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第51回 『おもろい以外いらんねん』 大前粟生著

 こんばんは、JUNBUN太郎です!

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 今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
 ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
 ラジオネーム、サヤカさん。

 JUNBUN太郎さん、こんばんは。
 隠れ腐女子のサヤカと申します。職場ではクール系をきどってますが、実はめっちゃBL好き。高校時代にコミックから入って、ライトなものからディープなものまで、ひと通り堪能してきました。そんなわたしの最近のマイブームは、ずばり青春小説。しかもBLをうたっていない、ゲイのキャラクターも出てこない、いわゆるストレートもの。ただし、男の子たちの友情ものに限ります。
 ねえ太郎さん、男子の友情を描いた青春ものって、わたしからしたら、それはもうほとんどBLの世界なんです。ひたむきに同じ夢を追いかける男子たちのほとばしる汗、無防備なほど近距離で交わされる視線や会話。同じ情熱を分かち合っているがゆえの対立、喧嘩。そこからの和解、さらに強まる友情の絆──どれひとつとっても、萌えポイント。ああ、ストレートの男子たちのやりとりにBL的な恋愛要素をみつけることの喜びよ。キュンキュンせずにはいられませんっ!
 そんなわたしが最近目をつけたのが、

『おもろい以外いらんねん』という小説です。

 どうやら高校時代の仲良し3人組の話らしく、帯には「芸人青春小説の金字塔」って書いてあります。これはまさしくわたしの大好物の予感……。文藝っていう文芸誌で発表された作品みたいで、これは紛れもなく、純・文・学。これまで味わったことのないような、めくるめく体験(コスプレ体験?)ができるにちがいない!、そんな妄想、いや期待に胸膨らませて、わたしは読み始めました。

 このお話は、大人になった主人公の「俺」が高校時代にまでさかのぼって回想するスタイルで始まります。高校2年生の俺には、滝場という仲良しの幼馴染がいて、芸人になる夢をもつ滝場から学祭で一緒に漫才をやろうと誘われて、俺はめちゃくちゃうれしくなります。二人で漫才師になる将来を密かに妄想している俺でしたが、そんなところにある日、ユウキくんという芸人志望の転校生が現れる──。
 なんていう夢のような設定! お笑い愛をめぐる、男子だけの三角関係❤️ しかもユウキくんは読モをしているところからしてかなりのイケメン。滝場も、学校で上位グループに属しており、なかなかのルックスっぽい。俺については、外見情報がないから、自由な設定可ということで、わたし好みのイモ系男子を勝手に想像しつつ、わたし、もとい、俺は両手に華のイケメン青春パラダイスをはりきって読み進めました──

 「笑い」を追求する男子たちの光と陰を綴った芸人青春群像小説『おもろい以外いらんねん』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!

 きゃー期待通りの萌え展開!
 高2の学祭では結局、滝場とユウキくんがコンビを組んで漫才をすることになり、卒業後も二人はプロの芸人として活動していくことに。ひとり身を引いた俺は一般企業に就職し、彼らとずっと疎遠のまま、でも実は二人の漫才をこっそり劇場に足を運んだり、ネットの動画をみたりなどしてチェックし続けている。っていう、まるで片思いをひきずった男子のような痛々しい日々。幼馴染でいっつも一緒につるんでた滝場に、打ち明けたいのに打ち明けられない想いをずっと胸に秘めてる俺。わー萌えすぎます!

 でもね、実際この小説はBLでもなければ、俺はゲイでもないわけで。読み進めるにつれ、俺が抱えている胸の内がだんだんと見えてくるんです。それは、高校時代に俺が滝場と楽しんでいた笑いが「人を傷つける笑い」だったということ。人の容姿やジェンダーをからかうような、いわゆる「イジリ笑い」をしていたということの後ろめたさを、10年経って大人になった今、俺はひしひしと感じ、苦しむ。でも、そうした過去の笑いを否定することは自分たちの友情まで否定してしまうようで、辛い。とはいえ、プロの芸人になった滝場が今もなお「イジリ笑い」を容認する姿勢を友人として見過ごしておくこともできない。なんという、葛藤。まさに青春──。
 これを読んでて、思いがけずわたしの胸はチクリと痛みました。振り返れば、わたしが腐女子になったきっかけは、高校時代に好きだったクラスの男子が女性性をバカにするようなギャグを言ってたことなんです。彼に、そしてそれを笑ってる取り巻きの男子たちに幻滅して、わたしはリアル男子を捨て、2次元のBL世界へと走ったのでした。これまで気にしないようにしていたけれど、やっぱりわたしはあの時、傷ついていたんだなーってことが小説を読みながらわかりました。
 だから、俺がその葛藤を乗り越え、10年振りに再会した滝場に、自分たちの過去の笑いや、現在の滝場の笑いのあり方にNOを突きつけることができた時、わたしは「俺」として救われると同時に、かつて心に受けた傷を傷として認められずにやり過ごしてきた女子高生の「わたし」としても、救われたような気がしました。

 このようにわたしはこの本を読んで、まさか自分自身の青春時代がフラッシュバック。そこからの傷癒えカタルシス!笑
 隠れ腐女子ではないリスナーの方々でも、これを読むと、どこかしらに自分自身の青春時代と重なる部分があるんじゃないかなーと思います。

 この作品のもうひとつの魅力は、彼らの漫才のネタがフルで楽しめるところ。小説だと、あしらい程度に一部だけ描写されるなんてこともよくあると思うんですが、この作品は芸人が舞台に登場するところから退出するところまで、マルっと読めるから、劇中劇のように楽しめてお得感があります。
 とりわけ、最後には、俺と滝場とユウキくんのトリオ漫才による感動のフィナーレ。腐女子的にも大満足でした!!


 サヤカさん、どうもありがとう!
 ぼくも読みましたよー。サヤカさんのBL的視点には正直驚かされましたが、まさに青春っていう、熱い瞬間や、ヒリヒリした瞬間などがたーくさん詰まっていて、ぼくもキュンキュンしながら読みました。
 ところで、この作品では、メインキャラクターである「俺」と「滝場」と「ユウキくん」がそれぞれ1回ずつ、この作品のタイトルでもある「おもろい以外いらんねん」というセリフを喋るんです。でも、そのセリフの意味するものや、その背景はそれぞれに異なっていて、そんなところからも、お笑いを追求するということの奥深さというか、簡単でなさ、そして、そうした笑いに対する彼らのひたむきさがひしひしと感じられました。
 お笑いを追求する男たちの青春小説といえば、又吉直樹さんの「火花」もありますよね。2つの作品を比べて読んでみるのも、面白いかもしれません。
 サヤカさん、またお便りしてくださいね。BL小説も、もちろんウェルカムです!

 それではまた来週。

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