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139. 衝撃に備える姿勢

 安全のしおりを熟読する。ホームの端を歩かない。スクランブル交差点は最短距離を小走りで。夜道はイヤホンを外して。密封の確認できない飲食物には手をつけない。2回右折しても着いてきたら110番。非常口はそことあそこ。スカートではなくパンツスーツで。ハイヒールではなく革靴かスニーカーで。いつでもすぐ走れるように。逃げられるように。
 いつも死に筋を考える。電車の吊り革に破傷風になる黴菌はどのくらい?何だってまるで意味はない。意味がないことを知りながら死に筋を避けることに意味がある。赤信号を用心深く渡れるから。
 病気や怪我、事故に巻き込まれて死んでいく人を見て、真面目に生きていても意味はないんだなぁ、と言う人をたまに見かける。まったくその通りだと思う。飲酒喫煙をせずしっかり眠り、健康な食事をしても腫瘍はできる。人を愛しても組織に尽くしても社会を根底から変えたとしても、人間一人は吹けば飛ぶ。揺るぎない平等は理不尽の上に成り立つ。

 「真面目」に意味は全くない。意味を求めれば狂うしかない。
 「真面目」に満足することを覚えるのが、一番の近道に思えてならない。

 内側から殺されないために。せめて外側から死ぬために。自分のロジックに殺されることだけは防ぐことができる。我々はそれを知っている。人を欺いてはいけません。自分を欺くことはどうしたってできないから。人を殺してはいけません。誰も殺してくれないかもしれないから。人を裁いてはいけません。あなたがたも裁かれないために。あなたがた自身に裁かれないために。人に優しくしなさい。その日はあなたがよく眠れるはずだから。

 小さな手帳に「愛してる」と書きつけ頭を抱えて、衝撃に備える。几帳面に満ち足りて、理不尽に死んでいく。

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