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デザインとコンポストの交差点

庭がなくても、一人暮らしでも、ベランダさえあれば簡単にコンポストができる。まだまだ耳馴染みのなかった「コンポスト」というライフスタイルをグッと身近にした、グレーのフェルトのバッグ。SNSや雑誌で見覚えのある方も多いのではないだろうか。

コンポストバッグの製造販売を手がけ、ブームの立役者となったのが、ローカルフードサイクリングさん。(以下LFC)堆肥化のスピードを速め悪臭を抑える独自の土の配合は、20年にも渡る研究と実践から生み出されているそう。

そして、LFCさんがこの夏に実施された企画では、IDLもコミュニケーションデザインのお手伝いをさせていただいた。その名も「日仏共同なつやすみコンポスト大研究 」。

昨年も実施された、小学生を対象にした夏休みの自由研究企画が、今年は海の彼方のフランスの子どもたちを巻き込んでカムバック。子ども達が1日300g程度の生ごみを3週間投入して堆肥をつくり、成果を共有しあう事で、生ごみの廃棄を通して地球規模の環境問題への学びを深めるという企画だ。彼の地では2023年からコンポストの義務化が導入されることも追い風になり、LFCさんが今年からフランスでもキット販売を開始されて、今回の企画と相成った。

IDLがお手伝いさせてもらったのは、日本とフランスの子どもたちがコンポストを通じてつながりを感じたり、学びが深まったりするような、インタラクションのデザインだ。

「夏休み」とひとことで言っても、実際は1ヶ月近く取り組む長丁場な企画。毎日ひとりで観察し続けると単調になってしまうため、モチベーションを高められるような仕組みをLFCさんで模索されていた。

そんな課題に対するひとつの答えとして、LFCさんとの対話から生まれたアイデアが、子どもたちから集めた写真と感想を使った新聞づくりだった。

一部抜粋

ズラリと並んだ写真から、「みんなで一緒に取り組んだ」という空気を子どもたちに感じてもらいたかった。フランスの小学生の写真から、日本の食材との違いが見えたりするのも、体験の彩りになったと思う。

写真集めひとつとっても、コミュニティ的な視点で考えると、ただ「写真送ってください!」「投稿してください!」と伝えるのと、ほんの少し工夫をするのとで、結果や空気は変わってくるものだと感じている。どんな仕組みなら子ども、そして親御さんが関わりやすいか。どんなコンテンツがあれば子どもたちがワクワクしてくれるか。そんな対話から、我々も大きな学びを得た。

発表会での一幕

また、企画を締めくくる発表会では、プログラムの設計に関してディスカッションの機会をいただき、当日はコメンテーターとして参加。子どもから大人まで、集まった40名ほどの見知らぬ人々の前で、6名の子どもたちの発表を聞かせてもらった。

大人から評価されるだけでなく、子どもたちの間でコミュニケーションが生まれるような工夫はできるのか?
どのような体験が、子どもたちの有機的な学びに繋がるのか?

そんな意図を持ちながら臨んだ当日、いざ蓋を開けてみるとキッズたちの表現力、観察力、言語化力に圧倒され、このプロジェクトからもらった気づきの豊かさを改めて実感することとなった。

コンポストの面白さが伝わってくる素敵な一枚

デザインアプローチとしてのコンポスト

「Design for Sustainability」をミッションに掲げるIDLは、いくつかのプロジェクトの中でコンポストに関わる機会を得た。あるときは、ワークショップを担当したカンファレンスのテーマのひとつとして。またあるときは、企業が掲げる「新たな循環のしくみを社会に広める」というミッションを実現するための、手段のひとつとして。

「デザイン」と「コンポスト」という言葉の距離。誰が見ても近いというものではないかもしれないが、実践の中で私たちは、その親和性の高さや可能性の大きさを確かに感じるようになった。そして、このコンテクストが今回のなつやすみコンポスト企画に繋がっている。

IDLの「Design for Sustainability」の探索は今後も長い道程が続いていくが、今回はこのプロジェクトの節目に寄せて、メンバーにそれぞれの視点から「デザインとコンポスト」をテーマに記録を残してもらった。

我々IDLは「A Design Collective for Sustainable Futures」を掲げ、望ましい未来をデザインすることにコミットしている。(中略)「サステナビリティ」について我々自身が組織カルチャーとして実装し、有言実行する主体者でなければならない。他所には偉そうなこと言っているけど自分のところはどうなのよ?と、紺屋の白袴、医者の不養生では「口先だけコンサル」の誹りを免れないのだ。

マネージャーNUWANDEのポストのテーマは「実態を伴うデザイン」や「グリーンウォッシュ」。IDLが手がけるサービスデザインやデザインリサーチは、クライアントの力があってはじめて商品としての実態を伴うケースが少なくない。ともすれば失いかねない「主体者としての手ざわり」を繋ぎ止める手段の探索も、今回のプロジェクトにジョインした理由のひとつだった。

目を細めるようにコンポストの取り組みとフィールドでの取り組みを眺めると、双方ともに地域と都市の、もっというと世界のためのプロジェクトのデザイン、という手法であると見立てることができる。(中略)プロジェクトが成功するかどうかはわからないが、その上でその質を担保するために必要な情報や必要十分な数を揃えるという視点を持つことが重要であるということをここでは言いたい。

デザイナーの菊石は、フィールドでの新規事業創出プログラムとコンポストの繋がりを紐解いてくれた。ゲイブ・ブラウンの『土を育てる』でも「小さな変化を生み出したいならやり方を変えればいい。大きな変化を生み出したければ見方を変えなければ」と書かれているように、IDLのプロジェクトでは常に「見方を変えること」が求められるが、その手段としてのコンポストの可能性を提示してくれている。

コンポストから見えてくるのは、個人の体験や幸福ばかりではない。生活者としては目先の処理の方法となるけれど、デザイナーとしてはその先にある社会や地域に想いを馳せるきっかけにしたい。(中略)サステナビリティの多くの問題は、1社では解決し得ない。必然的に「みんな」の問題なのだ。

フィールド事業で深い知見を持つ白井は、個人の気づきを社会へ還元する視座に言及してくれた。IDLでご一緒するプロジェクトでも「サステナビリティ」をテーマに掲げるものが増えてきたが、この共創や俯瞰の視点は常に携えていたいと改めて感じた次第だ。

京丹後の畑で見せてもらった、コンポストの中に残るプラスチック

3つの解釈はどれも、関わったメンバー全員が共有できていると感じる。同じビジョンを共有しながら、既存のプロジェクトとは異なる視点から価値創造に取り組む機会をいただけたことに、改めてLFCさんに感謝したい。

発表会の後には、LFC代表の平さんからも「お互いの営みに共通するものがある」とのお言葉をいただき、背中を押してもらったような心持ちになった。ここまで記事を読んでくださった方とも、これからの「Design for Sustainability」を、軽やかなかたちで、共に探索できる場を作れたらと願っている。

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