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桃始笑‥ももはじめてさく

『桃始笑‥ももはじめてさく』
          3月10日から14日ごろ


花が咲くという意味で
『花笑み』という言葉がありますが
花が笑うという表現が愛らしくて‥わたしの大好きな言葉のひとつです。


『桃始笑』もまるであかちゃんが初めて笑ってくれた瞬間の喜びのようなそんな微笑ましさがあります。

実際に春の空の下ピンク色を纏いやわらかく咲くその様子は、あたたかくそして可愛らしく‥。優しい春をぎゅっと感じることができるのです。


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春の季語に
「山笑う」という言葉がありますが
山の草木が芽吹き始め色付く様子をそう表現しているそうです。

春になり山が明るく朗らかに見えたのでしょうか。昔の人々はなんと素敵な感性を持っておられたのでしょう。

同じように

夏は「山滴る」

若葉が濃い緑になりみずみずしい様子

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秋は「山粧う」

紅葉で彩られ化粧したように見える様子 


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冬は「山眠る」

静まりかえりさみしげな様子   


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そんな風に‥
山や花などをまるで人のように例えることで、 

わたしたちと同じようにそれらにも大切な生命があり‥流れゆく季節の移ろいをその生命のすべてで感じながら

日々懸命に生きていることを改めて実感することができるのです。



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さて、今年の冬は例年よりとても寒く長かったように感じたのですが
みなさんどのように過ごされたのでしょうか。


わたしの住む鳥取県では
山側では大雪となりましたが
海側では去年に続き雪は降ったものの雪かきをすることもなく過ぎていきました。


このままもう雪の姿を見ることなく
春となっていくのでしょうか。



三月に降る雪に
「名残雪」「忘れ雪」「淡雪」など‥美しい言葉がありますが

春の雪ひとつとっても
たくさんの呼び名がありますが
同じ雪なのに冬のそれとは違い

ほんのりさみしさと憂いを
秘めていて、永遠の別れのような
ふわっと溶けゆく‥切なさまでも
伝わって来るように思うのです。

   
この季節になるとわたしは
思わず口ずさんでしまう歌があります。


汽車を待つ君の横で僕は時計を気にしてる     季節外れの雪が降ってる             「東京で見る雪はこれが最後ね」とさみしそうに君がつぶやく                 なごり雪も降る時を知り          ふざけすぎた季節のあとで            今春が来て君はきれいになった        去年よりずっときれいになった                                          「なごり雪」より


その描写の美しさに
『なごり雪』の世界がはっきりと浮かんできて
わたしの心は一瞬でその風景の中へとトリップするのです。



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駅のホームで季節はずれの雪が降り
それは積もることなく

一瞬のうちに儚く消えていく‥

その様子はまるでふたりの関係を表しているかのようで‥。



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ふたりの関係は
恋人だったのか、友達だったのか‥


どちらにしても
東京の大学を卒業し地元へと帰っていく彼女を引き留めることもできず。


もしかしたら
彼女は地元へ帰り結婚することが
決まっていたのかもしれません。


そうでなかったにしても
遠く離れてしまえば
今のように気軽にLINEやメールなどできる時代でもなく‥。

ふたりの間では
きっと暗黙の了解のようにそれはわかっていて‥それでも共に生きていく未来を選ぶことは
なかったのでしょう。


田舎から出てきた頃の
幼い面影は消え
大人になった美しい君の姿が
春の雪のように
儚く消えてしまう‥。


動き始めた汽車の中で‥彼女は泣いていたのか‥否か‥
それを確かめる術もないままに‥。

 


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この歌が発売された1975年。
時は流れ今や遠く離れた人でも気軽に連絡を取り合うことができる時代となりました。

LINE、Skype、メール、Twitter、Instagram等々‥。
様々な連絡ツールがあり
顔を知らない人とでも言葉を交わすことが出来る‥そんな便利な時代に。
 

実際に『三月と九月』を制作している
photographerのあおさんとわたしも
福島と鳥取という遠く離れた場所に住んでいながら
こうして共に作品を作っている‥。

こんな時代でなければ
本来出逢うはずもなかったふたりでしょう
それは本当に奇跡のように思うのです。

そして今この記事を遠く離れた「あなた」が読んでくださっていること‥。

それもまた奇跡なのです。



そんなひとつひとつの奇跡に感謝しつつ‥


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桃始笑‥ももはじめてさく

桃の蕾がほころび花が咲き始める頃




今日も最後まで読んでいただき
ありがとうございました。




            photographer‥あお

                writer‥るん

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