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第62回 『クララとお日さま』 カズオ・イシグロ著


 こんばんは、JUNBUN太郎です!

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 今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
 ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
 ラジオネーム、ババガールさん。

 JUNBUN太郎さん、こんばんはー。
 わたしは普段あまり本を読まないんですけど、このまえ本屋を通りかかった時、店頭に並ぶ本の表紙に目を惹かれたんです。
 キレイな色の細かなタイルを寄せ集めてつくったようなヒマワリの花と、その横には可憐な少女が一人たたずんでいます。
 タイトルをみると……

『クララとお日さま』

 なんだか素敵。
 表紙に載ってるこの少女がクララちゃんかしら……。
 どこかノスタルジック。わたしもうん十年前は無垢な少女だったのよね……。遠く過ぎ去った少女時代を読書体験(コスプレ?)できちゃうかも……♪ そんな期待を胸に、わたしはその本を買いました。

 読んでほどなく分かったのは、まさか、クララが人間ではないということ。
 AF……??
 人工親友(Artificial Friend)。そう、クララはAIロボットだったのです!
 クララは、店頭でジョジーという病弱な少女にみそめられ、彼女の家に引き取られていきます。そこから、クララはジョジーのAFとして暮らしていくことになります。
 まさか読書で人間ではなくロボットにコスプレできるなんて!? ドキドキしながら読んでいくと、わたしは思いもよらない人間世界を垣間見ることになるのでした──

 病弱な少女に寄り添うAIロボットの日々を綴った『クララとお日さま』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!

 クララの洞察力するどい目。
 そこからまず見えてくるのは、人間のつくった格差社会でした。
 ジョジーの親友であるリックは、遺伝子編集による「向上処置」を受けていないがために、才能はあるのに大学進学の道は閉ざされ、「向上処置」を受けた子供たちからはバカにされています。
 それだけではありません。AFであるクララまでもが、最新型のAFとスペックや能力を比較され、差別的な扱いを経験します。
 人間って、ほんと、すぐに優劣つけたがりますよね。あー嫌だ嫌だ。でも、クララは冷静にそんな人間社会を観察し、そこから色々なことを学習していく。すべては親友であるジョジーのために。

 クララのがんばりのおかげもあって、心もとなくなっていたジョジーとリックの友情の絆は再び強く結ばれることに。
 一方、ジョジーの母親は、娘を病気で失うかもしれない恐怖から、信じられないくらいヤバい計画を水面下で進行させ、ジョジーは知らずのうちに巻き込まれていく。

 そんな中、クララは、その明晰な頭脳と観察力で事態を把握し、ジョジーのためにどうするべきかを必死に考える。迷う。それでも周囲の人間の協力を得ながら、解決の道を探っていく。
 クララって、なんて勇敢で逞しいのだろう。わたしはAIロボットを正直バカにしていたのかもしれません。

 やがて、ジョジーの病気が重症化し、周囲の人間が死も覚悟したときクララのとった行動に、わたしは思わず涙ぐみました。
 クララのエネルギー源でもある太陽が休憩する場所(とクララが信じるところ)に万難排して出向き、姿をみせた太陽に向かってクララは語りかけるのです。

「ジョジーを治してください。あの物乞いの人にしたように」(作中より引用)

 これって、祈り、ですよね?
 クララは、その後、太陽のもとを再訪し、祈ります。

「きっととてもお疲れでしょう。お引き止めして申し訳ありません。覚えていてくださるでしょうか。以前、夏に一度ここに来ました。お日さまは、ご親切にわたしに数分間の時間を割いてくださいました。今日こうして戻ったのは、同じ重要な問題についてあえて再度のお願いをするためです (中略) わたしがいまここにこんなふうに来ているのは、お日さまがいかに親切な方であるかを忘れていないからです。お日さまはあの物乞いの人とその犬に親切にしてくださいました。あの大きな親切を、ぜひジョジーにもお願いします。ジョジーには、いまあの特別の栄養が必要です」(作中より引用)

 その後、クララの祈りが通じたとしか思えないような奇跡が起きる。泣きました。
 AIロボットが、祈るんです。
 ロボットは人間がつくったものなのだから、「祈る」という機能をプログラミングされてただけのことだろう。そうやって読み流すこともできると思います。でも、そうじゃないと、わたしは思う。
 クララは、常に周りの人間を観察し、そこから学習し、自分の言動をアップデートさせてきました。その目的は、ジョジーにとって最高の親友となるため。病気で死にそうなジョジーを救うために、クララは祈った。これは、鏡なのではないでしょうか。
 人間の営みを映す、クララという無垢な鏡。

 人間って、他人を差別したり、間違った罪も犯すけれど、同時に、誰かを愛し、愛する人を笑顔にするために必死で何かに抗おうとする。
 人間のそういう、醜い側面、そして、美しい側面の両方を、わたしはこのクララっていうAIロボットを通じて経験することができました。
 クララ、サンキュー!!


 ババガールさん、どうもありがとうございます!
 カズオ・イシグロ氏によるノーベル文学賞受賞第一作『クララとお日さま』は、人工頭脳を搭載したクララと、病弱な少女ジョジーとの出会いと別れを主軸に物語が展開していきます。
 そこには今回、ババガールさんのお便りで触れている他にも、様々なテーマがちりばめられ、様々な人間模様が繊細に織り成されています。読者によって、あるいは読むタイミングによって、多様なメッセージが受け取れる物語ではないでしょうか。
 あー早くも、次作が楽しみです!!
 ババガールさん、またお便りしてくださいねー。

 それではまた来週!

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