銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(5) 決別の儀式 レースの前に
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・第三十九話 まとめ読み版① (1)(2)(3)(4)
S1は三十周飛ばす間に、十周目と二十周目でピットへ入りエネルギーチャージするのがセオリーだ。
昔の名残で給油と呼ばれている。
まもなく二十周目。
トップのチャーリーがピットに入る。続いてコルバがピットイン。
次は、レイターだ、と思ったら、レイターはピットを通り過ぎた。
見ている奴らがざわついた。あいつ、何考えている。
二機が給油中、レイターは一人で飛ばしている。
だが、あいつも次の周で給油しなければエネルギー切れを起こす。
給油を終えたチャーリーが飛び出し、続いてコルバがコースに戻った。
ほう。こいつは面白い。
レイターが一人で飛ばしているこの一周のタイム。誰にもブロックされないから最速だ。
二十一周目。レイターがピットに入る。
あいつは複数機での競り合いを避けて、単独のスピード勝負に出たわけか。
給油終了。レイターがピットレーンからコースに速攻で戻る。コルバの前に出た。
現時点で、二位。
さあ、レイター、次はどうするよ。
トップを行くチャーリーは無敗の貴公子より速いペースで飛ばしている。
もう、給油ポイントはない。船の性能は同じ。直線では抜けないからコーナーで抜くしかない。
だが、チャーリーはコーナーも小惑星帯も得意だ。簡単じゃないぞ。
残り一周。
レイターはチャーリーとの差を少しずつを縮めてきた。
だが、このペースでは勝てん。
ナセノミラのコースは最後が直線だ。直線手前の小惑星帯で抜く必要がある。
チャーリーが最後の小惑星帯に入った。レイターが続く。
チャーリーは最短のラインで小惑星をよけて飛んでいく。レイターがそれを丁寧になぞる。ぴったりとくっついた。本番のレースだったら危険な速度だ。きょうはシミュレーターだから安心して見ていられる。
ビービー。危険アラームが鳴る。
五秒鳴らしたら失格だ。鳴りやむ。
また鳴る。
鳴りやむ。
ビービー、ビービーとレイターの操縦にイライラさせられる。
決めるなら早く決めろ。何やってるんだ。抜けないのか。
もうすぐ小惑星帯が終わる。
レイターは一体どこで勝負をかける気だ? もう追い越しをかけるポイントはないぞ。
チャーリーが先に小惑星帯を抜けた。最終コーナーに入る。
後は直線だ。チャーリーは逃げ切った。勝負あったな。
と、思ったその時だった。
チャーリーの機体がカーブを回り切れずコーナーガードに激突。エンジンが止まった。
その脇をレイターがすり抜けていく。
最後の直線を全速で飛ばす。
レイターが一位でフィニッシュ。後続のコルバもチャーリーを抜いて二位でゴールした。
レース結果は俺が思った通りの順位となった。だが、釈然としない。
シミュレーター機から降りたチャーリーがレイターに怒鳴っていた。俺の気持ちを代弁していた。
「三十周のほとんどは俺が勝っていた」
「あん?」
「あの一瞬、あの一瞬だけ集中が途切れたんだ。あの最終コーナーさえ切り抜けていれば俺が勝っていた」
チャーリーが言っているのは負け惜しみだが、一理ある。チャーリーがあそこで事故を起こさなければレイターは負けていた。
「銀河一の操縦士だか知らないが、お前が速いから負けたわけじゃない。お前の運が良かっただけだ」
「運も実力のうちって、あんた知らねぇの」
レイターが肩をすくめた。
(6)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」