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外食産業時間②『スープストックトーキョー』。広尾店。

 10年以上前の話で申し訳ないのですが、2009年10月23日のことです。

 この頃、いわゆる「ファーストフード」(リンクあり)もしくは、「外食産業」といわれるような飲食店に入店して、食事をしてから、店を出るまで、いつも、自分がただ食べているだけで、その時間にどんなことが見えたり、聞こえたりするのを覚えていないと思って、その時のことを記録しようと思いました。どこに発表したこともなかったので、同じ日付けの時に、読んでもらえたら、と思って、お伝えしようと思いました。「外食産業」のありかたが、すっかり変わってしまったコロナ禍の現在だと、また違うことを感じられるかも、とも思っています。


 不定期ですが、何回か、この「外食産業時間」は続けさせてもらう予定です。
 よろしくおねがいします。

 (当時の記録に、多少の加筆・修正をしています)。

2009年10月23日

 午後5時45分に店内に入る。そろそろ暗くなってきた。前も何回か来たけど、一番奥の壁際の向かい合わせの2人席で、誰もいなければ一人で座ると落ち着く場所は背広姿の中年男性2人が座っていて、しゃべっている。おそらく仕事の話だというのは、カウンターで注文している時から耳に入ってくる。

 あとは女性。それも若い人ばかりが3人いて、私がこういう街に慣れていないせいか、みんなオシャレに見える。注文をして、コーヒーは5分ほどかかりますけど、と言われて私は一番窓際の席に座っていると、3人の買い物帰りらしい荷物を持った3人の若い女性が入って来た。私は汗をかいたので、Tシャツを着替えるついでにトイレに行った。キレイなトイレだった。

 テーブルは5つ並んでいて、私が座っているイスは長く続いていて、テーブルに向かい合わせになるようにイスがある。通路をはさんで中年男性たちが座る席だけ独立した感じになっている。カウンターは、私から見て正面で、窓の外へ向かった席が4つ、やや高いイスで並んでいる。

窓の大きい店

 大きい窓ガラスの店だから、外から丸見えになる。すぐ外に歩道があって、クルマの通る道路がある。ひっきりなしに人が通る。今、迷彩の柄のキャップをかぶった体の大きい白人男性がこっちを見ながら歩き去り、目があった。犬を連れた女性。自転車に乗った人が通り過ぎていく。あっという間に視界から消えていくように思える。

 奥の席の背広の中年男性たちの会話の声は大きく、店内に響く。喫茶店でなく、カフェで流れるような音楽がやや大きめの音で流れるくらいだから、会話は比較的よく聞こえてくる。1000万。750万。金額のことばかりを話しているように思える。

カレーとスープセット

 注文していたカレーとスープセットが来た。牛挽肉ときのこのカレー。表の黒板に、書いてあったオニオンクリームポタージュ。かなり小さい紙コップに水が入っていて、紙ナプキンが1、2枚しいてある。1100円。スタンプを押してもらった。今日は2個。ここまででちょうど10個。半年で20個ためると、900円以下の商品をもらえる。

 それとは別に「冬のスープ生活」というポイントカードももらい、それはパンフレットの裏にシールで貼る。今日は2枚もらった。これは10月19日から12月31日までに30ポイントためると、何かもらえるみたいだ。小さいシールを紙にはった。スープはフワッと柔らかい味がする。カレーも刺激は少なく柔らかい印象の味で、体にいいような気がしてくる。

途切れない人の流れ

 時計を見ると午後5時57分。店内にまた一人若い女性が来た。入れ替わるように、お金の話が多かった、中年男性の2人が去って行く。トレーを持って、自分の食べた食器は下げていく。若い女性はカウンターの席に座った。グレーのコートは着たまま、明るい模様の布製のバッグを隣の席に置いた。スープセットを頼んだようだ。トレーの上に2つのスープのカップが並ぶ。

 外に着物の女性が歩いて行く。歩道を歩く人の速度がやたらと早く感じる。白人の小学生くらいの女の子が5〜6人で固まって通り過ぎる。ワイシャツ姿の若い男性。マフラーをまいた女性。いろいろな人種が行ったり来たりする。国籍も様々だと思う。ホントに人が途切れない。

タクシーの多さ

 道路は、有栖川公園の横を通り過ぎる上り坂が続いていてクルマが通り過ぎていき、向こう側の車線は、すぐそばが交差点だからクルマが止まっている事が多い。なんだかタクシーが多い気がする。さっきも、いわゆる高級マンションから出て来て、道路の歩道と車道の境目に立ち、すっと手を上げて乗り込む白人を見た。

 2ヶ月くらい前には、同じような動きでタクシーに乗り込んだ芸人さんを見た。道端で普通にタクシーを拾う人がいる街なんだ、と思ったが、ここでは日常だから珍しくないのだろう。だけど、マンションから出て来て、タクシーを待っている間の姿の気配がプライベードでもなく、仕事でもなく、リラックスと緊張の間の微妙な場所にいるようにも見え、歩道を歩いている人達とは違う空気を確かに出している気はした。

店内のスタッフと外の光景

 店の中には若い女性店員が2人だけかと思ったら、すりガラスの向こうのキッチンからもう一人来た。さらに、どこからかもう一人若い男性も加わった。黒いキャップをみんなかぶっている。男性店員と女性店員がファイルを見ながら何か話している。前も、この店で同じ光景を見た記憶がある。
 
 店は天井付近から床の高さくらいまでガラスばりだから、外からよく見える。窓際の私の席から歩道までは数十センチくらいしか距離がない。だけど、ガラスで仕切られているから、その分だけリラックスがあるような気がする。オープンカフェはそばにあって、通るたびにいつもイタリア人(推定)らしき人達がいて、すぐそばを通り過ぎても、人がいないようにふるまっているけれど、彼らは日本のお盆の時期にはほとんどいなかった。サクラかと思ったほどだけど、このあたりに住んでいるのかもしれない。どちらにしても、自分はすぐそばを人が通り過ぎる場所でリラックスしてコーヒーを飲んでしゃべる、という事はずっと出来そうもない。

 窓の外に歩道、車道があって、向こう側の歩道も見える。自転車が何十台も歩道のすみに置いてあるから、1台ずつゆとりを持って横並びに並んでいるように見える。もう少し広い場所にぎっしりとある自転車の方が見慣れているから、まるで自転車をディスプレーしているようにも見えてくる。あまり縁がないけれど、高くてオシャレな洋服屋さんがすきまがたくさんある、事を思い出すのは単にここが広尾のせいだと思う。

 ケイタイを見ながら若い人が一人通り過ぎ、そのあとに高齢者が歩いていき、外国人男性が横に並んでいるかと思ったら、次の路地で分かれて歩くから、全くの他人のようだった。向こうから白人の男性が歩いて来て、去る。違う方向から3人がやってきて、窓のすぐ外で交差するようにすれ違い、それぞれの目的の方へ歩いていく。それほど広い歩道でもないのに、人の歩く速度が早いのに、スムーズにすれ違ったり、追い抜いたりしている。

外国人の多い街

 午後6時8分。
 中年女性が一人店内に入って来て、スープを持ち帰る。その間は、1〜2分くらいで素早くいなくなった、という印象。

 窓の外では地図を見て立ち止まっている女性がいる。
 広尾の駅の方への交差点への道にタクシーが4台連なって止まっている。1台おいて、またタクシーが止まる。逆の車線にはタクシーが2台通り過ぎる。

 午後6時9分。
 かなり体の大きい白人女性が店内に入ってきた。英語の会話が聞こえてくる。
 外には一人男性。親子連れ。自転車。おそらく人種も国籍もバラバラだと思われる4人(親子連れは別として)が公園の方へ通り過ぎていった。その方向から頭に羽をさしたインディアン(?)の格好をした白人の女の子2人が歩いてくる。サングラスをかけた女性がタクシーを止めた。

 お客の、大柄な白人女性は、ポイントカードを作りますか?という会話の後に、トレーを持ってカウンターの席に座った。

 今、店内には5人の客がいる。外にバスとタクシーが上り坂の方へ走っていく。女性の若い店員が私服になって、カウンターの中の人にあいさつして、帰っていった。

 窓の外は、小学生の女の子と、白人女性と日本人の男女のカップル(といってもビジネスで二人で歩いているだけみたいだった)が駅の方へ歩き去って行った。自転車が2台通る。サングラスとジーパンの女性。親子3人。2人の日本人男性。次々と、上り坂の方へ向かって行った。

混んできた店内

 午後6時15分。
 レジ袋を持った女性二人が店内に入って来た。一瞬、別々の人かと思うくらいに、それぞれが別に注文していた。パンかゴハン。お席までお持ちします。そんな言葉が聞こえてくる。その後に声をかわすでもなく、もう一人の女性が注文し、そして、先に奥の独立したテーブル席に座っていた一人と一緒に、向かい合わせで座った。カウンターに座った白人女性はスープの途中で電車の路線図を見ている。

 その3分後。
 3人の女性が来た。みんな若く、ポニーテールだった。その3人がまとめて座れる席がない。なんとなく、店内の人間が周りを見て、誰かが席を空けなくてはいけないのでは、という空気が流れ始めた頃、私から2人となりのキレイな色のマフラーをまいた女性が立ち上がって帰って行き、その席に3人が座る。

 また一人、ロングへヤーで水玉のビニールの袋を持った若い女性。さらに、もう一人、きりっとした顔の女性が入ってくる。これで、今、店内は11人の客がいる。

 けっこう人が増えた。誰かが帰らないと相席みたいになるだろうし、そろそろ帰らないといけないような空気がまた漂った。何度かこの店に来たけれど、時間が違うせいか、こんなに人がいたのは初めてだった。男は私一人だけだし、店内にはオシャレなカフェに流れるような音楽が流れ続けている。

 外には、マクドナルドの飲み物をストローで飲み、笑いながら通り過ぎる2人の若い女性が通り過ぎ、そのあと、自転車に乗った白人女性が坂道を登って行く。

動きの多い店内

 ロングへヤーの女性が私の隣に座り、スタンプを貼っている。香水の香りがけっこう強く漂う。帰ろうかと思った時に、カウンターの若いコートを来た若い女性が立ち上がった。これで、みんなが相席でなく、座れる。変な事だけど、なんだか申しわけないような気がしてくるのは、店に入ってから30分が過ぎ、カレーもスープも食べて飲み終わり、あとはもう残りわずかになったコーヒーを飲むだけ、という状況になっているせいだろう。その人が帰らなければ、私が帰ろうと思っていた。

 きりっとした顔の女性はカウンター席に座った。横をちらっと見たら、一人おいた若い女性はまだカレーを食べ終えていなかった。
 カウンターのイスの下の部分には網があって、そこに荷物を置いておけるのを、新しく来た女性が、すっとそこにバッグを置くのを見て、改めて思い出した。

 隣に座った女性は、少したって、ケイタイをかけ始めた。その声と、ポニーテールの3人組の会話と、奥のテーブルの2人と、注文の声が店内に響く。店内にアラームの音も響く。何かしらの料理が出来上がった合図だろうと思う。客はほぼ反応がない。

 また若い女性が入ってきて、カウンターに座り、自然にイスの下の方のあみのところにバッグを置く。2人が、横並びに、隣り合うようなポジションになった。

 それから3分くらいたって、白人女性が荷物をしまい始めて、立ち上がり帰って行く。あとから来て、カウンターに座っていた女性が立ち上がって、その空いたカウンターのすみの席に移動したから、両端に二人がいる形になった。

 白いツエをついた男性が交差点の方面へ歩いていく。すれ違う人達は早足で、外はもうすっかり暗い。入る頃には暗くなったと思ったけれど、それと比べても明らかに、さらに暗くなっていた。

スタンプカード

 手元のポイントカードは3ヶ月で10個たまった。半年で20個だから、ちょうどいいペースのはずだった。外にはもう何十人が通ったのだろう。ほとんど人が途絶えることがない。

 目の前にタクシーが止まり、白人男性と日本人女性が降りてきた。カウンターのすみに座り直した女性に電話がかかってきた。隣の女性はずっと携帯で話している。「とりあえず、お願いしていい?」という言葉だけ、固まりみたいに聞こえてきた。

 午後6時34分。また若い女性が入ってきた。私も、もう帰りしたくを始めた。6時36分に立ち上がったら、一人おいた女性も立ち上がった。

 いろいろな国の人が当然のようにいる街だと思った。目的地へ行こうと道を登って行ったら、上からかなりのスピードの自転車が2台続いた。どちらも女性が運転していた。気持ちいい、というよりも、緊張感の方が強いような顔をしていたように見えた。



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