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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(9) 決別の儀式 レースの前に

第一話のスタート版
第三十九話 まとめ読み版①  (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8

* *

 オーナーのスチュワートはチームの整備工場へと足を運んだ。

 レイターが用意したハールが、ギーラル社から届いたと連絡がきた。
 作業場のドアを開けると、ペラペラな安っぽいハールの船体と重厚なメガマンモスのエンジンが目に入った。

 こいつがレイターが用意したという高額なハールか。
 見た目は普通のハールと変わらんな。

n65スチュワートスーツ色逆

 設計図が散らかる作業机の前でチーフメカニックのアラン・ガランは頭を抱えていた。助手のオットーがアラン・ガランに呆れ顔で問いかける。
「チーフ、本気ですか? この二つをくっつけるんですか? 無理ですよ。燃えますよ」
「わかってる」
 アラン・ガランが苛立った声で応じた。

 アラン・ガランはかつて『風の設計士団』にいた。
 老師という天才爺さんが率いる独立系設計士の集団だ。宗教がかっているというか、エキセントリックなグループで、アラン・ガランはついていけなくなって辞めたと聞いた。

 俺がS1のチームを持つためにメカニックを探していた時、就職先を探していたアラン・ガランを知人に紹介された。 

アラン・ガランむ

 俺は人を見る目がある。アラン・ガランの中に面白いものを見た。

 風の設計士団にいたからだろうか、発想が豊かだ。閃きの才能がある。
 ただ、彼はそのアイデアを実現させる力が弱かった。緻密な計算を続けているうちに堂々巡りをしてしまうようだ。

 計算が得意な助手としてアンタレス人のオットーを雇ってアラン・ガランにつけた。

 俺の読みは当たった。
 S1レギュレーション内ギリギリのアイデアをアラン・ガランが思いつきオットーが計算し尽くして答えを導く。

 この二人のコンビによる規定すれすれの知恵と工夫がなければ俺のチームはここまで来られなかった。


「どうだ。何とかなりそうか?」
 俺が声をかけると二人が振り向いた。

 オットーが不満げな顔で俺を見た。
「スチュワートさんはご存知だったんですか? このハールがボリデン合金だと」

オットー後ろ目

 俺は驚いて聞き返した。
「ボリデン合金で宇宙船が作れるのか?」
 値段が高いはずだ。

 オットーが肩をすくめた。知らないで金を出したのかとあきれている。
 緑の髪に赤い瞳。アンタレス人は正直だ。オットーはオーナーである俺への意見をためらわない。そこが気に入っている。

 アラン・ガランがコンピュータを操作しながらモニターを俺に示した。
「これを見てください。ハールにメガマンモスのエンジンを乗せて飛ばした計算値です」
 ナセノミラのS1コース図上を赤い点が動き出す。一緒に映し出されるストップウォッチのカウントが速い。

 一周を回ったところで、ラップが出た。一分四十八秒。一分五十秒を切った。
「エースの最速タイムと並んだぞ。すごいじゃないか。レイターは天才だな」 

パーカー赤フード

 俺は興奮した。これならクロノスのS1機と競える。

 だが、アラン・ガランとオットーの表情はさえない。
「これはあくまで計算です。実際はこうはいきません」
「どういうことだ?」
「エンジンのパワーが九十パーセントを超えるとパラドマ発火を起こし機体が融合燃焼する恐れがでてきます」
「馬力を出すと船が燃えるということか?」
 ボリデン合金の燃焼性が高いことは、俺でも知っている。

「打ち上げ花火に、紙飛行機乗せるようなものですよ」
 とオットーが捕捉した。

 アラン・ガランが新たなデータを見せながら説明する。
「パワーを九十パーセント以下に抑えると、一分五十五秒の計算です」
「それでは無敗の貴公子には勝てんな」

普通後ろ目逆

「加えて、ほかの機体やコーナーガードと接触したら燃焼します」
「ふむ」
 追い越し時には機体をぶつけあうこともある。かなり危険ということだ。

 オットーが強い口調で言った。
「他機との接触どころか、融合燃焼はほんの少しの衝撃で起きるんですよ。宇宙塵が飛んできても、太陽風が吹いても、ダークマターが歪んでも、燃えますよ。人は乗せられません。ボリデン合金なんて絶対無理です!」    (10)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」