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虚構日記「656日」
656日というのは大学2年の秋から大学4年の初夏に相当する日々だった。
656日の始まりの日は、雨が降っていた。
たしかきみは雨の日なのにサンダルを履いていた。
わたしには今まで、雨の日にサンダルを履くなんて概念がなかったもんだから、たまげたよ。
656日の366日目も、雨が降っていた。
きみはわたしに、花をくれた。
656日の冬のある日に、温泉でくつろいだ。
この前の雪の日に、家の郵便ポストまで行くのにサンダルを履いて出たら流石に寒かった、と笑うきみにわたしは心底たまげたよ。
656日のおしまいの日は、太陽がまぶしかった。
真っ白なTシャツをゆったりと着こなすきみは、最後の日なのに笑顔をみせてはくれなかった。褐色の肌に映える白い歯を、最後に見させてもらっても、減るもんじゃないのにな。
わたしたち、冷凍庫に入れっぱなしにした656日をたまに思い出して、いつか解凍して食卓に並べるんだって思いながらさ、ねじれの位置で生きていくんだね。
永遠に解凍されない656日のことすらもいつか忘れたときを657日目とカウントするなら、その657日目は、ぜったいにわたしに先に訪れてほしいって思っているんだ。
656日、さようなら!
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