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上場企業のガバナンスで形式よりも大切なこと

TAKA(@Murakami_Japan)です。

ガバナンスって聞くと大袈裟で難しそうですが、寧ろできる限り簡易に整理できたらなと思い、筆をとります(でも実際は言うほど簡易になってないw)。
もともと、ガバナンスって、日進月歩のテーマで専門家でも様々な意見がある分野で、まだスタンダードも確立されきっていません(言い過ぎ?w)。だからこそ、法的な整理だけではなく、実務的な整理、またできる限りシンプルに議論してみることが大事かなと感じています。なんとなくこれを読んで、ガバナンスが少しでも身近に感じてもらえると嬉しいです。

コーポレート・ガバナンスってなんだ

以前、基本的なフィロソフィーというか考え方についてはまとめたものがあるので、是非こちらもご一読ください。こちらを読んでいただくと、イメージが掴んでいただけると思います(オススメ)。

コーポレート・ガバナンス(以下、「ガバナンス」)の話になると、「監督」と「助言」という言葉をよく耳にすると思います。それらは上記の私のnoteでも書いているので端折りますが、以下の「株主3つの期待」に集約されると思っています。

1)企業価値を毀損しない
2)安心して投資できるようにする
3)企業価値を高める

典型的なガバナンスのパターンを考えてみる

細かい話は抜きにすると、以下の3つのパターンで議論すれば良いと思います。上から徐々にガバナンスが強化されていくイメージです。

・監査役会設置会社
・監査等委員会設置会社
・指名委員会等設置会社(上と「等」の位置が違います。複数委員会があります)

2020年9月に東証が発表した資料によると、上場企業における会社法上の機関設計は以下のような分布になります。圧倒的に一番右の監査役会設置会社が多いです。

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監査役会設置会社:
従来の株式会社のガバナンスです。これがもともとの基本系と考えてください。監査役(会)によって監査されることで監督機能が強化されます。会計監査人と連携し、会計面も監督されます。以前のnoteでも書きましたが、エンロン等の会計問題に端を発し、このような会計監査や監督機能の重要性が強化された背景です。

結構、大企業でも採用していますので、これがダメということでは無いのです。比較的小規模な企業ほど、この機関設計であることが多いです。そのあたりの背景は最後まで読んでいただければわかると思います。

ソフトバンク・グループの事例

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リクルート・ホールディングスの事例

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楽天の事例

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ラクスの事例(マザーズ上場)

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ライフネット生命の事例(マザーズ上場)

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監査等委員会設置会社:
経営と執行の分離の概念で、社外取締役が委員会のメンバーとなり、取締役会へのガバナンスを強化するための仕組みです。会計監査人はいますが、監査役が不要になり代わりに取締役で構成される監査等委員会が、監査役会のような監査の機能を果たすことになります。

NTTドコモの事例

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MTGの事例(マザーズ上場)

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指名委員会等設置会社:
指名委員会と監査委員会と報酬委員会を置く会社。上の2つよりも指名と報酬について委員会が権限を持つことで、取締役にとって最も重要な「指名権」と「報酬決定権」を委員会に預けることでガバナンスを強化する仕組みです。

取締役を「指名」できて「報酬」を決めれるって、究極的には取締役を別の人に変えたり、報酬を減らしたりできるわけですから、ガバナンス機能としてはかなり強力です。取締役にとっての委員会は、従業員にとっての人事部や上司・社長のような存在感です。野球チームで言うなら、監督やGMのような存在。とにかく、強力な権限を当該委員会に与えています。この委員会を有効に機能させるために、指名委員会等設置会社ではこの構成メンバーを社外取締役が過半数であることを求めています。

以下のリンク(日本取締役協会)に一覧が出ています(若干77社のみ。東証の資料では76社とあります)
https://www.jacd.jp/news/opinion/jacd_iinkaisecchi.pdf

いわゆる日本の大企業・グローバル企業を含むガバナンスに対して先進的な企業になります。なので、3,000社を超える上場企業の中で若干77社しかいません。まだまだハードルが高いガバナンスの仕組みです。

ソニーグループの事例

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コニカミノルタの事例

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で、結局何が違うのか(簡単なサマリー)

監査役会設置会社:
・監査役を置く必要があるのが一番の特徴。他の2つの機関設計は社外取締役を中心に設計しているとすると、これは監査役を前提に設計している
・最低3名必要で、うち2名が社外監査役。このメンバーを集める必要がある
・社外取締役については、来年会社法が改正され社外取締役の選任が義務化されますが、2015年のコーポレートガバナンス・コードに順守するなら社外取締役2名となっている。やや曖昧なルールだったものが、説明責任を求めるところから段階的に厳しくなり、実務上は1-2名(できれば2名)を選択すればOKなのが現状

東証の資料によると85%以上が2名以上の社外取締役を選任しているとあります。

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監査等委員会設置会社:
・監査役会の代わりに取締役3名以上で構成される監査等委員会を設置
・常勤監査役の設置が不要
・社外取締役が過半数であるため、最低2名の社外取締役が必須
・監査役が不要なので、社外取締役2名がいればこの体制に移行可能
・2015年導入当初は社外取締役が少なかったことで、この仕組みにこうすることで自動的に社外取締役が2名以上を選任する必要があり、社外取締役が増えること自体でガバナンス向上が期待された
・一方で、監査役を社外取締役に横滑りすることで対応できるため、実質的に監査機能が弱まる結果に陥ってしまうという指摘もある(※外部株主から監査等委員会設置会社への移行を反対されたケースもある)
指名委員会等設置会社:
・指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つが必要
・特にガバナンス上重要な取締役を指名し、その報酬を決める権限を明確な委員会に移譲したことで、ガバナンスの大幅な向上が期待される
・監査委員会は社外取締役3名が必要
・指名委員会と報酬委員会は取締役3名以上、社外取締役が過半数なので最低でも2名の社外取締役が必要
・社外取締役の必要人数の観点では監査等委員会設置会社と大きな違いがない。一方で、同じ社外取締役で全ての委員会を運営できるのかはかなり属人性が高く、委員会の運営まで考えると取締役選任のハードルは高い

取締役会とか各委員会ってなんだ

さて、ここまで読んでいただいた方は、「ん?結局社外取締役も2名以上いたらなんとかなりそうだし、3つの設置会社って結局何が違うの?しかも、どのケースでも委員会っていう名称のものが多数掲載されていたけど。」と感じているに違いありません。

ソフトバンク・グループなんて監査役会設置会社だけど、社外監査役3名もいるし、社外取締役も4名いるし、指名報酬委員会だってあるじゃないか、と。しかも指名報酬委員会の社外取締役は過半数。そうなんです。結局、どの形式でもしっかりとした人選と運営ができれば、同じような効果が期待されるのです(法的な選任方法や任期などは細かくは違います)。ソフトバンク・グループの場合は、常勤監査役および監査役会を置くことで監査機能を高めつつ、指名委員会と報酬委員会を分けて作らず(指名委員会等設置会社だと分ける必要がある)効率化している、とも考えられる。監査のプロと経営のプロを分けて、適材適所に配置する思想です。これぐらい社外取締役を選任できる規模の会社だと、色々なガバナンス形態を取り得るという実例です。

取締役会は株主から選任された取締役が経営の重要な意思決定をする場です。非常に重要かつ協力な権限を持っています。委員会はどうかというと、任意で設置している場合は、それぞれ柔軟に(とはいえ会社法やコーポレートガバナンス・コードに沿って)設計が可能です。ソニーグループやコニカミノルタのような指名委員会等設置会社の形式通り運営している会社は、事業の方向性などの意思決定は取締役が最も重要で、指名・監査・報酬において社外取締役の監督機能を強める狙いがあると言えます。

一方、ソフトバンク・グループや楽天であるような「投融資委員会」を例に取ると、より専門的なメンバーで議論できるように人選することで、審議の場を取締役会の外に移し、場合によっては一部権限まで移譲する設計をとっています。これは委員会に監督機能だけではなく、事業の方向性などに関わる意思決定の権限を移譲していると言えます。つまり、取締役会の位置付けを変える存在として委員会が存在しています。

現在、日本では指名委員会等設置会社に移行しているのはごく少数であることをご紹介しました。一方で、社外取締役が過半数である等要件がない形で、委員会を設置している任意設置の会社は極めて多くあります。

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取締役と機関設計

取締役は経営の重要な役割を担います。コーポレート・ガバナンスを語る上で最も重要です。上記の通り形式は様々設計が選択できますし、設計が可能ですが、実効性のあるガバナンスを構築するためには、取締役の人選こそが重要になります。これまで比較してきたどの機関設計を選択するかも大事ですが、ガバナンスを強化すればするほど(=権限が強まるほど)、取締役が誰かを決めて、人選から機関設計を決める方がうまくいくとすら思います。

その中で社外取締役が果たす役割は極めて大きいと思います。委員会の運営においても、委員長が社外取締役であるのか、全員が社外取締役であるのか2/3が社外取締役であるのかで、全く異なる結果となるでしょう。また、その委員会にどのような権限を渡すか(任意の場合)によっても、全く結果が異なります。権限を渡す移譲はその専門家で構成される必要があるため、より人選が重要になるのです。

重要性を理解すれば理解するほど、逆の議論としては「形式要件だけ満たす社外取締役を選任している場合」、業務執行を担う経営者は「他人に経営の重要な部分を任せられない。だから、大きな権限を与えるのはリスクである」という、間違った方向でガバナンスを設計してしまうことにもなりかねないのです。したがって、外部投資家に信頼のおける社外取締役であることはもちろん、業務執行の立場を含めたステークホルダーにとって信頼できるとことが重要です。この信頼は「この人なら空気を読んでくれる」という信頼ではなく、「この人なら正しい判断をしてもらえる。その判断を信頼できる」という信頼であるべきです。

東証の資料でもこの点を踏まえ、社外取締役の各委員会(下記は報酬委員会の例)における比率を公表しています。

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一番強力なのは、委員会メンバーの全員を社外取締役にすることです。さすがにそこまで踏み込んでいるケースが指名委員会等設置会社を選択している企業の中でも1/3未満ですので、かなりのレアケースです。

社外取締役の重要性とその役割

会社法で社外取締役の指名を義務化することや、指名委員会等設置会社という形式が準備されたことは大きな前進です。一方で、それを構成する一番重要なピースは社外取締役だと考えます。日本企業は業務執行の方が得意で、経営が苦手。それは取締役会の監督機能や議論の質が十分に高められてないことと関連します。

業務執行が得意な人の上がりポジション(=昇進)としての取締役ではなく、ここで議論したような取締役会を中心とした各委員会で、経営の最重要な意思決定を委ねるにたる取締役を多く抱えている会社は、経営面で大きなアドバンテージとなるでしょう。業務執行側の経営メンバーの取締役としての能力育成、および社外取締役の人材育成(数も含めて)が非常に重要になると思います。

社外取締役は企業経営に欠けた視点を補うことも非常に重要ですが、当たり前のことを当たり前に追求し続けられる、「空気を読まない力」、「胆力」、「独立性」を持ちつつも、事業や経営との適切な「距離感」を持ち、かつ保ち続けられる関係性や人間性が極めて重要だと思います。そのような社外取締役がいるか否かが、単なるガバナンスの形式基準を満たすようにも圧倒的に大事だと考えています。

またせっかくの社外取締役が有効に機能するために、企業全体、取締役会全体の空気作りや文化づくりも極めて重要です。良い取締役カルチャーを有していれば、大きなリスクに対して見落としは減っていくでしょう。逆に悪い取締役カルチャーではどんな素晴らし社外取締役を迎えて、それが機能することはないでしょう

その点、賛否はありますが、経済産業省が発表した「社外取締役のあり方に関する実務指針」は一読の価値があると思いますし、本noteで書いた問題意識に起因しています。色々と情報はまとまっていますが、特に社外取締役からの声を読むと、多様かつ現場で様々な葛藤とトライアルと繰り返している様子がわかり、非常に勉強になります。

最後に

取締役の役割、noteでも記載した通りですが、再掲します。

1)企業価値を毀損しない
2)安心して投資できるようにする
3)企業価値を高める

今回は機関設計の話を中心に触れていますが、以下の役割を果たすために、どうあるべきかを考えることが大事です。機関設計に加えて、人選という話をしましたが、それぞれの取締役(社内と社外両方)がどのような役割を果たすのか、個も大事ですが集団としてどう機能するか、まさにサッカーのようなスポーツと同様に、個の役割も意識しながら、取締役会として最高のパフォーマンスを目指すべきだと考えています。

「監督」と「助言」に加えて、私は「対外的な説明」も重要だと考えています。あえて、私が挙げた3つの役割に当てはめると以下のようになると思います。

1)企業価値を毀損しない(=監督)
2)安心して投資できるようにする(=監督と対外的な説明)
3)企業価値を高める(=監督と助言と対外的な説明)

この辺りは以下のnoteで触れていますので、興味の湧いたかは是非ご覧ください。以上、ご一読ありがとうございました。

お願い)ざっと書き上げたものですので、紹介している各社ガバナンス設計が現在のものと異なる(事実が異なる)、もしくは法的に間違った表現・内容が含まれている可能性がありますが、ご理解の程お願い申し上げます。

その他参考記事

↑ 経営の意思決定においてあってはいけない、エレファント・イン・ザ・ルームをいかに回避するか。その重要性について解説しています。取締役会から「ゾウ」を撲滅することも大事ですが、日々の小さな会議体、議論から「ゾウ」を撲滅することができれば、ガバンナスにとってもこのカルチャーが大きな武器となると考えています。

↑ スタートアップのガバナンスの考え方を解説しています。難しい機関設計のみに頼るのではなく、ガバナンスを機能させるために重要な点が多くあることを解説しています。その中で特に企業文化の重要性について説明しています。

↑ 説明責任=アカウンタビリティの重要性について解説しています。どんな機関設計をして形式を整えても、アカウンタビリティが発揮されないと意味がありません。日本にガバナンスが広く深く浸透しない原因の一つにアカウンタビリティの軽視があると考えています。

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