見出し画像

フットサルの季節。

 昔は、フットサルという言葉はそれほど一般的ではなかったし、同時にサッカーというスポーツが、Jリーグが始まる前は、それほどメジャーな競技でもなかった。

 フットサルという用語が、大勢の人に知られるようになった頃、日本でもサッカーはメジャースポーツの仲間入りをした感触がある。

 同時に、あちこちにフットサル場ができて、もちろん本格的に取り組んだら、フルコートよりも運動量が多い可能性もあるのは予測もできるのだけど、フットサルが普及したことによって、年齢を重ねても、ボールを蹴る機会が得られるようになったのではないか。

 そんな思いもあるので、今の環境は、やっぱり、ちょっとうれしい。


サッカー部OB

 ごく平凡なレベルだけど、大学でもサッカー部にいた。

 体育会というには、上下関係も厳しくなく、同時に実績もそれほどではなかった。

 大学を卒業してから20年ほどが経って、その頃は、介護のために仕事をやめて、何も先が見えないころだった。サッカー部のOBチームがあったので、30になっても40になってもサッカーを続けている人もいたのだけど、何しろ、人とも会わなくなっていた。その頃、たまたま割と近くに住んでいたサッカー部の後輩と会う機会があった。

 その時は、一緒に飲んだ、(といっても私はアルコールが飲めなくなっていたので、ウーロン茶だったけど)だけで、ふと口にしていた、今度一緒にボール蹴りましょうよ、といった言葉は、社交辞令だと思っていたのだけれど、それが、フットサルで実現することになった。

 約20年ぶりのプレーは、本当に気持ちが良かった。自分がまだ、よたよたとしながらも、ボールを蹴れることが意外だった。

 それから、10年以上が経つのだけど、そのサッカー部の集まりは続いている。さらに、そのうち、今度は、2期上の先輩たちの集まりにも参加するようになった。

 だから、暑い時と、寒い時期。私にとっては年に2回が、「フットサルの季節」になった。

 ただ、とても個人的な事情なのだけど、このところ、コロナ禍のため、重症化リスクのある家族もいるし、とにかく感染を防ぎたいと思い、外出を控え、そして人が多いところに行くのを避け、土曜日に仕事のために出かけるようになっていた。

 フットサルの集まりは、夏も冬も土曜日開催が定例になっていたため、夕方以降の飲み会だけに出席するようにしていたけれど、フットサルの開始が早いと、それにつれて飲み会も早くなり、そこにも間に合わないことも多くなっていた。

 さらには、コロナ禍のために、この集まり自体も1〜2年は行われないこともあったので、フットサルをする機会が減っていた。若い時の1〜2年も、とても貴重なものでもあるのだけど、歳をとるほどに、その年月も大事になってくるし、普段は筋トレなどの運動は細々と続けているのだけど、いつまでプレーできるかどうかわからないから、やっぱり少しでもボールを蹴る機会があったら、やってみたい気持ちになっていた。

 それで、土曜日の仕事の休みを思い切ってとって、それで、何年かぶりにフットサルと、飲み会の両方に参加することにした。

 休むことへの後ろめたさはあったのだけど、やっぱり、ちょっと楽しみにもなっていた。

 当日の天気はやっぱり心配だった。

待ち合わせ

 その日は、サッカー部の同期一人と、一期上の先輩と、百貨店の大きな時計の下で待ち合わせをした。

 冬なので寒いかもと思って、2時間ほどフットサルをする予定だから、途中で休みも入るだろうし、それで上に着るためのジャージなども含めてカバンに詰めたら、かなりパンパンになって、重くなった。

 大きい荷物を持って、だ待ち合わせの場所に着いたら、まだ二人とも来ていなかった。

 だから、本を読んで、少し経ったら、気がついたら二人揃って、立っていた。

 いつからいたんだ、という話になったのだけど、どうやら、私が見落としていたようだった。

 そのまま、その百貨店の屋上に行った。

 天気がよかった。青空がきれいに見えて、それだけで、もう気持ちがよかった。

後輩

 今日の参加者は20人くらい。

 最も若くても、40代後半で、最も年齢が高いのは、それより10歳以上で、全体としては、かなり年齢の高い集まりなのは間違いないし、私も高い年齢層に属している。

 同じ大学のサッカー部といっても、5年も10年も違うと、ほぼ知らない人に近い。それに、自分は、卒業後にOBチームに参加していないせいもあって、余計に知っている顔が少なかった。

 若い時は、1年や2年の違いがかなり大きいのだけど、中年になってから初めて会うような感じだと、すでに年齢の上下もわからなくなっているし、私などよりも立派な社会人だと、上に見えることもあった。

 そういう戸惑いも最初はあったのだけど、この冬のフットサルの集まりが10年以上続いて、それは、2期下の後輩がマメに企画や連絡を続けてくれていて、それにはとてもありがたい気持ちはあって、その年月の中で、最初は知らない人に見えていた、かなり歳下の後輩も、後輩というよりは、同じサッカー部にいた仲間のような気持ちになっていた。

 それは一方的な思いかもしれないが、何しろ楽しい時間になっていた。

 以前は、フットサルや、ソサイチの大会にお金を出して参加をして、それは勝敗に対して、真剣になれる楽しさもあったのだけど、こちらのチームは何しろ年齢層が高く、時々、若い相手がプレー中に気を遣っているような気がしたので、そのうちに、自然と、そういうことはどうなのだろう、という話になって、自分たちだけの集まりになった。

 その代わりというわけではないのだろうけれど、同時に、「オーバー50」のリーグ戦などにも参戦するようになって、そこに私は参加できていないけれど、そこでプレーしている人たちは、一緒にプレーをしていて、どうしてそんなに動けるのだろう、というような驚きもある。

 それでも、少しでも話を聞くと、仕事をしながら、毎日のように職場の昼休みに走ったり、フルマラソンに参加したりと、信じられないような努力を長い年月続けていたりもする。

 そんな話を聞くと、自分も少しは頑張らないと、と思って、筋トレは続けているが、フットサルの季節が近づくと、少し走ったりして、そして、プレーのあとは、もっと日常的に走らないと、の繰り返しになっている。

 ただ、走り続けるのは、なかなか難しい。

ウォーミングアップ

 そして、私にとっての、4年ぶりのフットサルは、デパートの屋上で、自分としては初めて来た場所で、ネットに囲われたところだったけれど、人工芝が比較的、柔らかそうだった。

 まだ予約の時間より前だったから、その施設のロッカールームで着替えて、それから外へ出て、屋上で少しずつ体を動かす。体をあたためたり、ほぐしたり、ストレッチをしたりしないと、急に動いたら、ケガをするし、最近、少しひねったせいか、ややヒザが痛い時もあったのだけど、それはあまり安静にするよりも、スクワットは続けた方がいいのではないかと思っているような状態だった。

 それでも、当然、不安はあった。

 真剣にサッカーに取り組むリーグ戦などに参加している人間の方が場合によってはケガをすることもあって、大きくて丈夫そうなサポーターをヒザに当てる後輩を見て「大丈夫?」と声をかけると、〝靭帯を伸ばしてしまって---でも、気をつけます〟といった学生時代のようなことを言っていて、大変そうだけど、なんだか感心もする。

 そういえば、同期の人間が、去年、同じ場所で腕を骨折したし、何年か前は別の場所だけど、わざわざ遠くから来てくれた3期下の後輩が、鎖骨を折った事もあった。彼らは、まだかなり動けて、ドリブルなどの個人技にも自信があり、やる気があることが共通していた。

 腕を骨折した同期は、今は、治っているらしいが、新幹線で来るような場所だし、今年は都合で来られないのだけど、そこまでプレーに集中し、ある意味で戦えることはすごいと思うが、自分にとっては、毎回、ケガをしないことも一つの目標にはなっている。

 最近の話や、昔のことや、サッカーに関する話をしながら、ウォーミングアップの時間は続き、そのうちに時間になって、フットサル場が空いて、そこに入ってボールを蹴ったりできるようになった。

 いつも、OBチームや、50歳以上のリーグ戦などに出ている人間は、スッと集まってボールを回し始めるけれど、そこにはなかなか入れずに、まずはゆっくり走ったり、体を動かして、ケガをしないように、と思いながら、少し体が温まってきた。

フットサル

 午後12時から、午後2時まで。

 フットサル場の予約は、その2時間で、私のように、今回の集まりでも高い年齢の人間にとっては、始まる前から長く感じる。

 それでも、今回も、このフットサルを企画してもらった2期下の後半が、年齢別。大学時代の文系か理系。ディフェンダーか、オフェンスか。そうした2分法を、次々と提案してくれて、一回のプレー8分で、フットサルの時間は過ぎていった。

 始まって、少し動いて、大丈夫だと思うと、さらにもう少しスピードを恐る恐るあげる。

 だけど、私はずっとディフェンダーをしていたので、相手に合わせるとなると、まだ動ける50代についていくとなると、かなりきつい。それでも、どこかでなんとか止めたい気持ちにもなるから、ちょっと頑張ってしまう。

 ただ、それで去年も同期が腕を骨折したので、その事を思い出し、無理だと思う前に、ピッチの外で見守る誰かにビブスを渡して交代する。

 最近、少し右ヒザに痛みがあって、少し心配だったけれど、大丈夫だったので、気持ちが軽くなった。そのせいか、ちょっと頑張って、珍しく接触プレーになり、頭同士をぶつけて、転倒した時は、ヒヤッとしたけれど、それも無事ですんだ。

 フットサルをプレーして、外に出た時は、何か本当にたわいのない話を、久しぶりにあった人たちとも話して、時間は穏やかに流れた。

 途中からやっぱり2時間は長く、もうフットサルをしなくてもいいかも、という満腹感みたいなものを感じながらも、それでも、もう少し蹴りたいかも、といった気持ちもあって、午後2時になった。

 今年は、誰もケガもしないで、無事で、よかった。

 2019年以来、4年ぶりにフットサルができて、ボールを蹴ることができて、本当に良かった。

 それは間違いなく幸福感だったと思う。

飲み会

 それから、その屋上のクラブハウスのような場所のロッカールームに行き、2つしかないシャワーをかわりばんこに使い、さっぱりしながらも、自分がタオルを忘れた事に気づき、今回、使わずに済んだ着替えの衣服を使って、頭も体もふいた。

 なんとかなるものだった。
 隣では、そんなに小さいタオルで…というサイズのもので、器用に全身をふいている人間がいたし、そういう慣れている手際の良さも、なんだか感心した。

 そこから、予約している店まで少し歩いた。

 20人弱の人数が入れる場所で、土曜日だから、なかなか開いてなかったはずだけど、それでもきっちりと準備ができていたが、少し歩いた。10分くらいは歩いていて、そこは昔は知っている街のはずだったけれど、歩いているうちに、どこにいるか分からないくらいになる頃、店に着いた。

 そこで、2時間ほどの時間がたった。

 私はウーロン茶だけを飲み続けていたが、学生時代は飲めたので、いつもの「大人の飲み会」とは違って、それでもアルコールをすすめられる場面もあって、やっぱり楽しかった。

 なんだか、中年の男性が集まって、楽しそうにしていて、その中で、1つや2つの年齢差なんて分からないし、5つや10歳くらいの違いも、40代から50代を超えたら、見分けがつかなくなるはずだ。

 それでも、一応は、先輩と後半があって、体育会とはいっても、かなりゆるい上下関係であっても、今も先輩は先輩だったりするのが、ここまで続くとなんだか面白い。
 さらには、もう30年ほど前の学生時代のサッカーのプレーに関することを、昨日のことのように語っている人も少なくなくて、それは、もうなつかしいというよりも、何度も聞いているから、伝統芸能のように思えてくる。

 飲み放題を頼んでいて、まだ少し残っているけれど、もうすぐ飲んでしまうから、という理由で、次のお酒を頼もうとすると、店員さんよっては、まだ飲み干してないので、と言われて、なんだか微妙にもめたり、それをとりなしたり、あやまったりをしていたりもする。

 その時間も、店員さんには申し訳ないと思いつつも、飲み会の席の感じがして、やっぱり楽しかった。

言葉

 1軒目が時間になって、次へ行く事になった。

 そこにいるほとんどが参加する事になったけれど、考えたら、まだ午後6時くらいだった。スタートが早かったせいもあるけれど、寒い季節は日が暮れるのも早いので、暗くなっているから、もっと夜に感じる。

 そこから、同期の人間が、自分が知っているところがあるから、という発言によって、またけっこう歩いて、だけど、その10数人は入れなくて、夜の街を、無駄にさらに少しさまよったけれど、そういうことも普段はないから、なんだか楽しかった。

 そういう時間の中で、私の一期上の先輩が、「大学でサッカー続けて、良かった」と笑顔が入った真顔で言った。

 アルコールが入っていたと思うけれど、平凡なサッカー部で、強豪には程遠いとはいっても、一応は体育会でもあったから、大学へ入学して、そこに入るには勇気がいるはずで、それでもそこで続けたから、今日のようなこともあるから、という意味合いのようだった。

 私も全くの同感だった。

 私も体力が元々なくて、サッカーも上手いわけでもない。血圧が最大で100ないことも、大学に入った頃にわかったから、時々、貧血を起こすこともあった。それでも、続けて、卒業後、ずっとやっていなくて、20年ほど経ってから、また始められたのも、大学でプレーをしていたからだった。

 サッカーをすること自体が、歳をとって楽しくなった。

 これからは、無理をしないで、でも動けるように体は動かして健康でいて、といった老いとの戦いになっていくのもわかっているけれど、これだけフットサルを含めてサッカーができる環境が整った時代になったこともあるし、来年も参加したいと思っている。

 そう考えただけで、ちょっと楽しい。



(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。




#サッカーを語ろう    #フットサル   #トレーニング #怪我
#サッカー   #サッカー部   #フットサル場
#習慣にしていること   #骨折

記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。