椎名十七

椎名十七

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    自分の短編・短歌をまとめてあります

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愛する

「悪い夢見た?」 「……そう……かも」 自然に目覚めたけれども、思ったより汗をかいていて、少し動悸も感じる。幾分か前の覚えていない自分は、そうさせる何かの下に居たのかもしれない。僕の人生はいつも、漠然としている。 「もうちょっと寝る?」 「いや、大丈夫」 「じゃあ朝ごはん作るね、ちょっと待ってて」 あなたは勉強机の椅子から立ち上がり、ドア一枚隔てた向こうのキッチンへ行った。部屋に残った僕は、今日は気の回らないやる気のない日で、何も考えていない感覚のままカーテンを閉

    • エコー

       しゃれた有線を消してみてから二人は向かい合った。ファンデーションが少し崩れて見えているシミや、見えにくい場所に剃り残している毛を見合って、むしろお互いの存在がより大切になることを確認し合った。丁重に整えられたベッドの上に腰掛けてやけに機構が多いパネルのつまみを捻って、暗くなった部屋で二人はゆっくりと顔を近づけ合った。ゆっくりと近づいていった顔の、鼻が軽く触れて、そこから唇が触れた。少し留まったのちに、どちらともなく顔を離してしまう。まだ近いところでお互いに止まって目を見合わ

      • たくさん書きたい 何も書きたくない

        • 2024-08-10-13

          実に様々な人に誘いを貰っている。私はそれに従って動く。誰がいつ死ぬか分からないから。私は誰よりも死を軽んじて、誰よりも死を恐れている。大袈裟だろうか。私からも皆を誘いたいな、と思う。 私が死ぬということ、それが私以外に影響を与えるということ。 私は私のために煙草を吸っているけれど。私はあなたのために煙草を吸い続けるかもしれない。私はあなたのために煙草をやめるかもしれない。それらが尊いものだと固く信じたい。それと同じくらい、それを超える勢いで、私が吸いたいと思えば吸い、やめたい

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          13本

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          2024-06-11

          何をそんなに怯えているんだい。 Youtubeであるボーカリストのライブ映像が目に留まった。「この人の曲をきっと好きになれる」と思って、その人のバンドの曲を片端から聞き流した、時間をかけて。私が求めていた(のだろう)心臓を死ぬほどきつく掴まれる感覚は得られなくて、でも満足してないとも違うような、この感覚は、とにかく、なんというか、どうにも、で、勢いの形だけが残って、前から好きなアーティストの聴いてなかった曲を聴きまくった。穏やかな恋心が戻って来るけれど、贅沢にも事実にも、確

          2024-05-23

          大学での発表に伴う怒涛の日々が一段落して、よく眠ったりやりたいことをやったりしている。短編のアイデアも一つ浮かんだ。限界の時のこういった成功体験が私をより深い限界へ連れていく。 五月に入ってから眠るのが怖くなりはじめ、発表が近づくにつれてそれが極まっていた。体が動く間はとにかくパソコンに向かい、しかし時間だけが過ぎていき、眠くなったら一定時間ごとのアラームを何個もセットして仮眠し、寝起きガチャを引き続けた。戦略的にぐっすり眠る決断も取り入れたのが成長したところだったが、基本カ

          2024-04-16

          新学期が始まった。 この半月くらい、ずっと引き摺っていた人生の岐路に立ち尽くしていた。質量のあるものを幾つも諦めた。未来の自分が許してくれそうにないくらい本当にたくさん、諦めることにしてしまった。 後悔はしないと思う。無理だったという事実の穴が一生空いたままになるだけ。 つむじ風に巻き込まれる葉や、眩しい夕日や、瞬く煙草の火や、満開の花や、いろんなものを見ていても、それが名称以上の言葉にならず呆然としている。生きる意味などというものを見つけようとはもう思わないけれど、とに

          2024-03-19AM

          毎日もう無理だと思っている、でも生きている、それは死なないから 自分の感じている無理が甘えなのかマジなのか、よく分からなくなってきた、それは生き延びているから 雁字搦めの打ち砕き方はもう分かっているのだけど、どうにも本当に怖くて出来ずに止まったまま時が迫っている。今の私は考え方が偏り過ぎているのがわかる、ただ、そうでしか生き延びる体に心をついていかせることが出来ない。 年齢の通りに成長できなかった僕の罪のせいで僕以外の何人を罰してしまうんだろう どうも体が動かなくてぐちゃぐち

          2024-03-09

          三月の図書館は人が少ない。今日はいよいよフロアに誰も見えなくなっていた。 光に包まれる日だった。知らない曲が聴こえていて、空間に光が満ちた数分、走馬灯のことで頭がいっぱいになった。図書館に来てから咄嗟に覚えたその時の曲を再生して、景色が瞼の裏に再現されることを確認してしまった。私の走馬灯は光で満ちるだろうか。順当に大きな傷から思い出したりしてしまわないだろうか。 人が少なかったのは閉館時間が迫っていたからだったようだ。粘ることにする。 表面的に諦めが悪いのは潜在的に諦めが早い

          2024-03-01

          押し潰されないために図書館に行くんだな 図書館に行くと勉強も捗るし創作も捗るしnoteも捗る。娯楽を取るととにかく言葉だけが残るっぽい。すごく助かってるけど、お腹が鳴っちゃうのとの戦い。 (毎日なんて変なことで体力使ってるんだろうって感じでめそめそ。すぐ出来るはずのことに訳分からないくらい喚いてしまう。どうやって自分のこと飼い慣らしたらいいんだろう。)って数日前に書いてて、この後言葉で何が私をめそめそさせてるのか整理してこうしたらいいじゃんも一緒に書いて保存してから、ちょっと

          Lily-livered Youths

          ※軽度の性的要素を含みます。  史実は十畳の部屋の隅に体育座りをしてじっと感じていた。目の前で行われて終わってを繰り返す幾つもの偏固な挨拶を。肌を滑り上がる熱水、口から鼻に抜ける体液、鼓膜の内側で反射する嬌声、細い視野を埋め尽くす使い古された儀式を、じっと感じていた。廊下から振動と打撃。私の目の前で起こったものかもしれない。どうでも良かった。温く滑った水槽で絡みが沸々と悪化し続ける布袋葵の享楽がこれで、私の鑑賞がこれ。それだけだった。  史実は映画研究部の部室が大嫌いだ。

          Lily-livered Youths

          2024-02-19

          五時頃目が覚める。寝落ちしていた。もう一度眠って九時頃に起きる。最近はやさしくない夢が多い。悪夢っていうのもそうだし、いつも笑われたり詰られたり無視されたり、そんな扱いを受けるから、起きた後よくない気持ちになっている。 前二、三日遊び倒していたから体が重い、けれど今日もやりたいことがあるし気持ちは上向きで、起きて朝ご飯を食べる。心が軽かろうが重かろうがそれは制御が効いていない、からやりたいことができるように体を整えたほうがいい。 服を着替える。最近はネクタイをつけていたくてず

          2024-02-13

          つまらない日1 二時に寝て一時間ごとに目覚めてしまいながら八時半で諦めて起きる。朝ごはんに昨日作った鍋を食べて陽の光を浴びた後課題をひとつ終わらせて相談室に行った。あんまり話せなかったけれど、自分のために頑張ってる気持ちになれないんです、ってこととか、口にした 帰ってきて昼ごはんに鍋を食べて少しマイクラして、十五時過ぎにゆっくり図書館に出掛ける。授業で雑誌が必要なのにひとつも持ってないから取り急ぎ道中でViViを買う。ほぼ雑誌読んだことないけどとにかくViViは好き。一つ一つ

          2024-02-11

          何回か家で目覚めて、その度に隣に友達がいるのを確認した。前日は朝起きてから朝方までずっと何かしらすることがあって調子が悪くなって、それで引き留めたのに友達が応じてくれた。友達にかけるべき言葉がいくつもあったけど、喉を通らなかった。昼頃にやっとましになって、友達を返した。友達をこういう風に付き合わせてしまうのは久々だった。 その後も体は重く、何度か眠った。夢を見た。両親が代わる代わる調子の悪い私のもとにやってきて、淡々と私を詰る。二人合流してまた詰り続ける。追い詰められた私が本

          2024-02-01-05

          先週から比べればどうにかなるようになってきた、と思う。本気で死と顔を突き合わせて話をして、(ゆっくり、着実に)こっちに戻ってきた。死は引き止めたりしない、引き止めるのはいつも私だ。そして(配慮なしに言えば)(という配慮のところの人生)(   )留まったという結果だけがある。 自分にはやはり創作が必要であって、リハビリしているうちに歌数が揃ったから、少し無理して賞に出してみた。けど、封筒に御中って書き忘れたから多分読まれもしないと思う。ただ、そういうこととか人が読んで面白いかと

          Driven

           午前一時、片田舎の駐車場は地球の影に落ち込んで冷え切っていた。隅の方に一台だけ取り残されている朽ちかけのワゴンは今日もそこにあって、その隣に自分のワゴンをつけて、車中の漠然をやり過ごしながら先輩を待つ。  時間通りに現れない先輩を待ちわびてカーラジオをつける。知らない洋楽が流れ出す。随分と陽気な曲だった。なんとなく肩から揺らし始めた時に、横の窓を叩く音がした。窓を開ける。 「トランク開けて」  トランクオープナーを押してから窓を閉め、また曲に意識を戻す。曲がフェードアウ