【体験談】部活と上下関係と苦悩(4)

大会の終わり


とにかく、みんなのいる場所に行こう。
重い腰を上げ、同期の元へ向かいました。

「後輩が先輩より先に昼飯を食っていた」
ことは、すでに先輩たちの中で広まっていたようでした。

大会中、僕は一年の仕事をしつつもずっと下を見ていました。とくに事務的なこと以外話すこともなく、大会も終わりました。
帰りの電車に乗り、家に帰ります。
帰りの電車はずっと放心状態でした。

川での決断

家に着いたのは夕方の五時くらいでした。
すると足が勝手に最寄りの駅からすぐ近くにある川まで連れて行きました。
そして、草が生い茂る土手に座りました。
川の土手にわざわざ行って座り込む謎の行動は今まで全くありませんでしたが、その時は、自分の中で経験の無いほどのストレス状態で本能的に自然の癒しを求めに行ったのだと思います。

春独特の生き生きとした空気が吹き、目の前にはキラキラ光る水面と夕日が輝きます。
僕は大嫌いな虫がいるのを考慮せず、草の絨毯に寝そべって目をつぶって今後のことを考えました。辞めるか。辞めないか。

1時間くらい考えました。
辞めて楽になりたい。でも、現状から逃げて辞めたら自分は一生「負けた人間」になるかもしれない。
そう思い、本当に葛藤しました。

ふと、どこかのドラマだか漫画で知った言葉が脳内に浮かびました。
「いつか笑い話になる時がくる」
その時は、そんなの想像できませんでした。
自分が先輩たちと仲良くなり、同期とも信頼が築けるような未来が浮かびませんでした。

でも、勝つ人は少しの可能性に全身全霊を賭けるからこそ成功するのだろうととも考えられました。
また、自分を応援してくれる両親や、地元の親友達、過去の恩人たちの存在も頭を過りました。その時、自分が逃げることは、自分に良くしてくれる人への裏切りだとも感じはじめました。

意は決しました。

「いつか笑い話になる。」
この言葉を信じる。
絶対笑い話にする。
今日から生まれ変わる。
川の土手で一人、そう誓いました。

家に帰って部屋に籠り、部活に馴染めるようになるための作戦を立てました。

短期的な目的として
・部活における自分の味方を一人見つける
・その人を起点に部内に馴染む

そのためには、
・練習の2時間前に到着して、一年の仕事・準備をする、他の同期の3倍以上動くようにする
・硬すぎず馴染めるような敬語を使う
・起こりうる最悪と未来を常に想定する
・部活の空気、人の感情を常に観察する
・先輩全員の性格・好みの距離感を把握する
・表でアピールせず、影でする努力を先輩に認識してもらう
・自分操作して成長させ、部活の仲間入りをするのを楽しむゲームだと思うようにする、全て実験だと思うようにする

剣道で強くなることそっちのけで考えて、以上挙げたことなどを実行することにしました。

実際、以上の行動を意識し始めて、人間関係の多くが変わっていきました。
しかし、一番大きい変化が訪れたきっかけは、自分の努力ではなく、部内で群を抜いて剣道の実力のあった三年の次期主将の助けでした。
その先輩をA先輩とします。

救世主との出会い

A先輩は最大の実力者であると同時に部内で一番目立つ賑やかな人でした。自分一人でいきなり奇行をして周りを笑わせたり、部員全員と仲良くする一番の人気者でもありました。
ある日、A先輩は稽古が終わると僕を呼び出し、「なにか面白いことやってよ」と言いました。僕は突然の出来事に驚きますが、何かしなければと考え、咄嗟に思いついたことをやりました。すると、絶対面白くないのに、ケラケラ笑って「面白い!面白い!」と言われました。
正直、とっかかりの掴めない先輩でした。
普段は能天気で天真爛漫っぽく見えるけど、練習になると真剣そのもの。多重人格を彷彿とさせるほどのギャップでした。そのため、どこか不思議なオーラを纏っていて、心の底では何を考えているのか読めないような、初めて見る人種でした。

先輩はその日を皮切りに、練習があるごとに僕を呼び出し絡みを作ってくれました。
さらには、周りの人も呼び集めて会話の輪を作ってくれることもありました。
会話の内容には特に中身はありませんでしたが、
先輩「なんか好きなアーティストとかいる?」
僕「雑食なので色々聴きますけど、
特に今は〇〇にハマってます。」
先輩「あれ、それお前(別の先輩)も好きじゃなかったっけ!」
こんな感じで他の先輩との輪を作ってくれました。
先輩は意図的に僕を部活に馴染ませるために考えて自分に話かけてくれるってよりは、あくまで何も考えず自然に接してくれているような振る舞いでした。

初めての食事

ある日、思いもしない出来事が起きました。
A先輩が「ご飯食べ行こうよ」と言ってくれたことでした。自分の中で衝撃でした。
その日、A先輩とは二人で、昼ごはんを食べ、カフェに行き、温泉にまで行きました。部内一番の人気者が昼の12時から6時間もの時間を僕に費やしてくれたことは、当時本当に嬉しい出来事でした。僕にとっては緊張の時間であるなかでも、言語化できないいろんな感情の交差する特別な時間でした。
その時間、僕らは永遠に話をしました。もはや何を話したかは覚えていません。
しかし、僕の話を親身に聞いてくれた上で、「大丈夫、大丈夫」と言葉をかけてくれたことは本当に大きな支えとなり、心に空いた穴をすっかり埋めるものになりました。

変化

A先輩と仲良くなったことは、本当に多くの影響がありました。A先輩という大きな存在感を放つ人間と仲良くしていることが部内での僕の先入観や評判を作り変えているようでもありました。
結果、いろんなきっかけがありつつも、仲良くなる先輩が次々に増えていき、日に日に部活が楽しくなりました。
もともとは先輩たちのプレッシャーで後ろ向きになる場所であった部活も、和気藹々と会話のできる場所に変貌していきました。

さらに、夏合宿になると、大会の時に怒られたあの先輩に声をかけられました。 
「絶対辞めると思ってたんだけど、ほんとよく辞めなかったよな。…大したもんだ」と。

「いつか笑い話にできる日がくる」
その日は、そう信じてきたことが報われた瞬間でした。

1年生という時間

冬になると、僕は部内の全員と仲良く、良い関係を築けるようになりました。
その頃には、プライベートで声がかかることも増え、いろんな先輩と食事に行く機会が増えていました。
川で考えた作戦を毎日気を緩めずに行ってきたことは、後々の先輩の話を聞く限り本当に大きな効果があったのだと振り返って実感できます。
僕にとっては、これが大切な成功体験になったことは言うまでもありません。

しかし、そうは言っても、結局僕にとって一番大きかったのはA先輩との出会いだなと思います。
僕にとって、その先輩は最高の恩人であり、理想の先輩となりました。
いつか、自分も自分の後輩に手を差し伸べれる先輩に、A先輩のような一人の先輩になりたいと思うようになりました。

上下関係

大学4年間の部活は、自分を一気に成長させた時間だと思います。周りをよく見ることや処世術など数え切れないほど多くのものを学びました。振り返ってみて、最高の時間でした。
川でこのような決断をしたことは人生の大きな分岐点だったのだと感じます。

二年になると、後輩にどう接するのか
三年では、四年生の補助として何をするのか
四年では、部の最高学年として決断・責任を感じながら、なにをどう変えていくのか
をそれぞれ試行錯誤することになります。
多くのことに悩み続けた4年間でした。
しかし、いま振り返って、そのような辛かった時間は、辛ければ辛いほど自分を変えてくれた筋肉痛のような、必要なものだったと考えられます。

「今、辛くてもいつかは笑い話になる」
これから再び辛いことがあったとしたら、
なんでも乗り越えれる気がします。


断片的な記憶で文字を重ねてきましたが。部活での苦悩はこんな感じでした。
こんな粗末で長い日記を読んでくれた人がいたのであれば、本当にありがとうございます。
そう伝えたいです。

この記事が参加している募集

#自己紹介

230,447件

#部活の思い出

5,461件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?