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写真を撮る一瞬を“大切”に思うようになった


フィルムカメラを初めて手にしたのは、2017年の冬。今から3年前だ。

当時流行り始めたフィルム写真への憧れというのもあったのだろうけど、それよりももっと強い思いがあった。

それは「写真、もっとうまくなりたいなぁ」という切実な願いだ。


当時の私はいわゆる“入門機“と呼ばれる小さな一眼レフを使っていて、優秀すぎるその相棒に写真を撮ることのすべてを任せっきりにしていた。

カメラの設定はいつもオート。「F値」「シャッタースピード」といった基本的な仕組みは、その名前をぼんやりと認識しているだけで、いつも頭の隅に放っていた。

私が撮れる写真は、とうとう頭打ちになった。

構図の取り方は得意だったし、いい感じの写真は撮れた。だけど、「画質が綺麗」「さすが一眼レフ」といった範疇を出られず、ただただ綺麗な写真がフォルダに溜まっていくだけだった。


何かが違う。なぜだかつまらない。

たまに友達に「写真うまいね」って言われて、図に乗ってた。技術なんかこれっぽっちも向上していないのに。


そんなモヤモヤで心がいっぱいになった時、フィルムカメラの存在を知った。

平成生まれ、平成育ち。

物心ついた頃には世の中はデジタルの時代で、辛うじて「写るんです」の存在を知っている程度だった私の前に、ちょうど世間の“流行”に乗ったフィルムカメラが現れたのだ。

すぐに調べると、フィルムカメラには大きく分けて「機械式」と「電子式」があることを知った。まずは「電子式」のフィルムカメラなんてものがあることに驚いた。“電子“と付くものは全てデジタルカメラだと思っていたから、フィルムカメラの中にも電池で動くものがあるのね、と。

そして同時に(ものすごく矛盾することを言っているようだけど)、電気の力もなくカメラという箱だけで写真が撮れるという事実にびっくりした。初めてカメラを見た人のごとく感動を覚えたのは、カメラをただ「綺麗に写真を撮ってくれる機械」と捉え、その仕組みについてはなんにも考えていなかった証拠だった。


私が気になったのは、「機械式」のカメラ。電池不要、充電不要で操作は全てマニュアルだ。選んだ理由は単純で、「写真が上手くなりたい人には機械式のフィルムカメラがおすすめ」という趣旨の言葉を見かけたからだ。

写真歴は長くても実はカメラのことをなんにも知らないボケボケな私には、オート機能を一切省いたスパルタカメラの方がいいと思った。自分に鬼になろう。


そんなこんなで、時間をたっぷりかけて選んだのが Nikon New FM2 というカメラだ。


ここで、フィルムのことをよく知る人ならこう思うかもしれない。

「全然スパルタカメラじゃないじゃん!」と。

そう、実はこのカメラ、フィルム界ではとっても優しい紳士との評判がある(この間も中古カメラ屋の店員さんに「まじで優等生カメラっす」と言われた)。だけど、その時の私にとってはじゅうぶんすぎるくらいスパルタだった。


人の顔を認識して自動でピントを合わせてくれるデジタル一眼レフ。対してFM2は重たいピントリングをググッと回さない限り微動だにしない(私が買った中古のレンズは美品だったけれどピントリングがめちゃくちゃ固い)。ファインダー中央の、丸い穴。ピントを合わせたい被写体にカメラを向け、真ん中の線を境に上下で割れたその穴がピタッと円になるようリングを回せば、その被写体にピントが合うという仕組み。よくできてる。

画面を見れば明るいか暗いか一目瞭然のデジタル一眼レフ。対してFM2はシャッターを半押ししてファインダーの右端にある露出計表示を確認する。赤い丸が出たら明るさちょうどいいよ、マイナスが出たら暗すぎる!プラスが出たら明るすぎる!赤丸の上にプラスが出たら、いい感じだけどちょっと明るいかも、という合図だ。しかし、赤い丸でシャッターを切っても現像してみたら明るすぎた、ということもざらにある。だから結局自分の感覚で明るさを決めなければならない。


こんな風に、ヒィヒィ悪戦苦闘しながらも、カメラについて“学ぶ”始めての感覚に胸が高鳴ってしかたがなかった。

カシャンと心地よく響くシャッター音も、同時にカメラという箱の中で文字通り「シャッターがおりている」のが感じられることも、とっても幸せに感じた。


New FM2というカメラはよく、写真学校の生徒たちに使われるカメラだと聞く。余計な機能は一切取っ払ったシンプルを極めたデザインと機能を持ち、マニュアル操作を一通り身につけることができる機械式カメラ。優秀なカメラだ。


私が思うこのカメラの魅力は、機械式のフィルムカメラだからといって決して難しすぎず、どこまでも使う人に“優しい”ところ。初心者にも変にハードルが高くなく、フィルムカメラの魅力をもったいぶらず教えてくれるところだ。

お気に入りポイントは、フィルムカメラならではのザラザラ感がちょうどいいところ。フィルム写真独特の色合いや雰囲気はそのままに、だけど質感は荒すぎず滑らかで、デジタルにも負けない綺麗さを誇る。もちろんフィルムの種類やレンズで描写は変わってくるのだけど、私はNew FM2の写す世界がとても好きだ。


写真がうまくなりたい、そう思ってフィルムカメラを手にとった。

うまくなれたかどうかはわからないけれど、撮り方はがらりと変わったように思う。


自分で光をとらえ、写真の中にとじ込めるようになった。どんな風に情景を切り取ろうか、どんな描写にしようか。何を表現しようか。考えるようになった。熱心にファインダーを覗き込み、丁寧にシャッターを切るようになった。


写真を撮るという行為を、その一瞬を、大切に思うようになった。


そんな風に私を変えてくれた、最高の相棒だ。

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■ 作例


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