四条けん

虚構日記/研究日誌/文学/映画/エトセトラ

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    真に受けないでほしい日記です。

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    定期的に研究関連で進めたことをまとめていきます。専攻は農業市場学です。

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考察『ドライブ・マイ・カー』の美

※この記事は映画および小説の『ドライブ・マイ・カー』のネタバレを含みます。ご了承の上、読んでいただけると幸いです。 ①はじめに映画『ドライブ・マイ・カー』は村上春樹の短編小説『ドライブ・マイ・カー』(『女のいない男たち』文藝春秋社)を原作としてつくられた作品だ。 なお『女のいない男たち』に収録されている『シェエラザード』と『木野』のエピソードも投影されている。 映画『ドライブ・マイ・カー』のあらすじを記す。 本作品を初めて私が観たのは2021年9月のことである。 正直なと

    • 虚構日記「雨のSA」

      ますます雨が強くなっているのがわかる。SAの駐車場を出入りする人たちは足早だ。それをぼんやり眺めながら、わたしは飲みかけのペットボトルのラベルを少しいじっている。運転席に座る彼は、水筒に入れた麦茶を喉仏を跳ねさせながら飲んでいる。車内に走る静けさが緊張感を誘発するが、それもまた快く思える。 * わたしたちは地元の幼馴染で、5歳から12歳までを一緒に過ごした。 文字面通り、いつも一緒だった。小学校卒業後は別々の中学、高校、大学に進学した。年賀状のやり取りだけは毎年欠かさずし

      • おそらく牡蠣にあたった

        少し酔って帰宅。とはいえその日はそこまで飲んではいなかった。じめじめとした湿気が夜まで続いたその日は、風呂嫌いの自分でも早くシャワーを浴びたいと感じたので即座に入浴した。 風呂から上がると突然、胸元に不快感をおぼえた。酔いのせいか?立っていられなくて、ドライヤーもせず床に倒れ込む。呼吸を整える。回復体位をとる。強烈な喉の渇きと気持ち悪さで苦しい。30分くらい伏せたままで静かにした後に、少し落ち着いた頃合いに髪を乾かし歯を磨き、布団に潜り込んだ。 全く寝れない。口はとても渇き

        • 触れたもの(2024前半)【映画・音楽】

          2024年の上半期に触れたもの。映画と音楽に絞って。 1月に『哀れなるものたち』を観た。フェミニズムの文脈に明るくないため、文化人類学的な色をおぼえた映画だった。エンターテイメントとして楽しめた作品。 2月、映画館で『紅の豚』を観た。大学に入ってからジブリで1番好きな作品はこれだと感じるようになった。それはいったい何故だろう?なにが、この映画をこんなにも恰好良くさせているのだろうか? 『PERFECT DAYS』も観た。なんだかおちょくられている気分になってしまった。出演

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        考察『ドライブ・マイ・カー』の美

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          15本
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        記事

          6月第5週・進捗報告

          久しぶりに自分の研究について。 先日、調査候補の企業に研究調査のご依頼メールを送信した。 すると翌朝、たいへん丁重なお断りのメールを返された。 悔しい。 先行研究では受け入れてくれた企業先だっただけに、なぜ?といった気持ちがむくむくと膨れ上がってきている。 * 農外企業の農業参入について、「地域圏」という概念を援用して分析をしようと企てていたのだが早くも雲行きが怪しい。 調査NGが早めに分かってよかった、とはまだ思えていないのは自分の青さか。 思うようにいかないこと

          6月第5週・進捗報告

          虚構日記「656日」

          656日というのは大学2年の秋から大学4年の初夏に相当する日々だった。 656日の始まりの日は、雨が降っていた。 たしかきみは雨の日なのにサンダルを履いていた。 わたしには今まで、雨の日にサンダルを履くなんて概念がなかったもんだから、たまげたよ。 656日の366日目も、雨が降っていた。 きみはわたしに、花をくれた。 656日の冬のある日に、温泉でくつろいだ。 この前の雪の日に、家の郵便ポストまで行くのにサンダルを履いて出たら流石に寒かった、と笑うきみにわたしは心底たまげたよ

          虚構日記「656日」

          誕生日に寄せて

          コメダ珈琲店の新作シロノワールが出る度に一緒に食べに行ったあの子は わたしより先に大人になった。 会話もたまにぎくしゃくする。 会うことに気を遣うようになる。 きっとわたしたちは会わなくなってしまうんだ。 淋しい夜はそんな気持ちにもなる。 年に一度しか素直になれない悪い子どもは 毎日あの子の幸福を祈っている。 本当は「食べに行った」なんて過去形は使いたくない。 本当は「会わなくなってしまう」なんてことばは使いたくない。 会うとだらしない部分ばかり見せてしまうけど 会うごとに

          誕生日に寄せて

          虚構日記「君とドライブ・マイ・カー」

          ねえ君、実は君はわたしにとって大切な友人なんだよ。気付いてる? わたしたちが初めて一緒に飲んだのは最寄りから二駅先のバーだった。バーにしては珍しくカウンター以外にもテーブルがあって、わたしたちは店の隅の4人テーブルに腰を下ろしていた。わたしたち以外にも友人がふたり座っていた。 奇妙な巡り合わせでわたしたちはそこで飲み合わせたわけだが、そこからさらに奇妙な色々があってわたしたちはふたりきりでよく飲むようになった。君とわたしはおそらく、表面上は似ていない。そもそも君とわたしは生

          虚構日記「君とドライブ・マイ・カー」

          虚構日記「ここはビル風吹く砂漠-仙台旅行記②-」

          「強風!手を離さないで!」 「ビル風」「取手から手を離さないで!!」 「喫煙可能店」「強風」 「お持ち帰り出来ます。ハヤシライス」 そんな貼り紙がめぐらされた喫茶店。 外からはあまり中の様子は見えない。入店。 ああ、確かに強風だ。 カウンター席に案内される。 感染症対策だろうか、席と席との間にパーテーションが鎮座しておりやや肩身が狭い。字面通りに。 コーヒーを頼み、持ってきた新書をひらく。 言語哲学の入門書は数時間前までわたしに優しかったはずなのに、今ではロゼッタストーン

          虚構日記「ここはビル風吹く砂漠-仙台旅行記②-」

          虚構日記「夜行バス-仙台旅行記①-」

          金曜の夜、同期の友人たちと宅飲み手巻き寿司パーティーを催す。 好きな人が出来た、恋人のここが好き、あの人が嫌いだなどといった大学生らしい話を友人たちが繰り広げる。わたしは日本酒を飲み進める。4人で気付けば4本を空にした。 23時過ぎ。 自分の使ったお皿を洗い、洗面台を拝借して歯を磨いた。 気をつけてねと玄関まで友人たちが見送ってくれる。お土産を買ってくるからまた飲もうと言い、先に退出。 今晩向かうのは仙台だ。 八重洲口発の夜行バスに乗って6時間で着くという。誰かと一緒とい

          虚構日記「夜行バス-仙台旅行記①-」

          虚構日記「アネモネの手紙」

          計画的にレジ締め作業などを済ませ、退勤したのは22:11でした。 アルバイトを終えたわたしは駅に向かいました。大切なあなたに会うためです。 2人きりで飲むのはいつぶりでしょう。 話すべきこと、話したいこと、話してしまいたいことを両手いっぱいに抱えながら、先に改札前に到着してあなたを待ちました。 数十メートル先にあなたが見え、思わず微笑むわたし。手を振る。あなたも手を挙げて合図を送ってくる。 あなたと知り合ったのは1年半前くらいですね。 初めて話したとき、あなたの会話の“行

          虚構日記「アネモネの手紙」

          虚構日記「転んで、ゲレンデ」

          倒れる、と思う。 その予感は大抵当たる。身体が空中に投げ出される。加速から解き放たれ浮遊する一瞬の快感。だがそれもすぐに痛みへと変わる。視界が白くなる。腕の痺れを感じる。また倒れるときに手が先に出てしまったのか。 友人たちと群馬県のゲレンデに来ている。 人生初のスノーボードをやるために。 可もなく不可もなくどちらかといえば可な運動神経をもつわたしは、ここに到着してから1時間程度でリフトに乗って滑って帰って来れる程度には上達した。とはいえスノーボードは転倒が前提ともいえるスポ

          虚構日記「転んで、ゲレンデ」

          虚構日記「餃子食べ放題」

          先輩に連絡をしたのはこの前のインターンの帰り道だった気がする。 朝から優秀な同い年に囲われて、おんぼろの濡れ雑巾みたいな顔色になってしまったわたしは誰かと繋がっている実感を得たかったのだ。 このところ先輩と連絡を取るのは少し控えた方がいいと思い始めていた。だからおとといLINEのトークルームのピン留めを解除したばかりだったけど、ちょっと下にスクロールしたらすぐ目に入る猫のイラストのアイコンが憎たらしい先輩を「飲みに行きませんか」と誘った。再びピン留めを設定した。 すぐに話

          虚構日記「餃子食べ放題」

          箸袋採集に向き合ったら「好き」を肯定できた

          ごはん屋さんのお箸の袋を収集している。 もう10年以上続けている趣味だ。自分の中では読書と同じくらい染みついており趣味というより習慣といえるかもしれない。 見てもらった方が早い。こんな具合だ。 ご覧の通り箸袋はお店の名刺になっている。 あまり店名が書かれたこうしたオリジナルの箸袋は少なくなってきているように感じる。 それゆえに、出会えるととても嬉しい。 * 就職活動をしているとエントリーシート上で「趣味欄」に出くわす。 わたしはしばしば多趣味と言われる。読書や映画鑑賞

          箸袋採集に向き合ったら「好き」を肯定できた

          虚構日記「水曜日はサービスデー」

          水曜日はサービスデー。 午前中に美容室に行ってわたしは可愛くなったんだもん。 このまま家になんて帰ってやるものか。 水曜日はサービスデーだから、映画館に出向いた。 ビルの4階にある小さな映画館でチケットを買う。 水曜日はサービスデーだから、1300円。 結構席が埋まっていた。 映画を観ながら考えた。 今日の映画はわたしにとってはハズレだったかもしれない。 なんだかちょっと、かなしくなる。 でも水曜日はサービスデーだから、別に良いの。 水曜日は週の中でいちばん素敵な曜日な

          虚構日記「水曜日はサービスデー」

          虚構日記「スーパーマーケットの姫草ユリ子」

          スーパーマーケットでアルバイトをしている。 担当はレジ打ちだ。 17時から19時にかけて、うちの店はいつも混む。 そしてその時間にいつも自分は働いている。 自分とよくシフトが被る大学院生のキムラさんは一昨日から熱で休んでいる。 キムラさんにはお世話になっているから代打を願い出たかったのだが、今日は元々シフトが入っていたからそれは叶わなかった。 アルバイトのメンバーがみんな入っているLINEのグループでは誰も発言していなかった。 いったい誰がキムラさんの穴を埋めるのだろうか。

          虚構日記「スーパーマーケットの姫草ユリ子」