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「場所に記憶が宿ること」について。

ご近所の方に自転車をいただいた。

自転車の譲渡証明書

 すぐに乗ろうと思ったのだけど、その自転車の防犯登録はそのままだから、もしも、乗っていて、職務質問などをされ(昔された)、「〇〇さんにもらったんです」といったようなことを言うと、その場合には、たぶん電話など連絡がいってしまって、その時に、不在だったりしたら、すごく疑われそうだし、在宅の場合は、迷惑をかけてしまうと気がついたのは、自転車をいただいてから、しばらくたってからだった。

 これ、どうすればいいんだろうと思って、探した。

 譲渡証明書というのがあって、それを、いただいた方に書いてもらわなくてはいけないことを知り、妻が頼んで、それは書いてもらった。ハンコも押してもらう。あとは、防犯登録所に行って、手続きをしなくてはいけない、と思うと、ここまでも気持ち的には面倒くさくなっていて、その上、防犯登録所という名前に少々ビビって、調べるのも、ちょっと時間をおいてしまって、そのうちに、時間がたってしまった。

 それでもいい加減、行かないと、と思って、妻と相談をして、1ヶ月くらいたって、やっと行くことになった。防犯登録所は、近所のホームセンターの自転車売り場にあるみたいだった。妻は、そのことが、ずっと気になっていた、ということなので、申し訳ないと思いながらも、それでも行けることになって、こちらもホッとした。

介護をしていた時の記憶

 家を出て、目の前に伸びる細い路地がある。そこは、かなり前は水路で、今は道路なのに、書類上は、今も何十年も前の「水路」のままだったから、それで、その路地の両隣のマンションは、普通よりももっとその路地ぎりぎりに建物が建っていて、それもあって、建設反対運動では、よりもめた部分もあった(リンクあり)。

 2棟もマンションが建ってしまったのだから、圧倒的に日当たりが悪くなってしまったが、それでも路地を通る時に、見上げると、その2棟は風景の一部には感じるようにはなった。

 その路地を通り過ぎると、広めの道に出る。ちょっとだけ左側に曲がって、また直進する。私は防犯登録をする自転車をひいている。

 この道路は、義母が生きていて、介護をしている時は、ここから200メートルくらい先の施設に連れて行って、デイサービスやショートステイに向かう時に通る道だった。


「思い出すね。
 ここを二人で、歩くの、久しぶりだよね」。

 妻が、そんな言葉をかけてくれる。

 義母が亡くなるまでは、この道を妻と二人で、いろいろな荷物と、義母を車イスに乗せて、施設に向かう時だけ、通るような道だった。

 確かに、2年前に介護が終わってから、この道を二人で歩いたことはなかった、と思う。
 そして、一人で、歩いた時は感じなかったが、二人で歩くと、施設に義母を連れて行った時の感覚を思い出した。

 それは、毎日、休みなく介護をしていて、私は夜間担当だったから午前5時半頃に眠る生活が続いていて、だから、昼ごろ起きるという、なんだか後ろめたい昼夜逆転の生活が、10年近くは続いていたので、何しろ苦手なのが、午前中に起きることだった。

 ショートステイといって、いつも4泊5日で、義母を預かってもらう時は、午前11時頃には入所、ということになっていたから、いつもよりは早起きをして、したくをして、出かけるから、ちょっとぼんやりしていた。

 ショートステイは、施設についてから、持ち物のほぼ全ての確認と、あとは義母のいる個室を、なるべく快適に、あとは部屋のポータブルトイレの位置を、危険が少ないように調整して、けっこう時間もかかるから、向かう時はぼんやりしながらも、少し緊張もしていた。それでも、今日から何日かは、義母を預けるから、何時に寝てもよくなる、と思いながら、数日ではリズムを変えることは結局無理だった。だけど、自分で寝る時間が選択ができると思うだけで、ちょっと気持ちが楽にはなった。

 そんな感じも、ほんの少しだけ思い出して、同時に、気持ちと体が少し重くなった、
 それは、体の記憶も蘇った、ということなのだと思う。

「場所に記憶が宿ること」について

 ホームセンターに行って、自転車の売り場に行った。

 新しい自転車が並んでいて、どこだろうと思って、その場所を通り過ぎて、ホームセンターの店内に入るあたりに、自転車に対して黙々と作業をしている人たちがいた。

 その人たちが、自転車販売のスタッフで修理などもやっていたみたいだった。その中の実直そうな一人の男性に声をかけて、「防犯登録のことなんですけど」と声をかけ、譲渡証明書を見せたら、こちらへ、と促され、屋台のようなカウンターに行き、そこで、妻が、ご近所の方から譲られたので、いろいろと書いて、手続きをして、私も、「家族も乗れますか?」と聞いたら、「はい大丈夫です」と言われ、それで、やっぱり安心はした。

 その手続きは滞りなくすみ、妻は持ってきた保険証も見せて、それから、新しく防犯シールを貼ってもらった。その時に、自転車の前のカゴに、何かの古い葉っぱが数枚入っているのに気づき、とってくればよかった、と思った。

 いろいろと買わなくちゃ、と思っていたものを、何点か買って、それなりにお金もかかって、だけど、妻は、気になっていたものが買えたので、よかった、と喜んでくれた。


 それから、家に戻る。

 さっきの、思い出した、という話をして、そういえば、道路のどのへんを歩いていて、思い出したのかを尋ねたら、

えーとね」ということで、妻が示したのは私が思っていたよりも、はるかに家に近いところだった。

 あ、こんなにそばなんだ。

そうだね。ほら、最初は、デイサービスも慣れてなかったし、支度もやっとできて、それに、かあさんも、嫌がっていたし、このくらいの時に、やっと出かけられた気持ちになれたのかな」。

 ショートステイは、二人で出かけていたけど、週に3回のデイサービスは、妻が送ってくれていた。

 そして、どのあたりかを細かく聞いて、このへんかな、と妻が言ったのは、最初に示したところよりも、家から出て、細い路地を出て、わりとすぐの場所だった。

 


 一度、家に帰って、カメラを持って、もう一度、その場所に行こうと思った。
 家を出ると、すぐに、すれ違った高校生が、ストリートビューの撮影ではないか、と言っていた人が、機械を持って、確かに何かの撮影はしているようだった。その人が通り過ぎるのを待って、路地を歩き始める。

 路地は50メートルもないと思うが、歩きながら、その路地が終わる頃の、空の広がりを見ると、さっきよりも、もっとショートステイに行く時の感覚が蘇ってきた。そして、その路地を出て、妻が、何十歩単位で、このへんかな、という場所にきたら、確かに、その時の感覚の印象が、より鮮明にわきあがってきたのが、分かった。

 本当に、場所に記憶が宿っているのだと思えた。



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