67. それからのこと

             人生のある段階で会わなくなった人々に、あるいは全く変わってしまう前の自分に向けて、それからのことを心の中でそっと話して聞かせることがある。似たようなことをしている人も一定数いると思う。少しでもまた会う可能性の残っている友人知人たちは、この話し相手の中には含まれない。本当の意味で決別してしまった人々と、かつての私の分人と。会わなくなった理由はそれぞれで、ただ、その中に「死別」がまだ含まれていないのは本当に幸運なことである。  うまくいっているのかそうでないのか、満足のいく状

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            • 69. お金の話など

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              • 68. 墓場まで持っていく

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                • 67. それからのこと

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                  2日前
                  • 66. ありがちな岐路

                     年齢とともに自分の「市場価値が目減りしていく」ことに耐えきれず、ついに重い腰を上げて転職活動を始めた。資本主義の圧に負けた。悔しい。  25までに結婚、30までに専門分野をつくる。前者はもう無理なので、後者だけでもどうにかしたい。18時になって半額シールを貼られるスーパーの食品のようで、控えめに言ってもかなりげんなりしてしまう。  「大体は1ヶ月半くらいで決まります」  エージェントのお姉さんにそう言われて、たじろいでしまった。たじろいだ自分にも驚いた。まだ何も決まってい

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                    • 65. 知らない土地のこと

                       幼少期から飛行機に乗せられ(2歳で母国を離れ、15で初めて一人で国際線に乗った)、親に連れられて海外に住んでいたのに、飛行機も海外も、実は大の苦手である。乱気流も、聞き取れない速さで話す現地人も、怖くてたまらない。デカくて重いスーツケース、相場の分からない食べ物、じっと睨んで読む案内表示。慣れない匂いのする街。全てがじんわりと私を疲れさせた。  卒業旅行に行けなかったことがある、と書こうとしたが、結局自分が行かなかっただけである。高校の友人たちと大学卒業の折に、ヨーロッパ

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                      • 64. どうでもいい話をしてほしい

                         誰かの「嫌なところ」を見た時、大体において後ろめたくなる。  そういう時に、自分の知らない一面があっただけ、とはあまり思わない。ましてや、実はそんな奴だったのか、とは全くならなかった。ああたぶん自分がこの人の良くないところを引き出してしまったんだ、となんとなく思って、勝手に悲しくなる。  平野啓一郎の『私とは何か 個人から「分人」へ』を数年前に読んだ。自分がちらりと考えたことを、いつだって賢い人々が理路整然と言語化してくれているのは本当に頼もしい。本は部屋を多少散らかす代

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                        • 63. 幸運だったこと

                           「あなたのことは心配していないけど」  いつも鋭い上司が微笑んでそう言ってくれた時、ようやっと人前に立ってまともに話ができるようになったことに気づく。目上の人にも、後輩にも分け隔てなくフレンドリーに接することができるようになったことに気づく。友人たちの何倍もの時間をかけて、「できているべきこと」を一つ一つ塗りつぶしてきた。夏休みのラジオ体操のスタンプカードより途方もない。  無駄にプライドが高い分あがり症で、その上ドジだった。自信のかけらもなかった。地獄耳のおかげで、ちょっ

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                          • 62. 空気缶

                             15の時に中学校で、20歳の自分に宛てた手紙を書かされた。書かされて、先生に回収される予定だった。  確実に5年後の自分を悶絶させ、枕に顔を埋めて足をバタつかせる未来が見えていたし、20になってから15の頃の知り合いにまた会うとも思えなかった。賢明な私は、手紙を出さずにとっておいた。案の定、当時の知り合いとは全員縁が切れ、手紙は目を覆ってもなおどうしようもない代物だった。実家の自室の隅に、恥と埃がひっそりと分厚く積もっている。梶井基次郎みたいに、こっそり爆弾を置いてきてやっ

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                            • 61. 辞めどき

                               キャリアについて思い悩んでグズグズしている間に、また一人後輩が辞めていった。直下の全滅が近い。なんて職場だ。給料の割には仕事が簡単で残業もないに等しいが、なんせこき使われている感がすごい。使役関係の中にある職業はどれも変わらないかもしれないが、他人の尻を叩くスキル以外には何も身につかない上に、こちらの事情を考えない仕事の割り振り方をされる。石の上にも三年、はカスの言い分だと思っていたが、図らずも三年めに突入してしまい、若干の頼られる気持ち良さに負けそうになっている。一番辞め

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                              • 60. パインの缶詰

                                 映画好きなら、もしかすると私がこれから何の話をしようとしているのか、もうすっかり分かってしまったかもしれない。はいはい、と思っていただいて結構。30缶食べきるまで、しばしお付き合いください。  4月1日に女の子に振られ、5月1日の自分の誕生日期限のパイナップルの缶詰を買い続ける。パイン缶は彼女の好物。30日経ってあの子が戻ってこなければ、この恋は終わり。健気な青年は無事30個の缶詰を食べるハメになり、悲しみの中ゲボを吐く。やがて重慶のビルの森の中、失恋した青年刑事と金髪美

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                                • 59. 不都合な話

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                                  • 58. 「地に足がつく」

                                     久々に高校時代の友人たちと会った。皆各々人生に進捗を生んでいて、それがこの上なく嬉しかった。理不尽に耐えながら働いていても常に好きなことを追い続ける友人、好きなことを仕事にしてしまった友人。  いや誰だよ、と笑いながらお互いの変化を楽しむ時間が毎回愛おしい。またしばらく会えなくても自分のこと忘れてないだろうか、と心配になることもなく。どうか達者で、とだけ思える関係性は稀有かもしれない。(また変な病気してない?と心配されないくらいには丈夫になりたいものである。)  以前まで

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                                    • 57. 思い出せないこと

                                       心の一部がずっと北海道にある。3月に桜が咲いているのを見ると未だにえーッ?と思い、真夏は外で立っていられないのをどうしても理不尽に感じる。長い梅雨にも慣れなければ、蚊の多さにもいちいち仰天してしまう。  札幌に5年間住み、大阪に7年と少し、東京に2年半住んだ。定住した期間が一番長いのは大阪のはずだが、「帰りたい」のはいつも札幌だった。魂の一番柔らかな季節を、あの涼しい土地で過ごしてしまったからに違いない。7歳から12歳のうちに、濃い友情があり、初恋があり、初めての大きめの挫

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                                      • 56. 言語の話

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                                        • 55. 走馬灯の100万分の1秒

                                          統一教会についてどこかの誰かが書いた記事、OSO18についての記事を読み、大阪王将社員の告発を遡った。「高い壺を売りつける」は陳腐な冗談みたいな真実で、恐ろしく賢い巨大羆は今年の夏も捕まっておらず、どこかの餃子屋はナメクジまみれらしかった。悲しい。どうして熊害(ユウガイ、である。クマガイではない)についての記事はこんなに好奇心をそそるのだろう。三毛別も恐ろしいが、ワンダーフォーゲル部の件がかなり印象深い。野次馬の好奇心が一番おぞましい。  永井荷風の『濹東綺譚』を退屈しきって

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