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第32回 『82年生まれ、キム・ジヨン』 チョ・ナムジュ著

 こんばんは、JUNBUN太郎です!

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 今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
 ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
 ラジオネーム、さくらさん。

 JUNBUN太郎さん、こんばんは。
 わたしは小学校に通う女子です。

 このまえウチでお母さんが本を読んでいました。
 髪の長い、でも顔のない女の人の顔が表紙のやつです。
「わー、これ、まさにわたしだわー」
 そんなことを時々つぶやきながら、ハンカチに目を当てています。感動してるんでしょうか。
「ママー、わたしにも読ませてー」
 わたしが近寄ると、お母さんはちょっと慌てたような困ったような顔をして、答えました。
「ママは、さくらにはこの本、まだ読んでほしくないなぁ」
 わたしはお母さんのことが大好きで、お母さんに憧れているので、その本を読めば、お母さんのことが体験、じゃなかった、コスプレできるかも!? と思ったのに、ガッカリ。

 そうしたら、別の日に、その本をこんどはお父さんが読んでいました。
 なんだか怒ったような、険しい顔になってる。
「パパ、その本、どう? 面白い?」
 わたしが質問すると、
「パパさぁ、なんだか色んなことに気付かされたよ。考えさせられた。勉強になったよ」
 お父さんがそう答えるので、
「わたしも勉強する! 読ませてー」
 そう言うと、お父さんは困ったように答えました。
「いやー、パパ、さくらにはちょっとこれは読ませたくないなぁ」
 お父さんまで!!
 どうして2人はわたしにこの本を読ませたくないんだろう……。
 読んじゃダメだと思うと、ますます読みたくなってきます。
 ウズウズ、ウズウズして、とうとうわたしは、お母さんとお父さんのいない隙に、読んでみました。
 すると──

 1982年に韓国で生まれた女性に一番多い名前をもつ「キム・ジヨン」の半生を通じて、様々な世代の女性たちが抱えてきた苦悩を綴った『82年生まれ、キム・ジヨン』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!

 信じられない!
 女というだけで、どうしてこんなにもつらい目にあわなきゃいけないの? 学校、仕事、結婚、出産、家族──この先を女として生きていくことを想像しただけで、ウンザリしました。
 わたしはまだ小学生で、小説の中でキム・ジヨンさんや、お姉さんのキム・ウニョンさんや、お母さんのオ・ミスクさんが経験したようなつらい目にはほとんどあってはいません。でも、わたしも女です。これまでに、えっ? っていうなんだか解せないモヤモヤとした疑問をもったことはあります。

 例えば「女々しい」っていう言葉。わたしはこれがとても嫌いです。
 男のくせに女々しいやつだなーなんていう言い方は、女をバカにしているし、それに男のことも偏見の目でみていると思う。ピンクが好きな男子もいるし、ブルーが好きな女子だっているんだから。あーそういう偏った考え、ほんとに嫌! この嫌っていう漢字に「女」が使われているのもイヤッ!

 本を隠れて読んだことを秘密にしておくのがつらくなって、ある日、ご飯を食べている時に、わたしはお母さんとお父さんにそのことを打ち明けました。
「あー読んじゃったんだ」
 2人は口をそろえて言いました。
「さくらには、そんな思いをこの先ぜったいにさせないからね」

 それから我が家では時々、「人類平等会議」というのを開いて、日頃感じている人間のそんげんについての疑問を話し合っています。世の中を変えるような力はないかもしれないけれど、少なくともわたしの家族は笑顔でいっぱいです。
 どうか、「2010年生まれ、佐藤さくら」のストーリーはとってもハッピーでありますように。太郎さんも祈っててください。

 さくらさん、どうもありがとう!
 この作品は本国はもちろん、日本を始めとした諸外国でも話題になってますよね。ぼくも読みましたが、とても考えさせられました。男性の登場人物にいっさい名前が与えられていないという演出にも、作家の痛烈なメッセージが込められていると感じます。
 本はどんなひとも読むことのできる、開かれた存在です。さくらさんのご両親がさくらさんに読んでほしくないと言ったのは、娘を思いやる、愛情ゆえの反応だったのでしょうね。
 様々な立場の人たちに気づきを与え、ひとつのテーブルを囲んだ歩み寄りの議論をさせる力が、一冊の本にはあるということを、ぼくは改めて実感させられました。
 さくらさんの自分らしい人生のストーリーを、ぼくも心から祈ってます!

 それではまた来週。

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