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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第一話(3) 居酒屋の哲学談義

店長があらわれて、盛り合わせが凍っていたお詫びに今日の料金はいらないと言い始めた。
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<恋愛編>第一話「居酒屋の哲学談義」まとめ読み (1)(2

 レイターの服を引っ張って聞いた。
「ちょっと、どういうこと?」

 レイターはにやりと笑った。
「謝礼だろ」

n205レイター横顔@2後ろ目にやり眉一本

「何の謝礼よ」
 レイターがさっき、ベルがまずそうに食べる様子を動画に撮っていたことを思い出した。

「あなた、さっき撮った動画で店長を脅したの?」
「脅す? 人聞きが悪いな。俺は動画を公開するからタダにしろ、なんてことは言ってねぇぜ」
「じゃあ、何て言ったのよ?」
「あん? 調理機のプログラムが壊れてるぞって、動画見せながら教えてやっただけさ。あっちが勝手にタダにする、って言ってきたんだからいいじゃねぇの」

「よくない! 当たり屋みたいな真似は止めてちょうだい」
「当たり屋じゃねぇよ。俺は、純粋に被害者だ」
 レイターが怒った声を出した。

 確かにレイターの言うとおりだ。
 向こうのミスだから当たり屋というのは間違っている。
「ごめん、言い過ぎた」

n36@3見つめる

 でも、納得いかない。レイターは動画を公開することを匂わせたに違いない。

「未必の故意は成立するな」
 アーサーさんが口を開いた。
「この動画を公開されたくなければ何らかのサービスを与えろと、という暗黙の要求を相手が受け取るだろうと予測した行為」

n31アーサー正面軍服

「俺は調理機のプログラムミスってのは、店長の管理ミスとしては大きいんじゃねぇの、って親切に指摘しただけだ」
「脅してるじゃない」
「脅しじゃねぇっつうの。善意だよ。ここのチェーンは店長の交代が激しくて有名なんだぜ」
「足下を見たってわけ」
「ちゃんと人の話を聞けよ。あの盛り合わせは見ただけじゃ解凍されてるかわかんなかっただろが。プログラムミスってことを俺が指摘しなけりゃ、他の客にも同じもん出してたってことだ。解凍されてないだけだから、待ってりゃ溶ける。だから客からクレームはこねぇが評判は落ちる。それを防げたんだぜ。俺たちの分をただにしたって、お釣りが来るだろが」
 レイターの主張は理路整然としている。でも、納得できない。

「少なくともわたしは何の被害も受けていないし、謝礼を受け取る理由もないわ」
「少なくとも俺は被害を受けたし、謝礼を受け取る理由もある」

出会い29までのあらすじ

「じゃあ、レイターとベルだけ、ただにしてもらえばいいのよ」
 何だか売り言葉に買い言葉みたいになってきた。

 レイターはわたしを説得するように、まるで子供に説明するように話し出した。
「ここのチェーンは店長の入れ替わりが激しいが、その分、店長が自由にできる金も大きいんだ。この店は先月のオープンから順調に客がついて、評判もいい。そこへ水を差されたくねぇんだよ。あんたの分までただにして、サービスがいい店だった、って喜んで帰ってもらった方が経営にプラスになるって、店長が自分の裁量で判断したんだ」

 レイターの主張はそれはそれで間違っていない。
 わたしの頭が固いのだ。
 わたし以外のみんなは、タダになったほうがいいと思っているだろう。

 折角の会を開いてもらったのに、雰囲気を壊してしまって申し訳ない。
 気持ちが落ち込んできた。
「やっぱり、つきあうのやめようか……」  
 つい、口にした。

「は?」

n27見上げる4真ん中後ろ目驚くシャツ

 レイターが素っ頓狂な声を出した。
「い、意味がわかんねぇ」

「レイターの言ってる意味はわかるわ。でも、人の弱みにつけこむのは卑怯で悪いことなのよ」
 レイターがびっくりした顔をして固まった。
「お袋と同じこと言いやがる……」

 みんなにも謝らなくちゃ。頭を下げた。
「ごめんなさい」

 下を向いたら涙が出そうになった。    最終回へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」