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あの時、ジェットコースターに乗っていれば、男女交際に関する自分の記憶は、大きく違っていたのかもしれない。

 高校生の頃、同じ市内の遊園地に、新しいジェットコースターが出来た。 
 それは、日本で初めて、飛行機の宙返りのように、一回転し、途中で、逆さまになる、というものだった。

 そんなものに、お金を払って乗る人間の気がしれないと秘かに思っていた。
 その遊園地の名前は、和訳すると「夢の国」だった。

高校生活

 高校を選択する時に、自分の中で決めていたルールがあった。
 学費が安いので、公立であること。男女共学であること。出来たら、家から近いこと。
 その三つの条件が、比較的揃った学校へ、合格することができて、毎日、バスに乗っていた。
 
 バスは予定通りに来なかったり、来ても、満員で、乗れないことも少なくなく、そんなこともあって遅刻が多くなった。朝のホームルームは無意味ではないか、と思っていたから、余計に、遅刻しがちになる。

 授業中は、やたらと眠くて、席替えの時は、なるべく、一番後ろの廊下側の席をキープし、授業中は、両手を下にして、頭を乗せて、寝ていた。3時間目から寝始めて、4時間目との間の5分の休憩時間も含めて、ずっと寝ていて、気がついたら、昼休みになっていたこともあった。

 しょうもない高校生だった。

 放課後は、起きて、サッカーの練習をしていた。後から考えたら、練習への集中力も工夫も量も足りてなかった。

 そんな毎日だった。

誘われる

 そんな高校生活を送っている頃に、「夢の国」に新しいジェットコースターが出来た。その写真付きのチラシのようなものを、クラスの誰かが持ってきて、そして、「一緒に行かない?」という会話も教室の向こう側から、聞こえてきた。


 その遊園地には幼稚園の頃に行ったことがある。
 地元の人間だったら遠足で、そんな経験をしている人間も少なくなかった。そして、覚えているのは「潜水艦」のようなものに乗った「海の旅」みたいなものや、ごく短編の映画のような映像だった。

 その遊園地は、「みたいな」とか「ような」といった言葉使いが多くなってしまう、ちょっと「作り物感」のあふれる場所だった。そういうのんびりしたアトラクションは退屈しながらも、嫌いではなかったが、その頃から、ジェットコースター的な乗り物は苦手だったと思う。

 もう二度と行く機会もないと思っていた「夢の国」が、高校生になってから、新しいジェットコースターができることで、また身近になっていた。

 クラスメイトの「女子」は、私にも、ごく普通に「一緒に行かない?みんなも行くよ」みたいな声をかけてくれた。

 誘われたこと自体は、たぶん、うれしかったと思う。

 クラスの男女で、休みの日に私服を着て、どこかへ遊びに出かける。

 そんないかにも「青春感」のあることを、あまりした記憶がない。
 平凡なサッカー部ではあったのだけど、休みの日は練習試合だったり、練習だったり、試合だったりすることも少なくなく、だから、日曜日は、そんなに時間がなかった。

 だけど、この時のことを覚えているのは、その「夢の国」へ行く日が、予定が、何もない日だったからだと、思う。

 ちょっと迷った。

分岐点

 そんなに女子に慣れていない男子高校生にありがちな自意識過剰の照れもあった。
 それに、ジェットコースターは、今も怖かった。だけど、そのことを言えない見栄もある。

 クラスメイトの男女何人かで遊園地に遊びに行く。
 想像すると、楽しそうだったけれど、そんなややこしい思いもあって、気がついたら、せっかく誘ってくれたのに、断っていた。

 何かの拍子に、ふと思うことがある。

 実は、生きていると、いろいろな分岐点がさりげなくあって、どちらを選ぶかで、その後の人生が大きく変わってくる。

 この時、せっかく誘ってくれたのだから、素直に出かけて、ジェットコースターにも乗って、怖かったら、怖い顔をして、「怖かった」と正直に言って、もし、それで気分が悪くなったとしても、それを告げて、周囲に迷惑にならないように、休んで、体調を回復させる。

 そんなことが出来たとしたら、妄想に過ぎないのは分かっていても、一緒に行ったクラスメイトの女子とも仲良くなって、すぐに付き合うとか、そういうことはなくても、その後の男女交際に関する自分の記憶が、もっと豊かになっていたのかもしれない。

 いい歳をして、恥ずかしいし、あまり後悔ということもしないのだけど、そんなことを思うことがある。それは、もしかしたら、この前、同じ高校の後輩、と名乗る人が家を訪ねてきてくれたことがあったせいで、変な記憶のスイッチが押されてしまったせいかもしれない。



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