もう、そういう時代ではないのでは、などと、国内の残酷さが増えていくばかりの現状を生きていながら、国際的には突然の一方的な戦争などは起こらないのでは、と無知でぼんやりした楽観性を持っていた自分の愚かさを、2022年に知った。
そのことにあまりにも無力で、だから、どこかで考えたくないような思いになっていたら、2023年になって、今度はイスラエルとガザとの間で戦争が起こってしまった。それまで、歴史的なことについて書かれたものなどで、触れているはずのガザという名称について、初めて聞いたような気がしていたし、どこまで自分は無知なのだろうと思った、
そんな気持ちもあったせいか、行ってもいいのだろうか、というためらいを持ちながらも、パレスチナ出身の詩人や画家の作品が展示されている展覧会に行った。
その会場でこの本を知った。
『ホロコーストからガザへ パレスチナの政治経済学』 サラ・ロイ
両親がホロコーストの生き残り、という出自を持つ政治経済学の研究者が書いたホロコーストと、ガザのこと、というだけで、どこか気持ちの構えを勝手に持ってしまうし、同時に、現代においては、こうした人でなければ書けないようなことも多いように思った。
この書籍は、日本国内では、最初は2009年に出版された。同じ年に行われたサラ・ロイの来日講演をもとに編集されたから、すでに15年前のことになる。
だけど、どこまで理解したかは分からないのだけど、ここに書かれている状況は今でもほとんど変わらないこと、もしくは悪化したかもしれなくて、それが2023年からの戦闘に結びついているのだろう、といったことだけは少し理解できた気がした。
サラ・ロイは、ガザ地区の現状を、数字をあげて指摘している。
それは、イスラエルによって、そういう状況に置かれ続けているとサラ・ロイは認識している。
この文中の12月は、2008年のことになるが、この「監獄化したガザ地区」に閉じ込められている状況は、その後も変わっていないようだし、サラ・ロイによれば、一般的には、パレスチナとイスラエルの二国家共存へのはじまりと見なされている1993年のオスロ合意自体に問題があるという。
そのことから生じる問題にも、国際社会は無関心だったようだ。
その状況は、さらに悪化しているようだ。
だが、それは間違っていると、著者はさらに提言する。
この16年前というのは、オスロ合意のことだ。その前提から問い直すべきだという言説は、初めて聞いた気がする。
自分は何も知らない。それだけは分かった。
ホロコーストからイスラエル問題へ
サラ・ロイの両親は、ホロコーストの生き残りだった。それは、一言でまとめられるようなことではないのだけは、理解できる気がする。
そして、サラ・ロイの現在の姿勢について、母親のこうした言動↓が大きく影響を与えているのは推察ができるが、この母親のような行動を選択するのは、おそらくは少数派だと思われるし、同時に、とても貴重な行為ではあるのは、わかる。
サラ・ロイは、アメリカで生まれ、育った。そして、当然ながらイスラエル人との交流もある。
ガザと西岸
そして、サラ・ロイが初めてガザと西岸に訪れたのは、サラ本人が30歳の年だった。
サラ・ロイが目撃したのは、イスラエルで、イスラエル兵によって辱めを受ける年配のパレスチナ人の姿だった。
占領されている状態を、これだけむき出しに目撃することは稀なことだと思う。同時に、この状態がそれほど知られていないこと、さらには、あまり問題とされていないことは、やはり、自分も含めて恥ずべきことなのもわかる。占領しているのは、イスラエルだった。
無知である理由
本当は、関心がないとしても、特に新聞のようなさまざまな情報が載っているメディアに接するときは、こうしたイスラエル問題、パレスチナのこと、ガザ地区の出来事などに関しては目に触れていたはずだ。
だけど、知ろうとはしてこなかった。
それは、自分には知ったとしてもどうしようもないから、という無力感だけではなく、自分は不正義や犯罪に匹敵するような状況に対して、無関心であることで、実は、自分自身も加担しているのではないか。
そういった後ろめたさのような気持ちがあるから、より知ろうとしなくなる。そんな意識しない悪循環の中で、無知なままでいるのかもしれない。と、こうしたサラ・ロイの率直な指摘によって、思うようになった。
国際的に見たら、いわゆる西側諸国に属する人たちは、程度の差はあっても、こうしたアメリカのユダヤ人組織や、イスラエル人の意識と似ているのではないか、と感じる。
無関心であっても、そのことによって、結果として、その状況に加担していることになり、不正義であり犯罪的であると、自分自身のことを思いたくないはずだからだ。
そんな、人としては、ごく自然な思いだとしても、でも、そのことで、文字通り「非人道的」な状況が続いていて、その結果として、2023年の戦争につながっているとすれば、やはり知らないことは、恥ずかしいだけではなく、怖いことだと思った。
かなり重い読後感で、無知だった自分が言う資格もないとは思うのですが、やはり読むべき一冊なのは、間違いないと思います。
夏休みなどで、少し気持ちに余裕があるとき、いつもとは違う読書体験をしたい、といったときに、手をとってみることをおすすめします。
少なくとも、世界の見え方が、少し変わると思います。
(こちら↓は2009年版です)。
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