銀河フェニックス物語<恋愛編> 第一話(2) 居酒屋の哲学談義
レイターとティリーの恋愛成就を祝う飲み会が開かれた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>マガジン
・<恋愛編>第一話「居酒屋の哲学談義」まとめ読み (1)
料理が運ばれてきた。
生の魚介類の盛り合わせ。オイルソースにつけて食べる創作料理は見るからにおいしそうだ。
「お先に」
と言って白身のお魚を一切れ口にしたベルの顔が曇った。
「どうしたの?」
「冷たい。解凍されてないよこれ」
「どれどれ」
レイターが口に放り込んだ。
「ふむ。確かに」
「文句言わなくちゃ」
ベルが店の人を呼ぼうとしたのを、レイターが制した。
「まあ、待てや。証拠を押さえておこうぜ」
「凍ってて、まず~い」とわざと眉間にしわを作りながら口にするベルの動画をレイターが通信機のカメラで撮影した。
「じゃ、呼ぼうか」
というベルを、またまたレイターは止めた。
そして、ポケットからライターを取り出した。
まさか、こんなところでタバコ吸うんじゃないでしょうね。と思ったところで、レイターは料理に向けて火をつけた。
ライターに見えたそれは小型バーナーだった。
ジュオーという音とともに、青白い炎が勢いよく出た。
あぶられた魚の表面がチリチリとはぜる。いい香りがしてきた。
手際よく表面をこんがりと焦がしていく。美しい動きに思わず見とれてしまう。この人は調理師免許を持っているんだった。
「できたぜ、食べてみな」
ベルがさっそくつまむ。
「おいしい!」
「だろ」
わたしも口に入れた。
香ばしい匂いが口の中に広がる。焦げ目のついた部分と生の触感が舌の上で絶妙に交じり合う。
「ほんとだ、おいしい」
「まずい、って言われたら、料理がかわいそうだろ」
とレイターがウインクした。
決しておいしいとは言えないわたしの手料理。
レイターから、「まずい」という感想を言われたことはない。
わたしに気を使って、というより、料理そのものに対して愛が深いからなのだということに気が付く。
あっと言う間にみんなで平らげてしまった。
続いて運ばれてきたお肉料理はソースが個性的だった。わたし好みの味。
「この味って、レイター作れる?」
「どれどれ」
レイターがソースを薬指につけてペロリと舐める。
「ふむふむ、ちょっと珍しいガリ星の香辛料を使ってんな。これなら通販で買えるから、今度作ってやるよ」
「レイターって、本当に料理が上手なのね」
チャムールの言葉が自分が褒められたようにうれしい。レイターがわたしの彼氏なのだと実感する。
ベルが言った。
「レイターは子どものころ、贅沢なものを食べて舌が肥えたんだっけ?」
五つ星のシェフ、ザブリートさんのお店へ行った時に聞いた話だ。
「知ってるかい? 贅沢なものを食って育ったアーサー坊ちゃんはレシピに塩適量、って書いてあると調理できなくなっちまうんだぜ。グラム単位で記せとか文句言ってやんの」
今、レイターは自分の話からアーサーさんの話へ話題をすりかえた。この人は自分の過去の話をしたがらない。
チャムールがアーサーさんを見る。
「そういえば、アーサーが作ったものを食べたことがないわ」
「私は料理ができないわけじゃない。塩の量も一度記憶すれば問題なく作れるさ」
「すごいぜ、こいつの料理、レシピの写真と寸分違わないモノが出てくる。イモの向きや角度まで同じ。バカだぜ」
アーサーさんは見たものすべてを記憶する高知能民族の末裔だ。
「手本を模倣することから物事の習得は始まるんだ」
「お得意の冗談も、もっといい手本を用意したほうがいいんじゃねぇの」
少年時代から一緒に戦地にいたというこの二人は、仲がいいのか悪いのか、今もよくわからない。
レイターが部屋の外へ出ていった、と思ったら、先ほどの魚介類盛り合わせの乗ったお皿を手に帰ってきた。
「ほれ、これが本家だ」
ちゃんと解凍されていた。
おいしかった。
でも、レイターの焼き目をつけた調理が感動的においしかったので、まあおいしい、というところか。
「失礼いたします」
しばらくすると、店の店長が、頭を下げながら入ってきた。
まだ若い。
「先ほどは申し訳ございませんでした。こちら当店自慢のデザートです。どうぞお召し上がりください」
頼んでいないスイーツが運ばれてきた。
「いやいや、悪いねぇ」
レイターが対応した。
さっきの解凍されていない盛り合わせのお詫びだ。
何だか申し訳ない気がした。
凍った魚をわたしは食べていない。レイターが手を加えておいしくなった料理を食べたし、その後、解凍されたちゃんとした盛り合わせもいただいた。
でも、向いのベルは喜んでいた。
「おいしそぉ。じゃあ、遠慮なくいただくわ」
水を差しては悪い。
ベルとレイターの耳元で、店長が囁くのが聞こえた。
「きょうのお代は、すべてこちらでもちますので、何とぞ、今後ともごひいきに」
幹事のベルが驚いた声を出した。
「え? いいの。ほんとに? ラッキー」
店長はそそくさと部屋の外へと出ていった。
変だ。絶対レイターが何かたくらんだに違いない。 (3)へ続く
裏話や雑談を掲載した公式ツイッターはこちら
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」