弔い<現代詩>

折り紙で 夫が
兜を兜を幾つも折る
帆掛け舟を幾つも折る
蝉を 鶴を 
四角いだらけの奴さんを
幾つも幾つも折っている

週末に折る 帰宅後に折る
少しばかりの暇(いとま)の際に
幾つも幾つも 折りに折っては
四角い箱の中へと 入れている。

「わたしも一緒に」声を掛ける雰囲気すら拒否
「いや、俺がやるから。お前はいい」背中が答えを出している
悠に20年、いや25年になるだろうか?

「正の記憶 正の証し」
箱に書かれた夫の文字だ
「正(ただし)」
正義を愛する夫がさっさと命名した。

折り紙が好きだった 折り紙の絵を描いて遊んでいたりした
「ボクねぇ、おりがみやさんになるの」
夢を語ってくれたりした
「こういうの、出来たんだよ。テレビでしてた」
折った鶴をみせてくれたりした
「今度ねぇ、ようちえんで折り紙、折るの。かぶとを教えてくれるんだって」
「じゃっ、その前に折ってやろう。大きいのを」
夫が新聞紙で折り、頭に被せてやると「写真、とってぇ~っ」
写真、写真
その写真も、箱の中にある。

夫が「ふぅ」
お終いにする合図だ
「お茶にします?」
「うん」
共に静かに飲んでいた。

つけたテレビのニュースで交通事故をやっている
犠牲者は5歳の男の子
「、、、、」
黙って夫は見ていたが 直ぐにチャンネルを変えてしまった
「辛いな」
ボソッとだけの言葉を わたしにだけ響かせながら
(・・・・・)
静かにわたしはお茶を飲む。

庭を見る 雀だろうか つがい鳥の囁きが聞こえる
「あいつ、結婚してんのかな。天国で」
「そしたらわたし達、爺さん婆さん連中ね」
一寸だけ 夫が 笑った。

<了>



#創作大賞2023

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