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「テレビについて」(56)ドラマ『この素晴らしき世界』----- チャンスをかたちにすること。

 主役を予定されていた俳優が事情によって降板し、その「代役」として主役になったのが、20年ぶりに主役を演じる俳優だった。

 それも、ドラマが、平凡な主婦が「女優」になりすます、というストーリーだから、偶然に偶然が重なって、どうなるのだろう?という視聴者としては上品とは言えない興味でドラマを見始めた。

 もし、「代役」のことがなかったら、見なかったと思う。

 すでに、少し前の話になってしまうけれど、9月で終わったドラマのことを振り返ってみたい。


『この素晴らしき世界』

 最初は、もし、当初の予定通りの俳優だったら、どうなっていたのだろう?と思って見ていたのだけど、途中から、そういうことは気にならなくなった。

 それは現代であれば、当然だけど、「なりすまし」だけがテーマになっていないし、そのことによって、徐々に、芸能界の「怖さ」(これも、事実は含まれていそうだけど、あくまでもフィクションとして)のようなものが描かれ始める。

 その中で堺正章が、得体の知れない「大物」を演じ、堺であれば、長年の芸能生活で本当にいろいろなことを知っているのだろうなという説得力も出ていて、やっぱり怖さが伝わってきた。
 そして、マキタスポーツが、いろいろと嫌いになりつつあって、だけど、離婚までは踏み切られないようで、その状況の中で少し変わっていく夫をリアルに演じていて、印象に残った。

 他にもベテランの俳優が、きちんと仕事をしているはずだから、視聴者としては安心して見られた部分と、芸能界で起こった、隠されていた犯罪を暴く、という目的に向かってストーリーは進み始め、結果的に、様々な紆余曲折があったけれど、ある程度以上、正しさが通ってドラマは終わった。

 途中から、少し世間知らずで、ややのんびりした感じもあるので、自分の正義感に従うことも含めて、当初の予定の俳優よりも、代役としての若村麻由美の方が、実は合っているのではないか、と思い始めて、さらにドラマが進むと、そのことすら忘れていくのだから、(生意気な言い方だけど)若村は完璧に演じていたのだと思う。

 ストーリーとしては、マネージャー役(付人)の円井わんの演技のおかげで、最後まで先が見えない展開になったこともあったし、フィクションとはいえ、こうして、隠蔽されていたようなことが表に出る、ということは、きちんと形になった方がいい。

 そうでなければ、社会を少しでも良くするイメージすら持てなくなるから、シンプルすぎる考えかもしれないけれど、なるべくリアルに戦いの過程を描いた上で、悪いことは悪いとなるべく裁かれるようなモデルケースは必要だと思うからだ。

言葉

 終盤、主婦が女優に扮したという設定で、自分の思いを述べるシーンがあるのだけど、ここまでせっかく「正しさ」を通す設定にしたのだから、ここでの言葉に、もっと、(俳優自身が)本当に思っているようなことも含めて語った方が良かったのではないか、とは思った。

 せっかく、今回、チャンスをきちんとモノにした(ちょっと下品な表現だけど)主演がいるのだから、そういう実感も含めた言葉にすれば、もっと力が持てるのに、と勝手な話だけど、ちょっと残念だった。

 それは、どちらの関係者にも失礼なことかもしれないけれど、言葉の力については、考えさせてくれるドラマがあったからだと思う。

打ち上げ

 最終回のあと、「特別編」という回があって、それは、ここまでのドラマがきちんと制作できた、というような「打ち上げ」に思えたけれど、そこでは、若村麻由美が、さらに「もう一役」を演じるというような場面まであったので、それは、ある種の「オマケ」のようなものに思えた。

 私よりも、もっと熱心に見ている視聴者にとっては、ファンサービスのようになったと思うけれど、ここのところ目にすることが多くなったテレビドラマの「特別編」は、ここまでの放送回のダイジェストのような意味合いだけでなく、見ているだけではわからない制作側の事情があって、もし、その裏事情を知ったら、ちょっと嫌な気持ちになってしまうかもしれない、などとも邪推していた。

 そんなことを考えながら見ているから、あまりいい視聴者ではないようにも思うけれど、突然の代役という事情につられて、いつもは見ないタイプのドラマを見られて、それで現代では、フィクションとはいっても、そして軽いつくりのコメディでも、何年も前と比べたら、リアリティを込めないと成立しないと改めて思えた。

 そして、20年ぶりにテレビのいわゆる「ゴールデンタイム」で主役を務めた若村麻由美は、俳優としての活動を続けてきたとはいえ、おそらく、その以前の経験が逆に足を引っ張るかもしれないほどの変化が、テレビドラマ界にもあったとも想像できるのに、放送回が進むほどに、周囲はずっとこのような場所で仕事をしてきた俳優ばかりの中で、そういう違和感も感じさせなかったから、若村麻由美は主役としてドラマを成立させたということなのだろう。

 長年、プロの俳優として舞台に立ち続けている人は、見ている側にはわからないような蓄積された、すごい力があるのだろうと思った。



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