マガジンのカバー画像

doramatic

6
何気ない日常も、当たり前みたいな日常も、どんな瞬間だって、きっとドラマチックなんだろう。
運営しているクリエイター

2023年2月の記事一覧

sweet,and sweet

sweet,and sweet

「僕に手作りチョコレートとかやめてよね?」

マロンベージュの髪色に肌荒れ一つない端正な顔を持つ男が、至極当然のことのようにさらりと言い放つ。それに対して腹を立てる気も起こらないのは、この男が世界でも注目される若手ショコラティエだからだった。そう言われたってぐうの音も出ない。当たり前だ。

男の人特有の節くれだった指ではなく、細くて繊細な指先で作り出されるチョコレートは、単に美味しいと味わうためだ

もっとみる
not/good

not/good

 きっと大嫌いと大好きは紙一重なんだろう。

 最低で、クズで、どこまでも自分勝手なその人は、どうしようもなく私を振り回す。その度に裏切られて、傷ついて、大嫌いだと何度も思うのに、その人があまりにも優しく抱きしめてくれるものだから、それだけでまた、私はあなたに期待してしまう大馬鹿者になってしまった。

 指先を絡めて、互いの視線が絡んで、その先にある感情は一体何なんだろう。まつ毛が触れ合う距離で小

もっとみる
night escape

night escape

逃げよ?

 緩くパーマのかかった黒髪の隙間から、いたずらっ子みたいな目を覗かせた君が笑って言った。まるでそれが当たり前みたいに、ごく自然に手を取って、ハリボテのお城みたいな店内を駆け出した。

 積み上がるシャンパンタワーを崩し、各テーブルに置かれた鮮やかなフルーツの盛り合わせから一つずつフルーツを摘む。
 jimmychooのピンヒールが照明に乱反射する。馬鹿みたいに大きいシャンデリアには別れ

もっとみる
tightrope

tightrope

 目に見えない透明なロープの上を、恐る恐るバランスを崩さないように進む。誰に渡されているのかも分からないまま、振り返ることのできない綱渡りをしている。ただひたすらに。我武者羅に。
 この先に一体何が待ち受けているのかも、一体何から追われているのかも分からないまま。

 少しでも立ち止まってしまえば、底の見えない闇の中へと、あっという間に吸い込まれてしまいそうで。
 ゆらゆらと右に左に揺れながら、ど

もっとみる