切り倒す日に知った「シュロの歴史」。
庭に柿の木と、シュロの木が植わっている。
どちらも、少し油断すると、伸びてしまう。
柿の木は、渋柿とはいえ、実がなることもあり、比較的、伐採することが多く、だから、なんとか伸び切らずに済んでいる(とは言っても、今年は、上に伸びすぎたから、切らなくてはいけなくて、今から、ちょっとプレッシャーになっているが)
土の中から、どれだけの水分や養分を吸い上げ、太陽を浴びて、どれだけの光合成をしているのだろうと、ちょっと感心もし、少し怖くもある。
シュロの木
どうやら、どちらの木もかなりの歴史があるらしく、ずっと住んでいる妻に聞いても、はっきりと分からないらしい。
とは言っても、とにかく伸びる。
特にシュロの木は、モサモサとした毛みたいなものに覆われているから、油断をすると、何かの虫がわくのではないか、と恐れたり、その花にはハチが来たり、あとは、とにかく最初は、それほどでもなかったのに、とにかく地道に上に伸びていった。
気がついたら、2階の屋根に届くくらいになってしまった。
シュロの木は、形からいえば、「頭でっかち」で、上がとても重そうに見え、ここ数年は、強力な台風が来ることが多くなったから、風で揺れると、倒れるのではないか。
もし、倒れたら、塀か、家なら、まだしも、お隣さんに倒れて、何かを壊したら、大変ではないか。
妻の心配は、かなりふくらんでいた。
それは知っていたけれど、その不安の大きさまで、きちんと分かっていなかった。
依頼
ありがたいことに以前、柿の木をかなり切ってもらったときに依頼した親戚に、この話をしたら、切り倒すことを考えてくれるという話になった。
どのくらいの高さか知りたいというので、家から少し離れた場所から写真を撮り、送ると、なんとかできそうだということになり、正式に依頼をすることになった。
とてもありがたく、それが決まっただけで、妻は、本当にホッとした、という話を聞いて、そこまで不安が大きかったことを初めて知り、それを知らなかったことが申し訳ないと思った。
それから、コロナ禍になった。
その依頼の遂行は、当然だけど、先延ばしになった。
作業当日
それが、2021年の秋が深まる頃、幸いにもコロナの感染状況が落ち着いていたので、連絡があり、作業に来てくれるという話になった。
とてもありがたい。
ただ、その作業の日に、私は仕事で出かけることになっていたので、妻にお願いをして、微妙に気に掛かりながら、出かけて、仕事が終わり、夕方に電話をしたら、妻は「切ってもらったよ。とてもホッとした」と、すごく明るい声で話をしていた。
その声の響きに、これまで本当に気にしていたんだ、と改めて感じた。
切り倒す途中に、難しい作業や、思った以上に重くて硬いため、危険な場面もあったらしいが、なんとか切り倒してくれ、さらには、その枝や幹も小さく切ってくれたらしい。
とても、ありがたかった。
家に戻る。
シュロの木はなかった。空が少し広くなっていた。
シュロの歴史
作業中に、ご近所の方がいらっしゃった、という。
その方の庭でも、ミカンの木を切ったらしく、その際のミカンをおすそ分けするために来てくれ、そのときに、シュロの話になった。
昔、妻の父親が勤める会社に、シュロの木があった。
その幹から、わき芽が出ていて、それを切り取って、持って帰ってきた人が二人いて、そのうちの一人が、妻のお父さんだった。
それを庭に植えて、育てて、そして伸びていった。
もう何十年も前の話のようだ。
もう一人の人も、家の庭に植えたらしいが、それは、もう残っていないらしい。
最初にシュロの木があった会社は、今はそこにないから、当然、シュロの木も残っていないはずだ。この家の庭にあるシュロだけが、その「シュロの歴史」を引き継いでいた、ということが分かった。
妻も、昔のことを知っているご近所の方に聞いて、初めて知ったことのようだった。
その歴史を知った日に、庭の「シュロの歴史」が終わったのは、不思議な気持ちがした。
切り株は、15センチくらいの直径だった。さらに下部の直径は、約30センチだった。この部分だけでも、不思議な構造をしている木だと思った。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。
記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。