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私はことばが好き。あなたは?

 私は言語学が大好きで、本を読んだり勉強もしたりするから、「興味がある分野がわかっててすごいね」とよく言われる。でも実際はいつも難しいことを考えているのではない。だから私が何を考えているのか、書いてみることにした。


 日本語では温度で「水」と「湯」を分けるのに対して、英語は「water(水)」と「hot water(温かい水)」と、湯はあくまで水の温かいバージョンという話がある。この具体例が表すのは、言語によってどこからどこまでを同じものとするかが違うということだ。

 例えば、「足」と「脚」。両方「あし」と読むのに微妙に意味の差がある。となると、日本語の「あし」は「腰から下すべて」を指していて、中国語が「足」と「脚」を使い分けていたのではないか?とか。こんな風に、仮説を次から次へと立てていく。検証はしたりしなかったりだけど(「あし」はしてない)、とにかく考えるのが楽しくて仕方ないのである。

 似た例で「そだてる」がある。日本語は犬も猫も草も木も子供もみんな「そだてる」けど、英語では草木は「grow」、犬猫子供は「raise」である。日本語のほうが"範囲が広そう"だ。

 韓国語の「알다(アㇽダ、知る)」の対義語は「모르다(モルダ、知らない)」で、日本語の「知る」「知らない」の関係と対応しない。日本語話者は「知らない」ことを「知る」ことの反対として理解するのに、韓国語話者は「知る」ことと「知らない」ことを別のものとして理解できるのかもしれない。

 韓国語関連では、身長も面白い。日本語では、背が「高い」もしくは「低い」と表現する。でも韓国語は背が「크다(クダ、大きい)」「작다(チャㇰタ、小さい)」と言うのだ。英語はというと、高い方は「tall(高い)」で低いほうが「short(短い)」だ。しかも英語は、「背」がどうだという日本語、韓国語と違って「誰々が」高いとか短いとか言う。日本語、韓国語では背丈は人の特徴の一つであって、英語では「身長=ある人の長さ」みたいな感じなのだろうか。このような違いは他のところにもあって、例えば走るのが速いことを「足」が速いと日本語では言うけれど、英語だと「You are fast」だから、「あなた」が速い。同じことを言われていても、日本語だとその一部分を褒められているように聞こえるけど、英語だと私をまるごと褒められているように感じて気分もよくなる(日本語で褒められてももちろん嬉しいけれど)。

 「足が速い」で思い出したことがある。小学生のとき、プールサイドで走って「走るな!」と怒られたのだが、アメリカで同じことをしたら「WALK!」と怒られた(プールサイドでは走ってはいけません。良い子は真似しないでね!)。なにもプールサイドだけでの出来事ではなく、割とどこでもこの違いは見られる。日本語だと注意は基本否定でする(「ペットは入らないで」、「私語を慎め」とか)のに対して、英語だと望ましい行動を命令、もしくは望ましい状況を要求することで注意としているようだ(「Service dogs only(介助犬のみ)」、「Be quiet(静かにして)」など)。「No talking(話さない)」、「No running(走らない)」、「No pets allowed(ペットはダメ)」なども見かけるけど、とにかく動詞に「not」をつけないのは、日本語と違うところだ。

 身の回りのことばで何か「違う」ところを見つけたら「何がどう違うのか」をひたすら考えてみる。それが面白くて仕方ない。なにも他の言語で比べなくても、「ありがとうございま"す"」と「ありがとうございま"した"」はなにが違うのかな、とか、この人は今どうしてこの表現を使ったのかな、とかでも面白い。式典の先生の話は宝庫だから、気になるものを探してみることをおすすめする。寝ないでいられるし面白いから一石二鳥だ。


 言語学の勉強は楽しくて好きだけど、私の好きの根源はこういう日常の中のことばにある。大学の学部学科を考える時期でもあるけど、堅苦しい「〇〇学」を知らなくたっていいと私は思う。大事なのは、その「〇〇学」につながる「好き」を持つことではないだろうか。

 しかしそれがわからないと言う人もいる。でも私はこう思う。気づいてないだけで、きっと誰でも興味のあることは持っている、と。日々の生活の中でふとした瞬間に意識が向くものを気にしてみると、なにか共通点があることがわかるはずだ。そしてそれがズバリ、あなたの興味だ。だから、あなたがもし自分の好きなことがわからないと思っているなら、自分の中を"覗いて"みてほしい。きっと「好き」はもうそこにあって、あなたが気づくのを待っているから。



きゅう

PS
日本語の他に、英語と韓国語を話せます。英語は在米時に習得、韓国語は独学で学びました。



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