チョコではないけれど、気持ちはそれ以上に。
バレンタイン。恋人がいるわたしにとっても、大切なイベントの一つである。
とはいうものの、長く交際を続けていると、誕生日やクリスマスなどのプレゼントの類やバレンタイン・ホワイトデーに贈るもののネタが切れてくる、という問題に誰しもぶち当たると思う。(特に夫婦になるとその問題は顕著だろう)
実際に、知り合いのご夫婦は、プレゼントはもう自己申告制にすると言っていた。(実はうちも採用している)
だが、バレンタインとなると話は別。口では「気にしなくていいよ」と言っていても、内心気にしているのが人間だ。(特に彼は甘いものが好きである)
あいにく、わたしはおかし作りが苦手なので、毎年キットなどの簡単なものか買いチョコで事を済ませていたのだが、今年はやたらとチョコを買ってしまっているのである。
まずは、何を血迷ったか、モロゾフで販売されていたミッフィーの高級チョコレートを買ってしまった。(引き出しが可愛くて……)
お値段がお値段なので、なんとチョコが32個も入っている。
1人で食べきるわけにもいかないので、彼と少しずつ分けて食べた。
そして、わたしが普段利用している食材配達(ヨシケイ)でも、チョコの販売があった。
去年は缶を目当てで購入したのだが、今年の色味もかわいかったので、彼にお願いして買ってもらった。
こうして、また懲りずにチョコが増えたのである。
(※去年とチョコの中身が同内容だったため、写真も取らずに食べてしまったので、公式サイトからチョコの詳細を拝借した)
こうなってくると、さすがにバレンタインにチョコを食べるのが憂鬱になるのが当たり前なわけで……。
今年は買いチョコではなく、手作りでバレンタインのおかしを作ることにした。
さて、おかしを作るとなったものの、うちには致命的な欠点が一つある。
それは、「オーブンがない」ということだ。
以前、ブラウニーを作ったことがあるのだが、それはオーブンのある友人の家で、一緒にバレンタインのおかし作りをする予定で買ったキットであった。
しかし、コロナのせいで予定が流れてしまったため、オーブンのないうちでは途方に暮れていたところ、彼のおかあさんのご厚意でオーブンだけでなくキッチンをお借りすることで事なきを得たのだ。
オーブンを使わずにできるおかしとなると、かなり限定されてくるので、ネタ切れのわたしをどんどんと苦しめていく。
そんな時、役に立つのはインターネットだ。
Instagram、Youtube、レシピを掲載しているサイト……。
わたしが見つけたのは、Youtubeのものだった。
卵焼き器でバウムクーヘン??!!??
衝撃でいっぱいだったが、なんと巻かなくても作れるバウムクーヘンとのこと。
詳しいレシピはこちら↓
材料も簡単なものばかりで、工程も難しくなさそうなので、チャレンジしてみることにした。(ホットケーキミックスというところがポイント高い)
「見た目もかわいらしいので、プレゼントにもぴったりですよ。」という文言にまんまと釣られながら。
来る2/14、バレンタイン当日。
たまたま納期前に仕事が終わっているということもあり、確定申告に血反吐を吐きながら午前中を過ごしたのち、午後から件のおかし作りをはじめた。
かねてより欲しいと思っていたけれど、使用頻度の関係上買うのをためらっていた卵焼き器を、この日のために買っておいた。
卵焼きを作るのが苦手で、何度も練習して最近ようやくそれっぽい形になるように。
ただ、今回は重ねるだけなので巻く必要はないのだけれど、フライパンとは少し仲良くなっているはず。
さて、今回使う材料はこちら。
なんともシンプルな材料である。
やらかしたことと言えば、無塩ではないバターを買ってしまったことだろうか。
あとは、グラニュー糖の代わりにきび砂糖を使っている。
材料を全部混ぜて、ドキドキしながらフライパンに生地を流し込む。
……わたしはホットケーキを焼くのが苦手なことを、今更ながらに思い出した。
ある種、このバウムクーヘンもホットケーキ亜種のようなもの。
焼き加減が難しく、四苦八苦しながらどんどんと重ねていった。
……見た目が卵焼き過ぎる。
どう考えたって、こんなキレイにできないと、この時点で悟ってしまった。
焼き目が綺麗にできなくてしおしおな気持ちと、半生っぽいバウムクーヘン。
我が家のフライパンは、テフロン加工のフライパンではなかったのだ。
それに加えて、どれだけ焦げないように弱火でやっても、焦げて中は半生なホットケーキしか作れないわたし。このレシピはどうやったってミスマッチだったのである。
お菓子作りが苦手なのは、アバウトさやごまかしが効かないところ。
綺麗にできないと、失敗になってしまうこと。
審美性が問われるおかしづくりは、完璧を求められているようで、うまくいかなかったときのダメージが大きいのも苦手な要因の一つだ。
とりあえず焼き上げたバウムクーヘンを、端を切り落として一口大に切る。
やっぱり半生っぽいよな……と、せめてもの追いレンジで熱を加え、あとは生っぽいと感じたら適宜食べるときに電子レンジでチンしてもらうことにして、ラッピングした。(これが告白前や関係性の浅い男性相手へのプレゼントでなくて本当によかった)
かくして、おかしづくりでクタクタになってしまったわたしは、失敗したという後ろめたさを抱えたまま、彼にバレンタインのおかしを渡すこととなったのであった。
彼が仕事から帰ってきて、鼻をくんくんさせながらわたしに近づいてくる。
おかしを作りました、という匂いが家にこもってしまって、しばらく換気していたのだけれど、身体についた匂いまでは取れなかったらしい。
「なんかおいしそうな匂いがする!」とわたしの周りをくるくるするものだから、夕飯の後にしようと思っていたけれど先に渡すことにした。
「少し失敗しちゃった、ごめんね」と言いながら。
バウムクーヘンが丸いもの、という認識の彼は、渡された代物が何かがわからずはてなマーク。見た目も卵焼きだしね。
「ひと口バウムクーヘンだよ」と伝えると、顔を輝かせて喜んでくれた。
「半生かも。ヤバそうだったらチンしてね」と言ってわたしは夕飯の支度に戻る。
おとなしくソファーでバウムクーヘンを食べはじめた彼が、大きな声を上げるまではほんの数秒もかからなかった。
「めちゃくちゃおいしい!!!!」とご飯前にも関わらず、ひょいひょいと消えていくバウムクーヘン。
「半生じゃなかった?」と聞くと、「生地の味しないから大丈夫じゃない?」と言いながらぱくついていたので、多分大丈夫だったらしい。
「全然失敗じゃないよ。めっちゃおいしいしまた食べたい」と、大事そうに包みを抱える彼の姿に、胸がじんとする心地がした。
わたしは切れ端を食べてお腹いっぱいになってしまったのだけれど、彼も「意外とお腹にたまるね」と笑いながら、残りは夕飯後にぺろりと食べていた。
「あと三つしかない」と残念そうに残りのバウムクーヘンを見つめる彼。
「明日の朝に取っておくね」と、大切そうに包みをテーブルの上に置くのを見ると、大変だったし失敗しかけたけど、作ってよかったと心から思えた。
チョコではないけれど、気持ちはそれ以上に。
また今年も、これからもよろしくね。
バレンタインと言えば、去年は企画をやらせていただきました。(※企画は終了しています)
ゆっずうっずさんに書き下ろしていただいた曲がほんとに良い曲なので、また紹介させてください。
切ないようでいて、どこか希望と期待を孕んでいて。
わたしの大好きな「ラ」の音から始まる、雪のように透明で、とても柔らかい曲です。
実らなかった恋も、続いていく恋も。
どうか、甘い夢でやわらかく溶けていきますように。